三井住友フィナンシャルグループ、グループ経営の高度化について
(指名委員会設置会社へ)
岩田合同法律事務所
弁護士 松 田 貴 男
1.SMFGによるグループ経営の高度化へ向けた指名委員会等設置会社への移行等の発表
株式会社三井住友フィナンシャルグループ(以下「SMFG」)は、平成28年5月12日、「グループ経営の高度化について」と題するニュースリリースを公表した。その要旨は以下の通りである。
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• 持株会社のガバナンス態勢の高度化
SMFGの監査役会設置会社から指名委員会等設置会社への移行(平成29年6月開催予定の定時株主総会での承認を前提) -
• グループ横断的な経営体制の高度化
持株会社を核とした統合的なグループ経営管理の一段の強化のためのCxO制度(CFO、CRO等の総称)の導入及び事業部門制導入の検討(平成29年4月導入予定) - • 複合金融グループとしての競争力の強化
更なるグループ力強化のため、グループ傘下のSMBC日興証券株式会社とSMBCフレンド証券株式会社の合併に関する方針の決定・基本合意書締結(平成30年1月を目途に合併を目指す)、及び、株式会社三井住友銀行による三井住友アセットマネジメント株式会社の議決権追加取得による連結子会社化の決定(当局認可を前提に平成28年7月予定。また同年10月にはSMFGによる直接出資子会社化)
SMFGによる今回の発表を契機として、以下、銀行界全体に共通する問題として、銀行・銀行持株会社のガバナンス態勢、及び、金融グループとしての経営推進の順に、これらに関する昨今の規制動向を概観する。
2.銀行・銀行持株会社のガバナンス態勢に関する規制動向
(1) 国内規制等
国内の規制については、まず、銀行法上、銀行・銀行持株会社は、株式会社でなければならず、かつ取締役会及び会計監査人に加え、監査役会、監査等委員会又は指名委員会等のいずれかの設置を選択しなければならない(銀行法4条の2、52条の18)。また、銀行の常務に従事する取締役、監査等委員である取締役、監査委員、監査役にはその知識・経験及び社会的な信用について法定の要件が課せられている(銀行法7条の2)。
また、平成27年6月に施行されたコーポレートガバナンス・コードは、独立社外取締役を2名以上選任すべきと規定しているため、上場している銀行・銀行持株会社もこの適用を受けることとなる。さらに、金融庁の監督指針上は、グローバルなシステム上重要な銀行等(G-SIBs)については、その組織体制を指名委員会等設置会社とする、あるいは、当該銀行持株会社の主要な子銀行については、非上場であっても、取締役の選任議案の決定に当たり独立性の高い社外取締役を確保するなどの強固なガバナンス態勢の構築を求めている(主要行等監督指針Ⅲ-1-2(2))。
(2) 国際的な動向
国際的な動向に目を転じると、バーゼル銀行監督委員会(Basel Committee on Banking Supervision)が「銀行のためのコーポレート・ガバナンス諸原則」(2015)(Corporate governance principles for banks)を公表しており、グローバルな事業展開を行っている銀行グループは、かかる諸原則に示された要請に応える必要がある。このバーゼル銀行監督委員会が公表する「銀行のためのコーポレート・ガバナンス諸原則」は、例えば、取締役会は十分な数の独立取締役で構成されるべきこと、十分な数の独立取締役から構成される取締役の指名のための委員会の設置、報酬委員会の設置、独立取締役又は非業務執行取締役のみから構成される監査委員会の設置など、日本の銀行法が銀行・銀行持株会社に一般に要求する以上の水準の強固なガバナンスを、主に独立取締役による監督機能の強化を通じて求めており、少なくともグローバルなシステム上重要な金融機関(G-SIFIs)については、かかる国際的な要請に十分に応えるためには、指名委員会等設置会社への移行が求められていたといえる。
(3) 日本のメガバンクの対応
今般、SMFGのニュースリリースにおいては、上記「銀行のためのコーポレート・ガバナンス諸原則」(2015)の明示的な引用はないものの、監査役会設置会社から指名委員会等設置会社への移行の背景・狙いとして、海外の関係当局、投資家、取引先等にとっても分かりやすい”G-SIFIsスタンダード”のガバナンス態勢を構築することが挙げられており、国際的な銀行ガバナンス態勢に関するスタンダードたる「銀行のためのコーポレート・ガバナンス諸原則」(2015)に応えることが今回の移行の背景の一つにあるものと推察する。なお、日本の金融機関のうち、三井住友フィナンシャルグループと同様にグローバルなシステム上重要な金融機関(G-SIFIs)に指定されている三菱UFJフィナンシャル・グループ及びみずほフィナンシャルグループにおいては、既にその持株会社において指名委員会等設置会社へ移行済である。
3.金融グループ経営に関する規制動向
平成28年3月4日、情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律案が国会(第190回常会)に提出され、報道等によれば、今国会で成立する見込みである(本稿執筆時点(平成28年5月18日)では成立していない)。
この銀行法等の改正案は、平成27年5月から同年12月にかけての金融審議会「金融グループを巡る制度のあり方に関するワーキング・グループ」等の報告を踏まえ、金融グループを巡る環境の変化、ITの急速な進展等を踏まえた制度面での手当てを行うものである。
銀行法一部改正法案のうち、金融グループの経営に関する主な改正内容は以下のとおりであり(法案概要は末尾金融庁作成資料参照)、現行法上認められていない持株会社によるグループ内共通・重複業務の実施解禁やフィンテックへの出資容易化などの改正内容から明らかなとおり、基本的には、銀行・銀行持株会社グループの業務範囲を拡大する規制緩和を主な内容とする。
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• グループの経営管理の内容明確化
- ▻ 銀行・銀行持株会社が実施すべきグループ経営管理の内容の明確化(経営方針の策定・実施、グループ内利益相反の調整、グループの法令遵守態勢の整備等)
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• グループ内における共通・重複業務の集約等
- ▻ 持株会社によるグループ内共通・重複業務の許容
- ▻ 子銀行間取引に限定したアームズレングスルール緩和
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• ITの進展に伴う技術革新への対応
- ▻ 子会社範囲規制の個別認可緩和制度(フィンテック会社への出資容易化)
- ▻ 決裁関連業務の受託容易化のための従属業務の収入依存度規制緩和
前述のとおり銀行・銀行持株会社グループのガバナンス態勢については国内規制及び国際動向のいずれを見ても社外取締役による監督強化を通じた厳格化の傾向にあるが、銀行法上の業務規制については(これまでの子会社範囲規制の緩和の歴史を含めても)規制緩和が進んでいる。
このように、銀行・銀行持株会社グループは、より強固なガバナンス態勢の構築を求められつつも、IT技術の進展等の事業環境変化を踏まえて、各グループの創意工夫を生かしたより柔軟かつ効率的なグループ経営をする余地は拡大している状況にある。
(金融庁作成資料)