◇SH0468◇最二小判 平成27年7月17日 所得税更正処分取消等、所得税通知処分取消請求事件(千葉勝美裁判長)

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 本件は、米国デラウェア州の法律に基づいて設立されたリミテッド・パートナーシップが行う中古集合住宅の賃貸事業に係る投資事業に出資した投資家らが、当該賃貸事業により生じた所得が同人らの不動産所得(所得税法26条1項)に該当するとして、その所得の金額の計算上生じた損失の金額を同人らの他の所得の金額から控除して所得税の申告又は更正の請求をしたところ、所轄税務署長から、上記のような損益通算をすることはできないとして、それぞれ所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分又は更正をすべき理由がない旨の通知処分を受けたことから、上記各処分(ただし減額更正後のもの)の取消しを求める事案である。

 

2 事実関係の概要

 (1) 本件の原告又は被承継人(以下「本件出資者ら」という。)は、外国信託銀行との間で信託契約を締結した上で、この信託銀行を通じて、米国所在の中古集合住宅の賃貸事業に係る投資事業に出資した。この信託銀行は、米国デラウェア州の会社等との間で、デラウェア州改正統一リミテッド・パートナーシップ法(以下「州LPS法」という。)に基づいて、2件のパートナーシップ契約を締結し、2つのリミテッド・パートナーシップ(以下「本件各LPS」という。)を設立した。そして、本件各LPSは、当該建物を第三者に賃貸する事業を行った。
 本件出資者らは、この賃貸事業により生じた所得が同人らの不動産所得に該当するとして、損益通算をした上で所得税の申告等をしたところ、所轄税務署長がこれを否認して更正処分等をしたために、その処分等の取消しが請求されたものである。

 (2) 本件の中心的な争点は、外国法に基づいて設立された事業体ないし組織体(以下「外国事業体」という。)が我が国の租税法上の法人に該当するか否かにつき、いかなる判断枠組みを採用することが相当か、また、かかる判断枠組みを前提に本件各LPSが我が国の租税法上の法人に該当するか否かというものである。これは、(1)に述べた損益通算をするに当たり、本件各LPSが実施した事業の損益が本件各LPSそのものに帰属するか、あるいはその構成員に帰属するかが問題となり、その点を判断する前提として、本件各LPSが我が国の租税法上の法人に当たるか否かが問題とされたものである。

 

3 第1審及び原審の判断

 (1) 本件の第1審(名古屋地判平成23・12・14税資261号順号11833)、原審(名古屋高判平成25・1・24税資263号順号12136)とも、本件各LPSが我が国の租税法上の法人には該当せず、我が国の租税法上の人格のない社団等にも該当しないとした上で、本件各LPSが行う不動産賃貸事業により生じた所得は本件出資者らの不動産所得に該当するから、その不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは損益通算をした上で総所得金額及び納付すべき税額を算定すべきであり、上記のような損益通算をすることはできないとしてされた更正処分等は違法であるとして、これらを取り消すべきものとした。

 (2) その一方で、本件と同一の賃貸事業に係る投資事業に出資した者につき、当該事業により生じた損失と同人らの他の不動産所得とを損益通算することができるか否かが争われた事案として、① 大阪地判平成22・12・17判タ1369号145頁とその控訴審である大阪高判平成25・4・25税資263号順号12208(以下「大阪事件」ということがある。)、② 東京地判平成23・7・19判タ1400号180頁とその控訴審である東京高判平成25・3・13訟月60巻1号165頁(以下「東京事件」ということがある。)がある。これらの2件の控訴審は、いずれも本件各LPSが我が国租税法上の法人に当たるとして、上記の損益通算をすることはできないと判断しており、高裁段階での判断が分かれていた状況にあった。

 

