警察庁、平成26年度「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」に関するアンケート(調査結果)を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 鬼 丸 のぞみ
政府は、平成19年6月に、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(以下「本指針」という。)を策定した。本指針は、暴力団の稼働形態が不透明化を進展させ、資金獲得活動を巧妙化させていることを踏まえ、反社会的勢力との関係遮断のための取り組みを一層推進し、反社会的勢力による被害を防止するための基本的な理念や具体的な対応をとりまとめたものである。基本原則として、①組織としての対応、②外部専門機関との連携、③取引を含めた一切の関係遮断、④有事における民事と刑事の法的対応、⑤裏取引や資金提供の禁止を掲げている。
本指針の策定から7年が経過した平成26年7月に、全国の企業1万社を対象にアンケート調査が行われた。反社会的勢力による不当要求の有無やその内容、本指針に基づいた反社会的勢力との関係遮断の取り組み状況、行政機関への要望等についてのもので、その結果が同年11月に発表された(アンケート回収率27.0%)。これによると、企業における本指針の認知度は半分強に留まるものの、実際に本指針に沿った取り組みを行った企業は、回答した全企業のうち約44%にのぼった。具体的な取り組み内容としては暴力団排除条項を盛り込んでいる(または盛り込む予定である)企業が9割近くにのぼり、そのほかにも反社会的勢力対策の基本方針を策定し、社内・外に示すなど、様々な対策をとっていることがわかった。もっとも、過去5年間に実際に不当要求を受けた企業が全体の4%あり、そのうち、一部又は全部応じてしまった企業が約2割近く(22社)にのぼり、うち4社(約0.5%)が500万円以上の要求に応じたことが判明した。
本指針の策定から7年経った今もまだ対策は十分に浸透したとはいえない結果となった。しかし、不当要求に応じて反社会的勢力に資金提供をしてしまうと、それ自体がさらに弱みとなり、更なる不当要求につながるとともに、暴力団の犯罪行為等を助長する効果もあり、企業のガバナンス上も取締役の善管注意義務違反に問われる可能性がある[i]など非常に問題が多いため、反社会的勢力を利するような行為は絶対に避けるべきである。対応を行っていない企業の中には、その理由として今まで反社会勢力による不当要求を受けたことがないからということを挙げているところもあるが、実際に反社会的勢力による不当要求は機関誌の購読の要求等、普通の企業に対しても様々な形で行われていることから、今まで不当要求を受けたことがなかったとしても、他人事と思わずに、対策を開始することが必要である。具体的には、取引先との契約において暴力団排除条項を入れることが最初の対策として簡便と考えられる。暴力団排除条項は、一般的に、取引先に暴力団員やその関係者等ではないことを表明させ、もし取引先が暴力団員やその関係者等であった場合や、事後的にそうなった場合には取引を解除できるなどの内容を含むものであり、これにより、万が一取引先が暴力団員やその関係者であった場合等に速やかに法的に取引を解消することができる。
本指針策定から7年以上経た現在、反社会的勢力に対する世論の変化を受け全都道府県で暴力団排除条例が制定されており(例えば、東京都暴力団排除条例においては、事業者が暴力団の威力を利用する目的や暴力団の活動を助長する目的で利益を提供してはならないなどの内容も定められている。)、反社会的勢力との取引が発覚した際には大きく報道されるなど社会的問題となっているところ、今回のアンケート結果を受けてさらに反社会的勢力との取引に対する当局や社会の目も厳しくなることが予想されることから、本指針に則った対策がより一層企業で進むことになると思われる。
上記に挙げた以外にも様々なアンケート結果が上記リンク先に記載されているので、興味を持たれた方はご参照いただきたい。
本指針に沿った取り組みをしたと答えた企業について、その取組み内容
出典:平成26年度「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」に関するアンケート(調査結果)
[i] 上場企業が、暴力団関係者に脅されて約300億円もの巨額の資金を融資等の名目で交付したことについて、「証券取引所に上場され、自由に取引されている株式について、暴力団関係者等会社にとって好ましくないと判断される者がこれを取得して株主となることを阻止することはできないのであるから、会社経営者としては、そのような株主から、株主の地位を濫用した不当な要求がされた場合には、法令に従った適切な対応をすべき義務を有するものというべきである。」として役員の個人責任を認め(最判平成18年4月10日・蛇の目ミシン工業事件、差戻後の東京高判決平成20年4月23日)、同暴力団関係者に脅されて約1600億円もの債務の肩代わりを行ったことについても同様に利益供与として役員の個人責任を認めた(同最判、同東京高判)ものなどがある。
(おにまる・のぞみ)
岩田合同法律事務所アソシエイト。2008年3月慶応義塾大学法科大学院卒業。2010年1月東京地裁判事補任官、2013年4月「判事補及び検事の弁護士職務経験に関する法律」に基づき弁護士登録。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。
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