消費者庁、木曽路に対し景表法(優良誤認表示)に基づく措置命令
岩田合同法律事務所
弁護士 荒 田 龍 輔
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消費者庁は、平成26年10月15日、株式会社木曽路に対し、下記事実の一般消費者への周知徹底及び再発防止策を講じ、それを従業員に周知徹底すること等を主な内容とする措置命令(以下「本件命令」という。)を行った。すなわち、同社の「木曽路北新地店」にて提供されていた料理において平成24年8月頃から平成26年8月15日までの間、松阪牛を使用しているかのような表示をしていたが、実際は、平成24年12月頃から平成26年7月17日までの間、大部分について松阪牛ではない和牛を使用していた。また、同様に、同社の「木曽路神戸ハーバーランド店」にて提供されていた料理において平成25年8月10日から同年12月31日までの間、松阪牛を使用しているかのような表示をしていたが、実際は、一部について松阪牛ではない和牛を使用していた。このような事実の発覚を受け、消費者庁は、株式会社木曽路に対し、本件命令を行った。
同社に対する当該措置命令は、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」という。)に基づくものであり(同法第4条第1項第1号(優良誤認)、第6条)、景表法における重い処分の1つであるといえる。
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今回のようないわゆる食材の偽装に対する事案としては、昨年の近畿日本鉄道株式会社、株式会社阪急ホテルズ他に対する措置命令(平成25年12月19日。料理や販売用のおせち料理において、食材として使用していない食材を表示したこと等に基づき、本件命令とほぼ同内容の措置命令がなされた。)が有名であり、今回の措置命令については、株式会社木曽路において、当該事件後も上記食材偽装を継続していた点が重視されたとされている。
上記近畿日本鉄道株式会社、株式会社阪急ホテルズ他による食材偽装の発覚を受け、現行景表法の措置命令では、将来に向けて違反行為者の不当表示を中止させ、被害の拡大と再発を防止するものであり、事前抑止のインセンティブとして十分ではないため、消費者庁は、不当表示の防止を目的として、不当表示を行った事業者に経済的不利益を課すため、課徴金制度の新設を含む景表法の一部を改正する法案を提出し、それが可決され、現在、課徴金制度の導入に向けた検討がなされている[1]。
すなわち、景表法で定める有利誤認や優良誤認等の不当表示(4条)(告示により指定されるものを除く[2])を行った事業者に対して、対象商品又は役務の売上額(対象期間は3年間)に100分の3を乗じた金額を課徴金として課すことが想定されている(具体的手続については別紙1「課徴金納付命令までの基本的な流れ(予定)」参照)。他方で、事業者が、違反行為について自主申告した場合、課徴金の額を2分の1に減額したり、又は、①対象者に対する自主返金、②独立行政法人国民生活センターへの寄附(返金合計額が課徴金額未満の場合)を行い、及び③これを消費者庁の定める期日までに報告すれば課徴金を免除する(当該免除手続については別紙2「課徴金制度における被害回復の制度設計(予定)」参照)など、課徴金減免の手続も想定されている。
また、消費者庁は、不当表示の防止のために事業主が講じるべき措置に係るガイドラインの策定の検討も行っているところであり、例えば、景表法の周知や啓発、表示等に係る情報の確認方法等に係る具体的な事業者における管理方法を策定することが検討されているところである。
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このように、不当表示は、今後、会社の評判やレピュテーション等への悪影響による売上の減少だけではなく、さらに多額の課徴金を課される等による更なる経済的不利益が生じ得るものとなることが想定される。
そのため、事業者においては、表示についてより一層慎重な対応をとる必要があるとともに、不当表示について認識した場合には、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律に係る課徴金減免制度(リニシエンシー)同様[3]、上記課徴金減免の手続をとるか否かという点についても検討することが必要となろう。
以上
[1] 不当表示を対象とする課徴金制度については、平成20年に、景品表示法への課徴金制度の導入を含む「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律及び不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律案」が国会提出されたが、この法案はその後廃案となった。景表法が消費者庁に移管されたことに伴い、公正な競争の確保を目的とする競争法体系から一般消費者による自主的かつ合理的な選択の確保を目的とする消費者法体系へと変わったことから、改めて課徴金制度の新設が検討されることとなった。
[2] 告示では、商品の原産国に関する表示、無果汁の清涼飲料水についての表示、消費者信用の融資費用に関する不当な表示、おとり広告に関する表示、不動産のおとり広告に関する表示、及び有料老人ホーム関する不当な表示が挙げられている(消費者庁HP「表示関係」参照http://www.caa.go.jp/representation/index3.html)
[3] カルテルや入札談合の事実が発覚した場合、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律上の課徴金制度が課される可能性があるところ、当該カルテル等に関与した事業者から所定の申請がなされた場合に、課徴金が減免される制度(課徴金の減免に係る報告及び資料の提出に関する規則参照)。
(あらた・りゅうすけ)
岩田合同法律事務所アソシエイト。2006年九州大学法学部卒業。2008年九州大学法科大学院修了。2009年弁護士登録。主な取扱い分野は紛争であり、弁護士登録後、事業会社~金融機関等の幅広い企業や個人の代理人として多くの訴訟等にかかわっている。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。
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