◇SH3415◇最三小判 令和2年6月30日 不指定取消請求事件(宮崎裕子裁判長)

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 ふるさと納税制度に係る平成31年総務省告示第179号2条3号の規定のうち、地方税法37条の2及び314条の7を改正する平成31年法律第2号の規定の施行前における寄附金の募集及び受領について定める部分の法適合性

 ふるさと納税制度に係る平成31年総務省告示第179号2条3号の規定のうち、地方税法37条の2及び314条の7を改正する平成31年法律第2号の規定の施行前における寄附金の募集及び受領について定める部分は、上記規定による改正後の地方税法37条の2第2項及び314条の7第2項の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効である。
(補足意見がある。)

 地方自治法245条の2、247条3項、地方税法37条の2第2項、314条の7第2項、平成31年総務省告示第179号1条、2条3号

 令和2年(行ヒ)第68号 最高裁令和2年6月30日第三小法廷判決 不指定取消請求事件 破棄自判(民集74巻4号800頁)

 原 審 令和元年(行ケ)第7号 大阪高裁令和2年1月30日判決

1 事案の概要

 本件は、総務大臣(Y)が、泉佐野市につき、いわゆるふるさと納税を受け入れる地方団体(都道府県、市町村又は特別区)としての指定をしない旨の決定(以下「本件不指定」という。)をしたことから、泉佐野市長(X)が、本件不指定は違法な国の関与に当たると主張して、地方自治法251条の5第1項に基づき、Yを相手に、本件不指定の取消しを求めた事案である。

2 事実関係等の概要

(1) ふるさと納税制度とは、個人住民税の納税義務者の地方団体に対する寄附金(以下、単に「寄附金」という。)のうち一定額を超える額について、所得税の所得控除及び10%相当額の個人住民税の税額控除に加えて、個人住民税の税額控除の金額に所定の上限額の範囲内で特例控除額の加算(以下「特例控除」という。)をするという制度であり、これによれば、上記上限額の範囲内であれば、寄附金のうち上記一定額を超える部分の全額が、所得税及び個人住民税から控除される。

(2) ふるさと納税制度の創設当時、地方団体が寄附金の受領に伴い提供する物品、役務等(以下「返礼品」と総称する。)について特に定める法令上の規制は存在しなかったが、地方団体による返礼品の提供競争の過熱等を受けて、総務大臣は、平成29年及び同30年、地方団体に対する地方自治法245条の4第1項の技術的な助言として、返礼品について返礼割合を3割以下とすること及び地場産品に限ることを求める旨の各通知を発した。しかし、複数の地方団体はこれに従わなかった。

(3) 平成31年法律第2号(平成31年3月27日成立)による地方税法の一部改正により、特例控除の対象となる寄附金について、所定の基準に適合する地方団体として総務大臣が指定するものに対するものに限られるという制度(以下「本件指定制度」という。)が導入された。上記法律のうち、本件指定制度の導入等を内容とする地方税法37条の2及び314条の7の改正規定(以下「本件改正規定」という。)は、令和元年6月1日から施行された。

 地方税法(本件改正規定による改正後のもの。以下同じ。)37条の2(なお、同法314条の7は同様の内容を規定するものであるため、以下、その記載は省略する。)は、指定の基準として、「寄附金の募集の適正な実施に係る基準として総務大臣が定める基準」(2項柱書き。以下「募集適正基準」という。)に適合すること及び返礼品等を提供する場合には返礼割合が3割以下かつ地場産品であること(同項1号、2号。以下「法定返礼品基準」という。)を規定している。

(4) 総務大臣は、平成31年4月1日、地方税法37条の2第2項に基づき、募集適正基準等を定める告示(平成31年総務省告示第179号。以下「本件告示」という。)を発した。本件告示のうち2条3号は、募集適正基準の一つとして、平成30年11月1日から指定の申出書を提出する日までの間に、ふるさと納税制度の趣旨に反する方法により他の地方団体に多大な影響を及ぼすような寄附金の募集を行い、当該趣旨に沿った方法による寄附金の募集を行う他の地方団体に比して著しく多額の寄附金を受領した地方団体でないことを定めていた。

