船舶アレストと戦時徴用訴訟(3)
―商船三井船舶差押え事件に鑑みて―
大阪大学大学院経済学研究科非常勤講師
西 口 博 之
II. 渉外的な船舶アレスト
(2)我が国企業の渉外的な船舶アレスト紛争
(ロ)国際倒産による債権確保のケース
- 三光汽船事件[i]
三光汽船は昭和60年に倒産したが、その重要な会社資産である船舶は世界中に存在し海外での債権者も多いため、同社の会社更生申し立てにより債権者は競って同社の海外にある船舶の差し押さえを図った。
我が国会社更生法4条1項では、同社の会社更生手続きは海外にある船舶に効力を有しないため海外での債権者の同社船舶の差し押さえは制限がない。
このため、本件の場合、保全管理人が差し押さえの可能性のある外国債権者との間に債権額の相当割合を支払う形で和解に持ち込み、会社更生開始決定が可能となった。
- 小山海運事件[ii]
小山海運は、昭和50年に倒産し会社更生手続きを申請したが認められず、同年8月2日破産宣告を受けた。
同社の所有船は全て国際航路に就航しており、海外で船舶を指し押さえされる可能性が会社更生法の適用が困難とされた一因でもあった。
本件に関連しては、同社の香港における子会社KCWの清算に関連して残用財産の配分に関する紛争が生じて話題となった。
- 一成汽船事件[iii]
一成汽船は、4隻の船舶を有する船会社であるが、会社更生手続き開始決定がなされ会社更生手続き中に、カナダにおいて抵当権を有する国内債権者によってその一隻が差押さえられ競売を申し立てられた。更生管財人はカナダの裁判所に差押さえの取り消しと競売申立棄却を申し立てたが、その申立ては却下された。