4 本判決の判断の概要

 本判決は、まず、外国事業体が所得税法2条1項7号及び法人税法2条4号(以下「所得税法2条1項7号等」という。)に定める外国法人に該当するか否かを判断するための枠組みを示した。すなわち、まず、① 当該組織体に係る設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから、当該組織体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否かを検討することとなり、これができない場合には、② 当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか否かを検討して判断すべきものであり、具体的には、当該組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から、当該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が当該組織体に帰属すると認められるか否かという点を検討することとなるものと解されるとした。
 そして、本判決は、州LPS法の定めの内容等を検討した上で、本件各LPSが自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が本件各LPSに帰属するものということができるから、権利義務の帰属主体であると認められ、そうすると、本件各LPSは、所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するものというべきであるなどとした上で、本件出資者らは、本件各LPSが行う不動産賃貸事業による所得の金額の計算上生じた損失の金額を各自の所得の金額から控除することはできないと判断した。

 

5 説明

 (1) はじめに

 近年、外国事業体が我が国において事業活動を行うとともに、我が国の個人又は法人が、外国において事業活動を実施するために外国事業体を設立又は組成し、あるいは、外国事業体の出資をするなどの経済活動が活発化しており、これに伴う課税上の取扱いが問題とされる事案が増加しているようである。そして、そのような経済活動に係る課税上の取扱いを決定する前提として、外国事業体の法的性質について検討すべき必要が生じる場合が多いものと考えられる。
 しかし、所得税法は、外国法人について「内国法人以外の法人をいう。」とのみ定義しており(2条1項7号。法人税法2条4号も同様。他方、内国法人は「国内に本店又は主たる事務所を有する法人をいう。」と定義されている。所得税法2条1項6号、法人税法2条3号。)、「法人」についての定義をしていないことから、外国事業体が所得税法等にいう法人に該当するか否かに係る判断方法は解釈により決するほかはないといえる。また、我が国の法令に基づいて設立された事業体について、それが租税法上の法人であるか否かについて紛争が生じることは通常は考え難いものの、外国事業体については、いかなる範囲の事業体に我が国の法人に相当する法的地位を付与するかやその際の手続的規律が国又は地域により様々であり、我が国の法令(例として、会社法3条、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律3条など)のように、その設立準拠法令において、当該外国事業体に我が国の法人に相当する法的地位を付与する旨が明記されているとは限らないことから、外国事業体が我が国租税法上の法人に当たるか否かの判断に困難を来す場合があるのが実情である。

 (2) 学説、下級審裁判例の傾向等について

 前記のとおり、所得税法は、外国事業体が我が国の租税法上の法人に該当するか否かに係る判断方法については特に定めていないところ、いかなる方法によりこれを判断するかについては、学説上、様々な見解が唱えられており、本件の第1審、原審も含め、下級審裁判例における見解も分かれている状況にある(これらの学説等の状況について指摘する文献として、藤澤尚江・ジュリスト1447号131頁、藤谷武史・ジュリスト1470号103頁など)。その中で、有力と考えられる見解として次の2説を指摘することができ、本件の第1審、原審のほか、大阪事件及び東京事件の第1審、原審の立場もそのいずれかに分類することが可能であると考えられる。

