企業活力を生む経営管理システム
―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
2. 要件2 「見守り役」の6者が連携して監査の効率と品質を高める
(3) 会計監査人(公認会計士、監査法人)
会計監査人(公認会計士又は監査法人[1])は、職業的懐疑心を発揮し、職業的専門家として監査する[2]。
- (注) 公認会計士は、監査・会計の専門家として独立した立場で財務書類その他の財務情報の信頼性を確保することにより、会社等の公正な事業活動、投資者及び債権者の保護等を図り、もって、国民経済の健全な発展に寄与することを使命とする[3]。
守秘義務の壁
公認会計士法27条(守秘義務)
公認会計士は、正当な理由がなく、その業務上取り扱つたことについて知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならない。公認会計士でなくなった後も同様である。
罰則 違反者は2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。(同法52条1項)
ただし、告訴がなければ、起訴できない。(同法52条2項)
欠格事由、登録抹消 上記により禁固以上の刑に処せられて5年を経過しない者は公認会計士となることができない(同法4条2号)。日本公認会計士協会は、これに該当する者の公認会計士の登録を抹消し、その旨を官報に公告する(同法21条1項3号、21条の2)。
- 〔会計監査人が考えている監査役・経営者との連携〕
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監査報告書における「監査上の主要な検討事項(KAM)」の記載は、監査人と監査役等の間のコミュニケーションや、監査人と経営者の間の議論を更に充実させることを通じ、コーポレート・ガバナンスの強化や、監査の過程で識別した様々なリスクに関する認識が共有されることによる効果的な監査の実施につながること等の効果が期待される[4]。
- 〔会計監査人が考えている他の監査人の監査結果・内部監査の結果の利用のあり方〕
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監査人は、(1)他の監査人による監査結果を利用する場合は、重要性・信頼性の程度を勘案して、他の監査人の実施した監査の結果を利用する程度及び方法を決定しなければならない。また、(2)企業の内部監査の目的・手続が監査人の監査の目的に適合するか否か、内部監査の方法・結果が信頼できるか否かを評価した上で、利用の可否を判断する。[5]
① 計算書類の監査[6]
1) 意見の表明
ⅰ) 会計監査人は監査結果に関する意見を、基本的に次のa~dのいずれかで表明[7]する。
a無限定適正意見[8]、b限定付適正意見[9]、c不適正意見[10]、d意見不表明[11]
- (注1) c又はdが表明された企業については、証券取引所において上場廃止が検討される[12]。
- (注2) 2018年7月5日企業会計審議会「監査基準の改訂に関する意見書」において「無限定適正意見」を監査報告書に記載する場合は「経営者及び監査役等の責任」を書くべきことが明記された[13]。監査人・経営者・監査役等には、それぞれの役割分担と責任範囲を再認識(会社法の規定に変更はない)することが求められる。
ⅱ) 上記ⅰ) に加えて「監査上の主要な検討事項(KAMと略称)[14]」を監査報告書に記載する。
2015年に、国際監査基準(ISA)[15]に、KAMを記載すべき旨が取り入れられた。
- (注) 2013年に英国が先行して導入して以降、2014年にEU、2017年に米国等で監査基準の改訂が行われた。
日本でも、監査報告書の透明性を高める観点から、2018年7月5日企業会計審議会で「監査基準の改定に関する意見書」が取りまとめられ、2021年3月決算の監査からKAMの記載が始まる[16]。
- (注) 東証1部上場会社は2020年3月決算からの早期適用が可能である。
2) 万一、監査中に会社の法令違反等を見つけた時の措置
ⅰ) 金融商品取引法[17]
公認会計士又は監査法人が、会社の法令違反等事実を発見したときは、法令違反の是正等の他の適切な措置をとるべき旨を、遅滞なく、会社に書面で通知しなければならない。一定期間内に適切な措置がとられないときは、金融庁長官に申し出なければならない。(申し出る旨を、予め会社に書面で通知する。)
