◇SH0145◇大阪府警、スクウェア・エニックスの役員・社員15名らを著作権法違反の疑いで書類送検 加藤真由美(2014/11/26)

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大阪府警、スクウェア・エニックスの役員・社員15名らを著作権法違反の疑いで書類送検

                            岩田合同法律事務所

                             弁護士  加 藤 真由美

 大阪府警は、平成26年11月17日、漫画「ハイスコアガール」に他社のゲームキャラクターを無断で掲載したとして、著作権法違反の疑いで、出版元の大手ゲームソフト会社「スクウェア・エニックス」(以下「スクウェア社」)、並びに、漫画の作者及び出版担当の役員・社員ら15名の計16名を書類送検した。

 同作品は、ゲームマニアである主人公を中心とする登場人物らが、その時代に流行した様々なゲーム(『バーチャファイター』、『サムライスピリッツ』、『餓狼伝説』等)を作中でプレイし、そのプレイ画面やゲームキャラクターを通じて登場人物たちの交流や心情が表現されている人気作品である。

 これまで、著作権法違反で立件、送検される事案といえば、映画やドラマ作品をそのまま複製し、インターネット上にアップロードしたり(著作物の公衆送信権侵害)、複製物を販売する行為(著作物の頒布権侵害)が殆どと言ってよく、これらは、一見して著作権侵害であることが明らかである事案であり、警察官や検察官において著作権法上の複雑な判断を必要としないものであった。

 ところが、今回のケースは、それ自体が著作物と評価される作品のストーリーの中で、他の著作物を使用する態様であり、著作権法違反で立件、送検される事案としては非常に珍しいものである。すなわち、本件は、単に、著作物たるゲームのキャラクターの画像やイラストを切り貼りしてそのまま作品中に使用したものでなく、作中のストーリーに当該キャラクターを取り込み、ストーリーに合わせてキャラクターを動かして描写している(いわゆる「取り込み型」、もしくはパロディといわれる態様)ことから、一見して著作権侵害であることが明らかである事案ではなく、数段階にわたり、著作権法上の判断を必要とする複雑な事案である。

 具体的には、まず、今回のケースが著作権を侵害したというためには、作中に利用されたキャラクターが「著作物」を「複製」、もしくは「翻案」したものといえるかの判断をする必要がある。「著作物」とは何か、「複製」や「翻案」とは何かという点は、判例で抽象的な基準が立てられており、個別具体的な判断を要する事項である。

 さらに、「著作物」を「複製」・「翻案」したものに該当する場合であっても、著作権法は、「公表された著作物は引用して利用することができる」と規定していることから(同法32条1項)、今回のケースでは「引用」に当たるかも争点になるものと思われる(下図参照)。

 同法32条1項にいう「引用」に当たるためには、引用される著作物と引用する著作物が明瞭に区別され、前者が従、後者が主という関係になければならないという判例がある(最判昭和55・3・28民集34巻3号244号)も、別の著作物全体を取り込む形(いわゆる「取り込み型」、もしくはパロディといわれる態様)での引用についてはほぼ当該要件を満たすのは困難であり、著作物の利用が過度に妨げられるとして学説らかの批判もあり(『要点解説知的財産法』(商事法務)264頁参照)」、知財高裁の裁判例(知財高判平成22・10・13判時2092号135頁)も「社会通念に照らして合理的な範囲内のものであることが必要」「他人の著作物を利用する側の利用の目的のほか、その方法や態様、利用される著作物の種類や性質、当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などが総合考慮されなければならない」として、判例の前記要件には触れずに判断基準を述べているが、その判断基準も多義的であり事案ごとの評価を必要とするものである。

 つまり、結局のところ、今回のケースのように他の作品を取り込み、使用するいわゆるパロディ事案について、正面から判断した裁判例はなく、その判断も個別具体的な事情によって結論が変わるものと思われるが、今回のケースにおいては、民事訴訟の世界で答えが出ていないものを、刑事司法はどう裁くのか。警察から検察庁に、著作権法違反被疑事件として書類送検された段階であるが、今後、検察庁において、本件について書類送検された者についての起訴、不起訴の判断がなされる。まずは、検察の判断が注目されるところである。

 「ハイスコアガール」のように、作中に他のアニメやドラマ等の他作品を模倣するパロディを取り入れている作品は決して珍しいとはいえず、他方、パロディされた側も、PR効果が期待できるとして容認しているケースもあるが(報道によれば、「ハイスコアガール」においても一部のゲーム会社は使用を許諾していたとのことである)、その中で、今回のケースの処分は他の作品に与える影響が大きいものといえよう。

 以上

(かとう・まゆみ)

岩田合同法律事務所アソシエイト。2005年早稲田大学法学部卒業。2007年東京大学法科大学院卒業。2008年検事任官。大阪地検、東京地検等勤務を経て、2014年4月に「判事補及び検事の弁護士職務経験に関する法律」に基づき弁護士登録、岩田合同法律事務所入所。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

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1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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