東証、上場子会社のガバナンスの向上等に関する
上場制度の整備に係る有価証券上場規程等の一部改正
岩田合同法律事務所
弁護士 柏 木 健 佑
1 上場子会社のガバナンスを巡る動向
2020年2月5日、東京証券取引所は、有価証券上場規程等の一部改正を行うことを公表した。当該改正の趣旨は、上場子会社における独立した意思決定を確保し、少数株主の利益を保護することにあるとされている。
上場子会社のガバナンスを巡っては、2019年6月21日に閣議決定された「成長戦略実行計画」において、新たに指針を策定して親会社に説明責任を求めるとともに、子会社側には、支配株主から独立性がある社外取締役の比率を高めるといった対応を促すとの方針が打ち出されていた。これを受けて、経済産業省は、2019年6月28日にグループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループ・ガバナンス・ガイドライン)(以下「GGS実務指針」という。)を策定・公表している[1]。
今回の東京証券取引所による有価証券上場規程等の一部改正は、GGS実務指針における上場子会社のガバナンスに関する指針について、実効性を高める施策として位置付けられる。
2 有価証券上場規程等の主な改正内容
- ⑴ 独立役員の独立性基準の強化
- 有価証券上場規程において、上場会社は、独立役員(一般株主と利益相反の生じるおそれのない社外取締役又は社外監査役)を1名以上確保することが求められている(有価証券上場規程436条の2)。また、コーポレートガバナンス・コードの原則4-8では、独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきとされている。
- 上場子会社においては、親会社と一般株主との間に利益相反リスクがあることを踏まえ、上場子会社としての独立した意思決定を担保するための実効的なガバナンス体制が構築されるべきである(GGS実務指針6.3.1)が、従来の上場制度においては、親会社又は兄弟会社の業務執行者(会社法施行規則2条3項6号。業務執行取締役に加えて使用人も含まれる。)であっても1年以上経過している場合には独立役員の要件を満たすことが可能であった(下図参照)。
(出典:GGS実務指針参照資料28)
- これに対し、GGS実務指針においては、上場子会社の独立社外取締役には、業務執行を監督する役割を果たすための執行陣から独立性に加え、一般株主の利益を確保する役割も期待されるため、親会社からの独立性も求められる(GGS実務指針6.3.2)ことを踏まえて、少なくとも10年以内に親会社で業務執行を行っていた者は独立社外取締役としては選任しないこととすべきであるとされていた(GGS実務指針6.3.3)。
- 今般、これに合わせて、有価証券上場規程に基づき策定された上場管理等に関するガイドラインが改正されることにより、独立役員の独立性に係る判断基準に、過去10年以内に親会社又は兄弟会社の業務執行者(親会社の場合は、業務執行者でない取締役を含み、社外監査役が独立役員となる場合には監査役を含む。)であった者でない旨が追加されることとなった。
- なお、過去に(10年以上前に)親会社又は兄弟会社の業務執行者であった者を独立役員として指定する場合には、引き続き、その旨及びその概要をコーポレート・ガバナンスに関する報告書に記載することが求められる。
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また、今般の改正に係るパブコメ回答において、形式的に10年を経過している場合であっても、個別具体的な事情により「一般株主と利益相反が生ずるおそれがある」と認められる場合には、独立役員としての要件を満たさないとされていることに留意が必要となる。
- ⑵ グループ経営の考え方等の開示の充実
- GGS実務指針においては、親会社は、グループ全体としての企業価値向上や資本効率性の観点から、上場子会社として維持することが最適なものであるか、定期的に点検するとともに、その合理的理由や上場子会社のガバナンス体制の実効性確保について、取締役会で審議し、投資家に対して情報開示を通じて説明責任を果たすべきであるとされている(GGS実務指針6.2.1)。
- 今般の改正においては、これを受けて、グループ経営に関する考え方及び方針を踏まえた上場子会社を有する意義及び上場子会社のガバナンス体制の実効性確保に関する方策などを、コーポレート・ガバナンスに関する報告書において開示することとされた。なお、上場子会社を有する上場会社が、その上場子会社との間で、グループ経営に関する考え方及び方針として記載されるべき内容に関連した契約(その他の名称で行われる合意を含む。)を締結している場合は、その内容を併せて開示することが望まれるとされていることに留意が必要である。
3 まとめ
上記2⑴の改正については、2020年3月31日以後に終了する事業年度に係る定時株主総会の日の翌日から適用することとされている。上記2⑵の改正については、2020年3月31日以後に終了する事業年度に係る定時株主総会後に提出するコーポレート・ガバナンスに関する報告書から適用するとされている。
上場子会社を有する上場会社や上場子会社においては、改正の適用時期までに、改正を踏まえた対応が必要となる。特に、過去に親会社又は兄弟会社の業務執行者であった者を独立役員としている上場子会社においては、改正後の要件を満たす独立役員候補を探索する必要があり、実務的な影響が大きいことから、遅滞なく準備を進める必要がある。
[1] GGS実務指針については、大櫛健一弁護士による策定時の解説記事(SH2665 経産省、「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」を策定 大櫛健一(2019/07/12)及び同実務指針案に関する拙稿(SH2548 経産省、第16回CGS研究会第2期――グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(案) 柏木健佑(2019/05/21))もあわせて参照されたい。