  1.   ア 外国私法基準説
     外国事業体の設立準拠法国(地域)の法令により、当該事業体に法人格を付与されているか否かを検討すべきとする見解である。
     この見解は、さらに、① 専ら外国事業体の設立根拠法令に法人格を付与する旨の規定が設けられているかという観点から検討すべきとする見解、② 設立根拠法令に法人格を付与する規定が設けられているかとの観点に加え、設立根拠法令の設立、組織、運営及び管理等に係る規定内容といった実質的な観点も考慮して、当該設立根拠法令が当該事業体に法人格を付与しているか否かを判断すべきとする見解、③ ①の方法により判断することを基本としつつ、補助的に当該事業体の実質的な属性等に着目した判断基準を併用する見解に分類される。
     東京事件及び大阪事件の控訴審判決は上記②の見解に分類することが可能であると考えられる。他方、本件の第1審判決、原審判決及び東京事件の第1審判決は上記③の見解に分類することが可能であり、これらの判決は、当該組織体が「損益の帰属すべき主体」として設立が認められたものといえるか否かを補助的な判断要素として指摘する。
  2.   イ 内国私法基準説
     我が国の私法において法人がいかなる属性を有するとされているかを検討した上で、当該外国事業体がそのような属性を有するかにより法人該当性を判断すべきとする見解である。
     この内国私法基準説を採った場合に、法人のいかなる属性に着目すべきかについては見解が分かれ得るが、当該外国事業体が権利義務の帰属主体であること、具体的には、当該外国事業体が自ら法律行為の当事者となることができることや、法律行為の効果が当該外国事業体自体に属すると認められることに着目すべきであるという点が内国私法基準説に立つ論者から共通して指摘されているように見受けられる。
     大阪事件の第1審判決は、この内国私法基準説に分類することが可能であると考えられる。

 (3) 本判決が採用する外国事業体の我が国租税法上の法人該当性の判断の方法について

  1.   ア 本判決は、外国事業体の我が国租税法上の法人該当性の判断の方法につき、まず、① 外国事業体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否かを検討し(以下「判断方法1」という。)、それができない場合に、② 外国事業体が権利義務の帰属主体であると認められるか否かを検討して判断すべき(以下「判断方法2」という。)と判示するところ、(2)に述べた外国私法基準説又は内国私法基準説の一方のみを採用するものではなく、両者の見解を踏まえた上でいわばこれを統合した判断方法を示しているものと考えられる。
     ただし、本判決が、「ある組織体が法人として納税義務者に該当するか否かの問題は我が国の課税権が及ぶ範囲を決する問題である」と指摘するなどした上で、「外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否かは、当該組織体が日本法上の法人との対比において我が国の租税法上の納税義務者としての適格性を基礎付ける属性を備えているか否かとの観点から判断することが予定されている」と判示しており、これは内国私法基準説の理論的根拠として指摘されているところに通ずるものと考えられる。その一方で、「外国事業体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されているか否か」という外国私法基準説と親和的な判断要素について、「疑義のない程度に明白」との限定を付していることなどからすると、本判決は、内国私法基準説の考え方を基本にするものと評価することが可能であり、その上で、「外国事業体が権利義務の帰属主体であると認められるか否か」との属性を基本的な判断要素と捉えているものと考えられる。
  2.   イ 上記アのような理解を前提にした場合に、本判決が、判断方法1についてまず検討すべきものとした理由が問題となり得るが、本判決は特段の判示をしていない。この点については、当該設立根拠法令の内容を外形的、客観的に検討することにより、法人該当性の有無が一義的に明白である場合は、当該国又は地域の法人概念の詳細に立ち入るまでもなく法人該当性を判断することが可能であるという、いわばスクリーニング的な方法として判断方法1を定立したと理解することも考えられよう。
     また、本判決は、判断方法1において、外国事業体の設立根拠法令のうちいかなる規定に着目するかについて特段の判示をしていない。この点については、本判決が、後記のとおり州LPS法の「separate legal entity」との文言に着目して本件各LPSの法人該当性につき検討を加えていることからもうかがわれるように、外国事業体の設立根拠法令において当該事業体の属性を表現する文言が用いられているか否かに着目し、そのような文言が用いられているのであれば当該文言の意義を検討するといった判断方法が念頭に置かれているものと考えられる。
  3.   ウ その一方で、本判決は、「外国事業体が権利義務の帰属主体であると認められるか否か」との属性を基本的な判断要素と捉えた理由についても特段の判示をしていない。この点については、我が国において権利義務の帰属主体性が法人概念の中核的なものとされていることには異論がないと考えられることや(民法の体系書等においては、法人の意義について「自然人以外のもので、権利義務の主体となることができるもの」などと説明されることが一般的である。その例として我妻榮『新訂民法総則』(岩波書店、1965)45頁など)、現在の我が国において非法人であるにもかかわらず権利義務の帰属主体であるとされる事業体ないし組織体は見当たらないことを踏まえたものと考えられる。
     そして、本判決は「外国事業体が権利義務の帰属主体であると認められるか否か」ということの具体的な内容を明らかにする趣旨で、「当該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が当該組織体に帰属すると認められるか否か」との判断要素を指摘したものと考えられる。