ⅱ) 会社法[18]
会計監査人は、取締役の職務執行に関して不正行為又は法令・定款に違反する重大事実を発見したときは、遅滞なく監査役(会)に報告しなければならない。
② 内部統制の監査[19]
公認会計士又は監査法人は、上場会社等の「内部統制監査」[20]を行い、財務報告に係る内部統制の有効性を経営者が自己評価して作成した「内部統制報告書[21]」に対する監査人としての意見を「内部統制監査報告書」に取りまとめて取締役会等[22]に提出する。
- (注) 財務報告に係る有効な内部統制を維持する責任、及び、内部統制報告書において財務報告に係る内部統制の有効性を評価する責任は、経営者にある。
- (参考)「監査基準」は、「内部統制」の目的及びその基本的要素を次の通りとしている。
〔4つの目的〕
業務の有効性および効率性、財務報告の信頼性、資産の保全、事業活動に関わる法令等の遵守
〔6つの基本的要素〕
統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング(監視活動)、IT(情報技術)への対応
- 〔会計監査人が考えている監査役(会)との連携〕
- ・「監査人は、監査役が行った業務監査の中身自体を検討するものではないが、財務報告に係る全社的な内部統制の評価の妥当性を検討するに当たり、監査役又は監査委員会の活動を含めた経営レベルにおける内部統制の整備及び運用状況を、統制環境、モニタリング等の一部として考慮する。[23]」
-
・「監査人は、効果的かつ効率的な監査を実施するために、監査役又は監査委員会との連携の範囲及び程度を決定しなければならない。[24]」
- 〔会計監査人が考えている他の監査人が行った内部統制監査の結果の利用のあり方[25]〕
- ・「監査人は、他の監査人によって行われた内部統制監査の結果を利用する場合には、当該他の監査人によって行われた内部統制監査の結果の重要性及び他の監査人に対する信頼性の程度を勘案して、他の監査人の実施した監査が適切であるかを評価し、他の監査人の実施した監査の結果を利用する程度及び方法を決定しなければならない。」
- 〔会計監査人が考えている内部監査の業務の利用のあり方[26]〕
- ・「監査人は、内部統制の基本的要素であるモニタリングの一部をなす企業の内部監査の状況を評価した上で、内部監査の業務を利用する範囲及び程度を決定しなければならない。」
-
1 内部監査人等の作業を検証する
監査人は、内部監査人等の作業を自己の検証そのものに代えて利用することはできないが、内部監査人等の 作業の品質及び有効性を検証した上で、経営者の評価に対する監査証拠として利用することが考えられる。 -
2 内部監査人等の作業の品質・有効性の検証にあたって実施すべき手続(例)
a. 作業実施者の能力及び独立性の検討
b. 当該作業の一部についての検証(内部監査等による評価作業の品質・有効性を判断するために行う。)
[1] 会社法329条、337条
[2] 会計監査人は、①金融商品取引法に基づいて、会社が作成した財務諸表・財務情報の適正性を評価する財務諸表監査・内部統制監査(金融商品取引法193条の2第1項・2項)を行い、また、②会社法に基づいて会社の計算書類を監査(会社法436条2項1号。会社計算規則2条3項1号~3号、131条)して、「監査報告書」を作成し、取締役会に提出する。
[3] 公認会計士法1条
[4] 「監査基準の改訂に関する意見書『一経緯』、『二主な改訂点とその考え方1「監査上の主要な検討事項」について(3)「監査上の主要な検討事項」の記載』」(2018年(平成30年)7月5日 企業会計審議会)
[5] 「監査基準『第三実施基準 四他の監査人等の利用1、3』」(2018年(平成30年)7月5日 企業会計審議会)
[6] 会社法436条2項1号。株主総会招集通知に添付される「計算書類」は5~10頁程度(計算関係の頁)の会社が多く、「有価証券報告書」は50頁前後~100頁程度(経理の状況の頁)の会社が多い。
[7] 「監査基準『第四報告基準』」(2018年(平成30年)7月5日 企業会計審議会)
[8] 監査対象とした財務諸表の範囲、及び経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示していると認められる。