(5)ア 泉佐野市は、平成29年度及び同30年度において、全地方団体の中で最も多額の寄附金を受領していたところ、その申出によれば、平成30年11月1日から同31年3月31日までの期間においても、返礼割合が3割を超え又は地場産品ではない返礼品を提供していた。また、同市は、平成30年12月から令和元年5月まで断続的に、従来の返礼品に加えて寄附金額の最大40%相当のアマゾンギフト券を交付するとして、寄附金の募集をした。

 イ(ア) 泉佐野市は、平成31年4月5日付けで、Yに対し、初年度(令和元年6月1日~同2年9月30日)に係る指定の申出(以下「本件指定申出」という。)をした。

 (イ) これに対し、Yは、令和元年5月14日付けで、①申出書及び添付資料の内容が指定の基準に適合していることを証するとは認められないこと(不指定理由①)、②本件告示2条3号に該当しないこと(不指定理由②)及び③法定返礼品基準に適合するとは認められないこと(不指定理由③)を理由に、本件不指定をした。

 ウ(ア) Xは、令和元年6月10日、本件不指定に不服があるとして、地方自治法250条の13第1項に基づき、国地方係争処理委員会に対し、審査の申出をした。同委員会は、同年9月3日付けで、同法250条の14第1項に基づき、Yに対し、不指定理由①及び②は不指定の根拠とならず、不指定理由③については更に検討を要する状況にあるとして、本件指定申出について再度の検討を行うことを勧告した。

 (イ) Yは、令和元年10月3日付けで、Xに対し、再度の検討を行った結果、不指定理由①については独立した理由として扱わないこととするが、不指定理由②及び③については判断を維持することとした旨の通知をした。

 (ウ) Xは、Yの上記の措置に不服があるとして、令和元年11月1日、地方自治法251条の5第1項2号に基づき、本件訴えを提起した。

3 訴訟の経過

(1) 本件訴訟における主たる争点は、本件告示2条3号の規定の適法性であり、特に、同号が本件改正規定の施行前の期間における寄附金の募集及び受領を指定の基準として定める点において、地方税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱するものか否かが問題となった。

(2) 原審は、本件告示2条3号の規定は地方税法37条の2第2項の委任の範囲内で定められた適法なものであると判断した上で、泉佐野市は同号に定める基準を満たさず指定の要件を欠くから、不指定理由②には理由があり、これによれば本件不指定は適法であるとして、Xの請求を棄却した。なお、原審は、不指定理由③は手続的に問題とする余地があるが、不指定理由②により指定の要件を欠く以上、その点が本件不指定の違法をもたらすものではないとした。

(3) Xが上告受理の申立てをしたところ、最高裁第三小法廷は、上告を受理した上、判決要旨のとおり判示して、不指定理由②を不指定の理由とすることはできないとし、また、不指定理由③を不指定の理由とすることもできないとして、不指定理由②及び③を理由とする本件不指定は違法であると判断し、原判決を破棄して本件不指定を取り消す旨の自判をした。

4 説明

(1) 本件告示の法的性質等

 一般に、行政機関が法条の形式をもって定めを置く場合、当該定めは、法規命令(行政主体と国民の関係の権利・義務に関する一般的規律を定めるもの)と行政規則(行政機関相互を拘束するが、国民の権利・義務に直接関係しないもの)とに分類され、このうち法規命令の策定には法律の授権(委任)が必要であるとされている(塩野宏『行政法Ⅰ――行政法総論〔第6版〕』(有斐閣、2015)102頁以下、宇賀克也『行政法概説Ⅰ――行政法総論〔第7版〕(有斐閣、2020)299頁以下)。この点、本件告示は、本件指定制度の下で地方団体が総務大臣から指定を受けるための基準を定めるものであって、国民の権利・義務に関する規律を直接定めるものではないため、典型的な法規命令としての性質を有するとはいえない。

