インドネシア:投資調整庁の新投資規則の施行(3)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 福 井 信 雄
弁護士 小 林 亜維子
前稿に引き続き、本稿は、投資調整庁(Badan Koordinasi Penanaman Modal, BKPM)規則2017年第13号(以下「新規則」という。)による外国投資企業が遵守する必要のある投資調整庁における手続き等の主な改正点について概説する。
4. 最低投資額
旧規則においては、原則として、外国資本企業が行う事業分野(Klasifikasi Baku Lapangan Usaha Indonesia, KBLI)毎に100億ルピア(土地及び建物を除く。)の最低投資額が必要と規定していたが、新規則では、「事業分野毎」という制限が削除され、外国資本企業が事業を開始するための最低投資金額を100億ルピアとするとのみ規定している。新規則からは、複数の分野にまたがる事業を行う場合にも、最低100億ルピアの投資で外国投資登録が認められると解釈できそうではあるが、これまでの投資調整庁の運用を踏まえると、事業分野が1つか複数かという形式的な判断ではなく、より事業の実態に即した投資額を柔軟に設定する方針を指向している可能性も考えられ、今後の投資調整庁の運用を注視する必要がある。なお、最低投資額について、業法等その他の法令において別途定めがある場合にはかかる規定を遵守する必要がある。また、新規則は、これまでと同様、最低投資額のうち、最低25億ルピアについては資本金の形式での投資が必要とし、各株主の最低出資額は1000万ルピアとしている。さらに、従来の運用と変更はないものの、新規則は、各株主の保有割合は、株式の額面額に応じる(すなわち出資額に応じる)と明示した。したがって、外資規制上、出資額ベースでは過半数を取得できない場合でも、無議決権株式を導入することで議決権ベースでは過半数を確保する投資手法は今後も認められるものと考えられる。
5. 事業許可の申請時期
旧規則下では、複数の投資基本許可を取得している場合に、その後取得する事業許可の申請時期については、投資基本許可毎にそれぞれ別の時期に行うことを認めていた。すなわち、当初に複数の事業について投資基本許可を取得しておき、それを順次立ち上げていくという事業展開が許容されていたわけであるが、新規則は、複数の外国投資登録を行った場合、事業許可の申請はすべて同時に行う必要があるとし、同時に申請を行わなかった事業に関する外国投資登録は取消されたものとするとしている。複数の事業を行うことを予定しているが、同時に事業開始の準備ができないことが想定される場合には、当初の外国投資登録は事業開始の準備が可能なもののみにしておくか、準備ができない事業に関する外国投資登録については、改めて外国投資登録を行うことが原則として必要となるということを念頭に計画を立てる必要がある。
6. 外国投資登録の有効期限の満了
新規則は、外国投資登録の有効期限が満了する30日より前に当該期限の延長を申請することはできるが、有効期限が満了してしまった場合又は法律上外国投資登録が無効となった場合には、延長申請を行うことができないとの規定を設けた。外国資本企業が、当該外国投資登録以外の許認可等を保有しておらず、他の事業を行うことを予定していない場合、当該外国資本企業を清算しなければならないとしている。投資調整庁としては、会社設立だけして実際の事業を行わない休眠会社が事実上多数存在していることを以前から問題視しており、かかる状況を改善させるとともに、外国投資家に実際にインドネシアへの投資活動を行うことを促す効果を企図した規定であると考えられる。なお、インドネシアにおいて、会社の清算は、税務局の審査を経る必要がある等手続きに長い期間を要することから清算手続きへの移行は実務上の負担が重い。外国投資登録を取得後、事業の実施が現実的でないと判断する場合には、会社の設立完了前に投資登録自体を撤回するという選択も検討することが望ましいと考える。
(4)につづく