[9] ⅰ)会計方針の選択・その適用方法、財務諸表の表示方法が不適切だが、財務諸表全体として虚偽表示にあたるほどではない。除外した不適切な事項及び財務諸表に与えている影響を記載する。ⅱ)重要な監査手続きを実施できなかったが、その影響が財務諸表全体に対する意見表明ができないほどではない。実施できなかった監査手続き及びその事実が影響する事項を記載する。
[10] 会計方針の選択・その適用方法、財務諸表の表示方法に不適切なものがあり、その影響が財務諸表全体として虚偽の表示に当たるとするほどに重要。財務諸表が不適正であるとした理由を記載する。
[11] 重要な監査手続を実施できず、財務諸表全体に対する自己の意見を形成するに足る基礎を得ることができない。意見不表明の理由を記載する。
[12] 日本取引所グループ「上場廃止基準」によれば、次の場合に上場を廃止する。「a.有価証券報告書等に虚偽記載を行った場合であって、直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき」又は「b.監査報告書又は四半期レビュー報告書に「不適正意見」又は「意見の表明をしない」旨等が記載された場合であって、直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき」
[13] 2018年7月5日 企業会計審議会「監査基準の改訂に関する意見書」の「監査基準 第四報告基準 三無限定適正意見の記載事項(3)「経営者及び監査役等の責任」は、「経営者には、財務諸表の作成責任があること、財務諸表に重要な虚偽の表示がないように内部統制を整備及び運用する責任があること、継続企業の前提に関する評価を行い必要な開示を行う責任があること」及び「監査役等には、財務報告プロセスを監視する責任があること」を監査報告書に記載することを求める。
[14] Key Audit Matters(略称KAM。監査上の主要な検討事項)。以下、「監査基準の改訂に関する意見書(2018年(平成30年)7月5日企業会計審議会)」から抜粋。「七 監査上の主要な検討事項 1 監査人は、監査の過程で監査役等と協議した事項の中から特に注意を払った事項を決定した上で、その中からさらに、当年度の財務諸表の監査において、職業的専門家として特に重要であると判断した事項を監査上の主要な検討事項として決定しなければならない。2 監査人は、監査上の主要な検討事項として決定した事項について、関連する財務諸表における開示がある場合には当該開示への参照を付した上で、監査上の主要な検討事項の内容、監査人が監査上の主要な検討事項であると決定した理由及び監査における監査人の対応を監査報告書に記載しなければならない。ただし、意見を表明しない場合には記載しないものとする。」
[15] 国際会計士連盟(IFAC)の中に設置された国際監査・保証基準審議会(IAASB)で審議され、公表された。
[16] 2018年7月5日企業会計審議会の改訂監査基準のうち、報告基準に関わるKAM以外の改訂事項については2020年3月決算に係る財務諸表の監査から適用する。
[17] 金融商品取引法193条の3第1項・2項、194条の7第1項
[18] 会社法397条1項、2項
[19] 2006年6月に金融商品取引法が成立し、その中に「内部統制報告制度」が導入された。2007年2月に「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂に関する意見書」(通称「内部統制の基準・実施基準」、企業会計審議会)が公表されて、監査人及び監査を受ける企業がこの基準の活用・実践に取り組んだ。財務諸表作成者及び監査人他の関係者に過度のコスト負担がかからないように配慮して策定されたが、中堅・中小の上場企業からの更なる簡素化・明確化等を求める声に応えて2011年3月に、運用の改善を中心とする改訂が行われた。
[20] 金融商品取引法施行令4条の2の7第1項、金融商品取引法193条の2第2項
[21] 金融商品取引法24条の4の4第1項
[22] 宛先は取締役会とする例が多いが、代表取締役(社長又は会長)とする例もある。
[23] 「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準Ⅰ.4.(3)」(2011年(平成23年)3月30日 企業会計審議会)
[24] 前掲脚注「実施基準」 Ⅲ.4.(5)
[25] 前掲脚注「実施基準」 Ⅲ.4.(6)
[26] 前掲脚注「実施基準」 Ⅲ.4.(6)