タイ:BOI企業の法人税計算方法に関する判決
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 佐々木 将 平
本年5月、タイ歳入局とある日系企業の間で長年にわたり争われていた税務訴訟において、企業側敗訴の最高裁判決が出た。争いになっていたのはタイ投資委員会(Board of Investment、BOI)から投資奨励を受けている企業の法人税の計算方法であるが、日系企業側はBOI側の指導に従って申告を行っていたにも拘わらず、歳入局側がBOIと異なる見解に基づき更生決定を行い、訴訟に発展していたものである。
報道等によると、主要な争点の一つは以下の点のようである。BOIから奨励を受けた一定のプロジェクトについては、一定期間法人税が免税される。BOIによる奨励はプロジェクト毎に行われるため、同一法人で複数のBOI奨励対象プロジェクトを抱えている場合の損益通算の方法、特に非BOI事業との間でどのように損益通算を行うかが問題となる。具体的には、あるBOI奨励対象プロジェクトにおいて損失が生じている状況において、当該損失を、他のBOI奨励対象事業及び非BOI事業において生じている利益とどのように相殺すべきかという問題である。非BOI事業の利益と先に相殺することができれば企業側にとっては税負担を軽減できるが(BOI側の見解)、BOI奨励対象プロジェクト間の損益通算を先に行わなければならないとすると、BOIの免税恩典を最大限活用できず、税負担が重くなる場合がありうる。歳入局は、後者の見解を取って更生決定を行っていたようである。
BOIという政府当局の見解に従って対応していたにも拘わらず、税務当局により異なる取扱いが行われ、最終的に裁判所においても企業側の主張が認められなかったという事案であり、そのインパクトは大きい。必ずしも一般化できる問題ではないが、行政当局を相手とする場合の難しさ(行政当局の見解をどの程度信頼して良いのか等)も感じざるを得ない。
タイ政府は、本判決を受けて、複数のBOI奨励対象プロジェクトを抱える企業に対してサーチャージや罰金なしでの修正申告を認める特例取扱いを公表している(修正申告期限は本年8月15日まで)。