◇SH0055◇中国:財産保全 角谷直紀(2014/08/07)

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中国:財産保全

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 角谷直紀

1.中国における民事訴訟制度

 2013年1月1日より中国において新民事訴訟法が施行され、中国における制度としての民事訴訟は、文面上は非常にしっかりとしたものとなっている。

 もっとも、運用面では未だ多くの問題を抱えており、いざ中国で訴訟が始まると、日本での訴訟に慣れた方々は、「なぜこんな簡単なことにこんなに時間が掛かるのか?」、「なぜこんな重要なことをこんな簡単に決めるのか?」ということが毎回のように続き、大変なストレスと戦うことになる。

 私の経験上、上記のような不合理な訴訟指揮や決定に関して、日中関係というような国家間の問題が影響していることは、一部の政治的問題をはらんだ事案以外ではそれ程多くはなく、大部分が裁判所及び裁判官の立ち位置が日本とは大きく異なることにあると思われる。本稿では、この点について、詳しく説明することは避けるが、中国の裁判においては、「声が大きい方が有利」という原則は未だ存在するといえ、起用する弁護士により結果が大きく左右されることは十分に理解しておく必要があると思う。

2.中国における保全制度

 従前の民事訴訟法においても規定されていた訴訟提起前又は提起後の財産保全制度については、新民事訴訟法でもしっかりと規定されているが、実際の運用状況はどうなっているのかという問い合わせは非常に多く、特に財産散逸の確率が高い現地企業を相手とする訴訟等においては、当該制度を利用できるか否かが回収可能性に大きく影響することから、非常に緊張感のある場面でのアドバイスを求められることも少なくない。

 従前は、特に訴訟前の財産保全について、裁判所は非常に消極的であった。この点の理由については、保全の必要性について判断する要素が少ない、被保全者の利益の保護等々のもっともらしいものがよく挙げられている。

 しかし、私の感覚では、従前は当該制度があまり浸透していなかったというのが大きな理由であると思われる。つまり、裁判官が当該制度をあまり理解しておらず、特に申立人が外国企業の場合には、担保金の海外送金の方法、通貨や保全を撤回した場合の担保金の返還方法について不明確な部分も多く、保全の可否と裁判の結果に齟齬があってもいいのか等、かかる手続きを採用することが不安で且つ面倒であったということが一番大きな理由だったのではないかと思う。

 近時は、財産保全全般について、前例が徐々に増えてきており、不安感や面倒な度合いも減ってきているものと思われ、裁判官に事情を詳しく説明すれば、特に大都市の裁判所では、保全申請を認めて貰える可能性が高くなってきており、「声が大きい」弁護士を起用し、裁判所と非公式に交渉させ、先ず財産の保全を図るというのも非常に有用な訴訟戦略となっているといえ、保全制度の活用は、今後中国において訴訟を進める際には必ず検討が必要な事項であるといえよう。

 但し、財産保全に際して申立人が積まなければいけない担保金については、保証状等によりコミットされた額も含めて、基本的には保全財産と同額、場合によっては訴額と同額を要求されることもあり、当該資金の準備が可能か、如何なる貨幣によるべきか、また、かかる担保金の返還方法や使途(別訴の賠償補填に使用されるような不合理なことがないか等)についても、考え方が裁判所又は裁判官により異なるので、事前に綿密に確認することが必要である。

 

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