 もっとも、地方税法37条の2第2項は、指定の基準のうち募集適正基準の策定を総務大臣に委ねており、同大臣は、この委任に基づいて、募集適正基準の一つとして本件告示2条3号を定めたものである。また、地方自治法245条の2は、いわゆる関与の法定主義を規定するところ、本件告示2条3号は、普通地方公共団体に対する国の関与に当たる指定の基準を定めるものであるから、関与の法定主義に鑑みても、その策定には法律上の根拠を要するというべきである。本判決は、このような理由から、本件告示2条3号の規定が地方税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱するものである場合には、その逸脱する部分は違法なものとして効力を有しないとして、その委任の範囲の逸脱の有無が問題となることを明らかにしている。

(2) 委任の範囲に関する判断枠組み

 一般に、本来は法律によって定められるべき事項であっても、専門技術的な事項は必ずしも国会の審議になじまず、また、状況の変化に対応した柔軟性を確保する必要がある事項は法律で詳細に定めることが適当ではないため、そのような事項については、法律の委任に基づいて行政機関が規定を定めること、すなわち委任命令によることが認められている。

 委任命令が委任をした法律(授権法)の委任の範囲を逸脱するものか否かが問題となった最高裁判決(最大判昭和46・1・20民集25巻1号1頁、最一小判平成2・2・1民集44巻2号369頁、最三小判平成3・7・9民集45巻6号1049頁、最一小判平成14・1・31民集56巻1号246頁、最二小判平成18・1・13民集60巻1号1頁、最大判平成21・11・18民集63巻9号2033頁、最二小判平成25・1・11民集67巻1号1頁等)においては、その判断要素として、①授権規定の文理、②授権法が下位法令に委任した趣旨、③授権法の趣旨、目的及び仕組みとの整合性、④委任命令によって制限される権利ないし利益の性質等が考慮されており、必要に応じて授権規定の立法過程における議論等も検討の対象とされている(岡田幸人「判解」最判解民事篇平成25年度20頁参照)。そして、これらの諸要素を総合的に考慮した結果、当該委任命令の規定が授権法の委任の範囲を逸脱するといえる場合には、当該規定は違法であり無効と判断されている。本判決も、このような判例上の判断枠組みを前提とするものと解される。

(3) 本件告示2条3号の適否(不指定理由②の適否)

 ア これまでに授権法の委任の範囲を比較的厳格に解した最高裁判決は、国民の憲法上の権利等を制約する委任命令に係るものであったのに対し、本件告示によって直接制約されるのは地方団体の地位ないし利益であるため、委任の範囲を比較的緩やかに解してよいとの見解も考え得る。

 しかし、本判決は、本件告示2条3号(ただし、本件改正規定の施行前における寄附金の募集及び受領について定める部分をいう。以下、特に断らない限り同じ。)につき、本件改正規定の施行前における募集実績自体を理由に指定を受けられないこととする趣旨のものであるとした上、実質的には総務大臣による地方自治法245条の4第1項の技術的な助言に従わなかったことを理由とする不利益な取扱いを定める側面があることから、普通地方公共団体が国の行政機関が行った助言等に従わなかったことを理由とする不利益な取扱いを禁止する同法247条3項の趣旨も考慮すると、本件告示2条3号が地方税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱したものではないというためには、上記趣旨の基準の策定を委任する授権の趣旨が、同法の規定等から明確に読み取れることを要するとした。

 これは、地方自治法247条3項に規定する国の関与に関する一般原則との抵触が問題となるような態様で一定の地方団体を不利益に取り扱う基準を、委任命令として定めるのであれば、少なくとも、そのような趣旨の基準の策定を委任する授権の趣旨が、授権法の規定等において明確にされていなければならないことをいうものと解され、前記(2)の諸要素のうち委任命令によって制限される権利ないし利益の性質を、本件の特質に即して考慮したものと解される。

 なお、本件指定申出のように、初年度について本件改正規定の施行の日(令和元年6月1日)より前に申出書が提出される場合、本件告示2条3号において考慮されるのは、全て本件改正規定の施行前の期間における寄附金の募集及び受領ということになる。そのため、本判決は、本件告示2条3号のうち本件改正規定の施行前における寄附金の募集及び受領について定める部分に限り、委任の範囲内か否かの検討の対象としている。