 (4) 本判決が判示した判断方法の当てはめについて

  1.   ア 本判決は、州LPS法に基づいて設立されるリミテッド・パートナーシップが「separate legal entity」となるものと定められていることをもって、本件各LPSに日本法上の法人に相当する法的地位が付与されているか否かを疑義のない程度に明白であるとすることは困難であると判示して、判断方法1によっては、本件各LPSが我が国租税法上の法人該当性を判断することはできないとした。
     これは、米国におけるパートナーシップの法的性格に係る議論(米国のパートナーシップの概要等については、江頭憲治郎「『外国会社』とは何か―持分会社に相当するものの場合」早法83巻4号(2008)8頁以下、國生一彦『アメリカのパートナーシップの法律』(商事法務研究会、1991)10頁以下、大杉謙一「法人(団体)の立法のあり方について・覚書」日本銀行金融研究所ディスカッションペーパーシリーズ(2000)6頁以下など)を踏まえた上で、「legal entity」との概念が、デラウェア州法を含む米国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を指すものであることが明確であるとまでは判断し難いとするとともに、日本法上の法人に相当する法的地位が付与されていることにつき異論がないものと考えられるデラウェア州一般会社法(General Corporation Law of the State of Delaware)における株式会社(corporation)について「a body corporate」という文言が用いられており(同法106条)、「separate legal entity」との文言は用いられていないことなどを考慮したものと考えられる。
  2.   イ 次に、本判決は、判断方法2に基づく検討として、州LPS法の規定内容について検討を加えている。ここでは、州LPS法が、リミテッド・パートナーシップにつき、営利目的か否かを問わず、一定の例外を除き、いかなる合法的な事業、目的又は活動をも実施することができる旨を定めるとともに(106条(a)項)、同法若しくはその他の法律又は当該リミテッド・パートナーシップのパートナーシップ契約により付与された全ての権限及び特権並びにこれらに付随するあらゆる権限を保有し、それを行使することができる旨を定めていること(同条(b)項)が指摘された上で、これらの規定が、同法がリミテッド・パートナーシップにその名義で法律行為をする権利又は権限を付与するとともに、リミテッド・パートナーシップ名義でされた法律行為の効果がリミテッド・パートナーシップ自身に帰属することを前提とするものと解されるとし、このことが、同法において、パートナーシップ持分(partnership interest)がそれ自体として人的財産(personal property)と称される財産権の一類型であるとされ、かつ、構成員であるパートナーが特定のリミテッド・パートナーシップ財産について持分を有しないとされていること(701条)とも整合するなどと指摘された上で、本件各LPSは、自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が本件各LPSに帰属するものということができるから、権利義務の帰属主体であると認められるとして、本件各LPSが所得税法2条1項7号に定める外国法人に該当すると判断された。

 

6 本判決の意義

 本判決は、外国事業体が我が国の租税法上の法人(外国法人)に該当するか否かに係る判断の方法を最高裁として初めて判断を示したものであり、課税実務に与える影響は大きいものと考えられる。
 また、州LPS法に基づいて設立された本件各LPSが我が国租税法上の法人(外国法人)に該当するとされたことは、諸外国の多数の事業体の一つについてその法人該当性について判断を示した一事例にとどまるが、今後、諸外国の法令に基づいて設立されたリミテッド・パートナーシップないしそれに類する事業体の法人該当性が問題となった場合における判断の参考になるものと考えられる。

 

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