ツバキ・ナカシマ、一部不適合製品の出荷に関する外部調査委員会報告書を開示
岩田合同法律事務所
弁護士 大久保 直 輝
1 はじめに
ベアリング用鋼球等を製造販売するツバキ・ナカシマ(以下「対象会社」という。)は、販売製品に関する不適切な行為(以下「本件不適切行為」という。)[1]があった旨を2018年2月28日付けで公表し、同年3月6日以降、外部調査委員会による調査が行われていたところ、同年5月25日、「外部調査委員会報告書」が公表された。
2 事案の概要
⑴ 発覚の経緯
本件不適切行為は、2017年12月、対象会社の常務執行役であったCAOが同社葛城工場に赴いた際、従業員からの報告を受けたことにより発覚した。
〈不適切行為の概要〉
⑵ 本件不適切行為
(背景事情)
葛城工場は、2016年11月27日に発生した火災の影響により、一時操業停止状態となった。この影響による在庫不足が生じたため、同工場においては、中国所在のグループ会社の工場(太倉工場)製の鋼球等を仕入れて出荷するなどの対策を行うこととした。
(具体的な行為)
太倉工場製の鋼球のうち、品質検査等を経て合格したものは、葛城工場の梱包材で梱包され、「MADE IN JAPAN」と印字されたラベルを貼付されて出荷された。対象会社においては、製品の出荷に当たって、取引先の要求に応じて、鋼材メーカーから入手するミルシート(鋼球の材質を証明する添付文書)を基に製鋼番号や化学成分を記入した鋼球検査成績表を添付していたものの、上記製品は、ミルシートの納入先が中国になっていたため顧客にこれを示すことができないなどの理由から、真正な製鋼番号及び鋼材の化学成分を記入することができず、鋼球検査成績表には他材のミルシートから製鋼番号及び化学成分を転記していた。
3 外部調査委員会の検討結果
外部調査委員会は、上記行為につき①中国所在の工場で生産された鋼球に「MADE IN JAPAN」と印字されたラベルを貼付して出荷する点で原産地の誤認惹起行為に該当する可能性がある、②鋼球検査成績表が実態と齟齬していれば品質の誤認惹起行為に該当する可能性がある[2]と指摘している(不正競争防止法2条1項14号、21条2項1号)。
その上で、同委員会は、不適合製品出荷に至った直接的な原因として、①欠品を出すことに対するプレッシャー、②内部統制機能を担う大阪オフィスと生産現場との情報共有の不足、③製品の品質に問題がなければ構わないといった役職員の意識等を指摘し、組織上の問題点として、①取締役会による監督機能の脆弱性、②妥当性監査について関心が薄く、常勤監査委員が存在しないという監査機能の脆弱性などを指摘している。また、役職員の規範意識が鈍麻していることを指摘し、その原因が新製品を開発して取引先に新規納入することが少なく、同社が製品価格の決定においてイニシアティブをとりにくく、取引先との力関係に変動を生じさせにくいというビジネスモデルにあるものと分析している。
上記の原因分析に基づき、同委員会は、再発防止策として、①代表取締役CEO自身が、組織としての意識改革に取り組むことを宣言する、②中間経営層、現場従業員向けのコンプライアンス研修の場の設置、③受注時に購買、生産管理、製造、品質保証等の各部署の意向を反映させる会議の場の設置、④監査委員会の補助者による積極的な往査の実施、⑤内部監査部門の強化及び監査委員会との連携深化、⑥製品偽装に特化した相談窓口の設置などを提言している。
4 終わりに
同委員会が提言する再発防止策は、企業における不祥事防止の手段として参考になるものと思われる。また、同委員会は、同社のような部材メーカーが自動車メーカー、大手自動車部品メーカーに対して調達に関する交渉力を高める必要があるとして、サプライチェーン全体においてコンプライアンス経営について考えることが必要であると指摘する。
企業の経営者等においては、平素から不祥事のリスクを認識し、役職員のコンプライアンス意識の向上、内部統制システムの構築によるリスク軽減を図るとともに、リスクが現実化したときの対応策について検討することが求められるところであるが、同委員会の指摘するようにそのリスクはサプライチェーン全体の構造の中に存在していることもあり得る。今後は自社のみならず関係他社と共同してコンプライアンス体制を確立することが求められるものと思われる。
以上
[1] なお、同報告書において認定された不適切行為は多岐にわたるが、紙幅の関係上、その一部を紹介するにとどめる。詳細は同報告書を参照されたい。
[2] 鋼球検査成績表の内容が実態と齟齬しており、取引に用いる書類等に品質について誤認させるような表示をしていると評価された場合は、品質誤認惹起行為に該当するとされているが、外部調査委員会報告書において実際に齟齬が生じていたか否かは認定されていない。