◇SH0128◇最高裁、妊娠・出産等を理由とする降格は原則違法との判断 笹川豪介(2014/11/10)

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最高裁、妊娠・出産等を理由とする降格は原則違法との判断 

岩田合同法律事務所

弁護士 笹 川 豪 介

1 本事案の概要

 労働者に対し、妊娠・出産等を理由として不利益な取扱いをすること、いわゆるマタニティハラスメントに関して、最高裁は、10月23日、妊娠・出産等を理由とする降格は原則として違法であるとする判決を言い渡した。

 本件は、妊娠中の軽易業務への転換(労働基準法65条3項)を契機として勤務先である被上告人(医療介護事業等を行う消費生活協同組合)が上告人(女性理学療法士)に降格等の措置をとった事案である。上告人は、当該措置が妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止を定める男女雇用機会均等法9条3項に違反するとして提訴した。

 第一審、原審とも、当該措置は上告人の同意を得て裁量権の範囲内で行われたものであり、請求を認められないとしたため、上告人が上告したもの。

2 最高裁の判断

 最高裁は、妊娠中の軽易業務への転換を契機とした降格措置は原則として男女雇用機会均等法9条3項の禁止する取扱いに当たるとした。

 そのうえで、軽易業務への転換と降格措置により(有利・不利を問わず)受ける影響の内容・程度、降格措置に係る経緯や対象労働者の意向等に照らして、以下のいずれかに該当するときには、同項の禁止する取扱いに当たらないと判断した。

  • 対象労働者の自由意思に基づく降格の承諾があると認められる合理的理由が客観的に存在するとき
  • 対象労働者の降格措置を執らない軽易業務への転換について、業務上の必要性(円滑な業務運営や人員の適正配置の確保など)から支障があり、その必要性や降格措置による影響の内容・程度に照らして、当該降格措置が法の趣旨・目的[1]に実質的に反しないと認められる特段の事情が存在するとき

3 実務上の対応

(1) 上記2のうち①対象労働者の承諾について、本判決では、(降格措置の前後における)職務や業務上の負担・労働条件の実質的な変更内容などの降格措置による影響について適切な説明を実施して対象労働者の十分な理解を得たうえでの承諾が必要としている。

軽易業務への転換時に降格等の措置を執る場合には、上記の観点から説明を十分に実施したこと、そのうえで承諾したことが確認できる証跡を残すのが望ましい。

(2) 上記2の②特段の事情のうち業務上の必要性について、本判決では、以下の各事項等も勘案して判断すべきとしている。
(a) 軽易業務への転換後の業務の性質・内容
(b) 職場の組織や業務態勢・人員配置の状況
(c) 対象労働者の知識・経験
(d) 降格措置に係る経緯・対象労働者の意向等

このうち、(b)職場の組織や業務態勢・人員配置の状況については、たとえば軽易業務に就く前の地位について、一定のセクションの長としての役割を有するのか否か、ポストの人員制限の有無、(対象労働者の取得する休暇期間の長短との関係を含め)一時的に当該地位の代行者を設置することによる対応の適否などについても検討・検証をしたうえで、業務上の必要性について判断することが考えられよう。

また、本判決の補足意見では、育児・介護休業法10条で不利益取扱いを禁止している育児休業からの復帰後における軽易業務への転換前の地位に復帰させない措置も(降格措置同様に)、適法と言えるためには特段の事情が必要であるとしているため、注意する必要がある。

(3) 最高裁判所は、本件について上告人の自由な意思に基づく承諾は認められず、業務上の必要性等の特段の事情については審理不十分であるとして、本件を高等裁判所に差し戻した。

本判決はいわゆるマタニティハラスメントに関して、不利益取扱いと解されるか否かに関する基準を示したという点で大きな意義を有するものである。今後は妊娠・出産にかかわらず、育児休業と同じく育児・介護休業法16条で不利益取扱いが禁止される介護による休業などの際の措置に関しても同様に問題となる可能性があるため、幅広く留意することが肝要であると考えられる。

以上

 

【本件の事実関係】

時期

事実

平成6年3月21日

上告人と被上告人との間で労働契約を締結

平成15年12月1日

上告人が訪問リハビリチームに配属

平成16年4月16日

上告人が病院リハビリチームに異動、上告人を副主任に任命

平成18年2月12日

上告人が第1子の出産・育児休業を終えて職場復帰

訪問リハビリチームに異動(副主任の地位のまま)

平成19年7月1日

被上告人が訪問リハビリ業務を訪問介護施設に移管

平成20年2月

上告人が第2子を妊娠し軽易業務への転換を請求

平成20年3月1日

上告人が軽易業務への転換としてリハビリ科(元病院リハビリチーム)に異動

平成20年3月中旬

上告人が被上告人の事務長・リハビリ科長から異動の際に副主任を免ずる発令を失念していたと説明され、渋々ながら了解

その後

上告人が被上告人の介護事務部長に副主任を免ずる発令を3月1日に遡ってしてほしい旨を希望

平成20年4月2日

3月1日付での上告人の異動・降格の辞令

平成20年9月1日

上告人が第2子について出産・育児休業を取得開始

平成21年10月12日

上告人が職場復帰し訪問介護施設(元訪問リハビリチーム)に異動

別途副主任がいたため上告人は副主任に任命されず

その後

上告人が副主任に任命されなかったことに強く抗議し、訴訟提起



[1] 本判決では、法の趣旨・目的に関して、男女雇用機会均等法は雇用分野での男女の均等な機会・待遇や、女性労働者の就業に関する妊娠中・出産後の健康、女性労働者の母性の尊重と職業生活の充実の確保を図ることを目的・基本理念としている点に触れている。

(ささがわ・ごうすけ)

岩田合同法律事務所アソシエイト。2004年慶應義塾大学総合政策学部卒業、大手信託銀行勤務(不動産流動化部門・不動産鑑定部門・法務部門)。2011年弁護士登録。『実務にとどく 相続の基礎と実践』(連載、金融法務事情1994号~)、『銀行窓口の法務対策4500講』(共著、金融財政事情研究会、2013年)、『Q&A 信託業務ハンドブック[第3版]』(共著、金融財政事情研究会、2008年)等著作・論文多数。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>

1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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