◇SH0050◇パートタイム労働法の改正 荒田龍輔(2014/08/01)

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パートタイム労働法の改正

岩田合同法律事務所 

弁護士 荒 田 龍 輔

 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「パートタイム労働法」という)の一部を改正する法律が平成26年4月23日に公布され、施行日は平成27年4月1日とされている。かかる施行まで残り9ヶ月を切っているが、当該改正は雇用が多様化している現在において、注視すべきものであるといえる。

 現行のパートタイム労働法では、短時間労働者(以下「パートタイム労働者」という)について、(1)職務内容が正社員と同一、(2)人材活用の仕組み(人事異動等の有無や範囲)が正社員と同一、(3)無期労働契約を締結しているパートタイム労働者であることの3つの要件を満たす場合に正社員との差別的取扱いが禁止されている(同法第8条第1項)。しかしながら、パートタイム労働者の労働契約は有期であることが多く、同条の対象となる者は必ずしも多くないため、パートタイム労働者の保護として同項は不十分であるとの指摘がなされていた。

 そこで、パートタイム労働者の雇用管理の改善等を図るため、差別的取扱い禁止の対象となるパートタイム労働者の対象の拡大をはじめとした今回の改正が行われることとなった。

 今回は、かかる改正のうち、事業者にとって、実務上、影響が大きいと思われる差別的取扱い禁止の対象となるパートタイム労働者の拡大について、特に取り上げることとしたい(その他の当該改正の概要については、末尾の図を参照)。

 すなわち、今回の改正により、パートタイム労働者において、上記(1)及び(2)の要件に該当すれば、有期労働契約を締結しているパートタイム労働者であっても正社員との差別的取扱いが禁止されることになり、現行のパートタイム労働法よりも差別的取扱い禁止の対象者が拡大する。

 そのため、正社員とパートタイム労働者の待遇を区別する事業主においては、就業規則や職務分掌等で業務内容や転勤の範囲等を明確に区別しておかなければ、両者間の待遇に差異を設けることが困難となる。他方で、上述のように就業規則等において、両者の職務内容等を明確に区別しても、それらの運用上、両者の職務内容や人材活用の仕組みが同一と判断され得る場合には、パートタイム労働者と正社員が同一であるとされ、両者間の待遇の区別が、今回の改正後のパートタイム労働法に抵触するおそれがあり、この点についても注意が必要である(大分地裁平成25年12月10日判決[1]参照)。

 いずれにせよ、今回の改正後、事業主は、正社員とパートタイム労働者の待遇を区別する場合には、職務規程等を整備しつつ、規程等の運用を慎重に行っていく必要があろう。

以上



[1] 正社員とパートタイム労働者間の待遇について、転勤の範囲や出向について就業規則上、両者間に差異があったが、配転や出向の運用実態には大きな差異がなく、かつパートタイム労働者からもチーフ(注:複数のグループ長(5~7名の運転手からなるグループの責任者)を監督する立場)等が任命されていたこと等が考慮され、両者間に実質的な差異がないとして、両者間の待遇の区別についてパートタイム労働法違反と判断され、不法行為に基づく損害賠償責任が認容された事案(但し、控訴されている)。

 

【改正の概要】

 ● パートタイム労働者の均等・均衡待遇の確保

  ① 通常の労働者との差別的取扱いが禁止される通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者の範囲の拡大(詳細は本文参照)

  ② パートタイム労働者の待遇の原則の新設

   :今回の改正による新設規定であるが、事業主が、パートタイム労働者と正社員間の待遇を相違させる場合、かかる相違は、職務の内容、人材活用の仕組み、その他の事情を考慮して、不合理であってはならないとする原則規定が設けられる。

 ● パートタイム労働者の納得性を高めるための措置

  ③ パートタイム労働者の雇入時の事業主による説明義務の新設

   :現行のパートタイム労働法第13条では、事業主は、パートタイム労働者からの要請に基づき、賃金等の待遇決定にあたり考慮した事項に係る説明義務を負うが、改正後は、これに加え、パートタイム労働者に対し、雇入後速やかに、賃金制度及び教育訓練等について説明しなければならない。

 ● その他

  ④ パートタイム労働者からの相談に対応するための事業主による体制整備の義務の新設

  ⑤ 雇用管理の改善等に関する措置の規定違反を理由として、厚生労働大臣が是正勧告をしたにもかかわらず、 事業主がこれに従わなかった場合の事業主名の公表を可能とする規定の新設

(あらた・りゅうすけ)

岩田合同法律事務所アソシエイト。2006年九州大学法学部卒業。2008年九州大学法科大学院修了。2009年弁護士登録。主な取扱い分野は紛争であり、弁護士登録後、事業会社~金融機関等の幅広い企業や個人の代理人として多くの訴訟等にかかわっている。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

 

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