 イ その上で、本判決は、まず、授権法の法文の文理を検討し、募集適正基準とは、指定対象期間における寄附金の募集の態様に係る基準と解するのが自然であって、本件改正規定の施行前における募集実績自体をもって指定を受ける適格性を欠くものとすることを予定していると解するのは困難であるとした。次に、本判決は、委任の趣旨について検討し、地方税法が募集適正基準等の内容の策定を総務大臣に委ねた趣旨(同大臣の専門技術的な裁量に委ねるのが適当であること、柔軟性を確保する必要があること)が、本件告示2条3号のような内容の基準の策定についてまで妥当するとはいえないとした。さらに、本判決は、本件改正規定に係る法律案の作成の経緯及び国会における審議の過程を検討し、同法律案につき、国会において、募集適正基準が本件改正規定の施行前における募集実績自体をもって指定を受ける適格性を欠くものとする趣旨を含むことが明確にされた上で審議され、その前提において可決されたものということはできないとした。委任命令の適否の判断に当たり判例上考慮されている前記(2)の諸要素につき、授権規定の文理を中心に据えつつ、総合的に検討を加えたものと解される。

 そして、本判決は、以上によれば、地方税法37条の2第2項につき、本件改正規定の施行前における募集実績自体を理由に指定を受けられないこととする趣旨の基準の策定を委任する授権の趣旨が明確に読み取れるということはできないとして、本件告示2条3号の規定のうち、本件改正規定の施行前における寄附金の募集及び受領について定める部分は、地方税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効であると判断し、本件指定申出について不指定理由②を不指定の理由とすることはできないとした。

 ウ この点に関し、寄附金と税という異質なものがふるさと納税制度の前提にあるとした上、本件改正規定により返礼品の提供に係る調整の仕組みが初めて法律に定められたものであること等から、法廷意見は本件改正規定の解釈として妥当であるとする宮崎裕子裁判官の補足意見、及び、泉佐野市の行動に係る当不当のレベルの問題としてみれば結論に居心地の悪さを覚えるものの、本件告示2条3号のような基準の策定に法律による明示的な委任、授権が必要なことは明らかであり、法的には法廷意見のとおりと考えざるを得ないとする林景一裁判官の補足意見がある。

(4) 不指定理由③の適否

 不指定理由②が不指定の理由とならないとしても、不指定理由③が適法であればなお本件不指定は適法といえることから、本判決は更に不指定理由③について検討している。

 ア 泉佐野市は、本件指定申出の際に返礼品等を提供しない旨申述していたところ、このような場合に法定返礼品基準への適合性が審査の対象となるか否かについて、当事者間に争いがあった。この点につき、本判決は、上記場合であっても、総務大臣は、客観的に当該地方団体が返礼品等を提供する場合に当たるか否かを審査することができ、これが認められる場合には、更に法定返礼品基準への適合性を審査の対象とすることができると判断し、Yが本件指定申出について法定返礼品基準への適合性を審査の対象としたことに違法があるとはいえないとした。

 イ その上で、本判決は、本件不指定に至るまでの泉佐野市の返礼品の提供の態様は社会通念上節度を欠いていたと評価されてもやむを得ないとしつつ、本件改正規定により初めて返礼品の提供に係る法令上の規制が設けられたことからすれば、その施行前における同市の返礼品の提供の態様をもって、その施行後においても同市が同様の態様を継続するものと推認することはできないなどとして、本件不指定当時の事情の下では、同市が法定返礼品基準に適合するとは認められないと判断することはできないとし、本件指定申出について不指定理由③を不指定の理由とすることはできないとした。

 この点は本件の個別的事実関係を前提とする事例判断ではあるが、本件改正規定の施行の前後では返礼品の提供に係る法令上の規制の有無を異にしていることが重視されたものと解される。

5 本判決の意義

 本件は、ふるさと納税をめぐる国地方間の争訟として社会的注目を集めた事案である。本判決は、委任命令である本件告示2条3号の規定が授権法の委任の範囲を逸脱するものか否かにつき、諸要素を分析的かつ総合的に検討して、規定の一部を違法無効とする結論を導いたものであり、実務上重要な意義を有すると考えられる。なお、総務大臣は、本判決後の令和2年7月3日付けで、泉佐野市に対し、初年度に係る指定をするとともに、同月7日付けで、本件告示につき、2条3号の規定を全て削る旨の改正をした。

 

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