◇SH2078◇法務担当者のための『働き方改革』の解説(9) 藤巻 伍(2018/09/10)

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法務担当者のための『働き方改革』の解説(9)

最高裁判決(ハマキョウレックス事件)の概要

TMI総合法律事務所

弁護士 藤 巻   伍

 

Ⅲ 最高裁判決(ハマキョウレックス事件)の概要

4 分析

(1) 本判決の不合理性の判断の中身

 ハマキョウレックス事件の最高裁判決(本稿に限り、「本判決」という。)は、正社員と契約社員との間において、職務の内容が異ならない一方で、①将来転勤や出向をする可能性の有無や、②会社の中核を担う人材として登用される可能性の有無が異なると認定した。その上で、各手当の支給目的・性質からして、①②の差異に関連しない手当(住宅手当以外の手当)の格差はいずれも不合理であると判断し、他方で、①の差異に関連する住宅手当の格差だけは不合理でないと判断した。

 すなわち、本判決は、正社員と契約社員の間における職務の内容や人材活用の仕組みの違いの有無を認定した上で、これらの違いが各手当において待遇差を設ける理由になるかどうかを検討し、格差が不合理であるか否かの判断を行った。

 なお、本判決は、住宅手当に関し、支給の有無という労働条件に相違があることについては不合理でないとの判断をしたものの、労働条件の相違の大きさ(住宅手当の金額)に関する不合理性についての判断はしていない。

 この点に関し、本判決は、住宅手当の格差の不合理性の判断の中で判示したものではないが、「同条は、職務の内容等が異なる場合であっても、その違いを考慮して両者の労働条件が均衡のとれたものであることを求める規定であるところ、両者の労働条件が均衡のとれたものであるか否かの判断に当たっては、労使間の交渉や使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定し難い」と判示しており、労働条件が均衡のとれたものであるか否か(労働条件の相違の大きさ)の判断については、裁判所が積極的に介入しないことを示唆したものと考えることもできよう。

 また、本判決は、無事故手当、作業手当、給食手当及び皆勤手当に関し、正社員と契約社員の間で職務の内容が異ならないことを不合理であると判断した理由の一つとして挙げているため、正社員と契約社員の間で職務の内容が異なっていれば、手当によっては格差が不合理でないと判断された可能性がある。

(2)「有能な人材の獲得、定着を図るため」や「長期勤務に対する動機付け」は待遇差を設ける理由になるか

 第2審は、住宅手当につき、住宅費用の援助及び福利厚生を手厚くすることにより有能な人材の獲得・定着を図る、という目的自体に相応の合理性が認められると判断し、これを根拠の一つとして、格差が不合理でないと判断したが、本判決においてはそのような判示がされていない。

 また、第2審は、給食手当についても、優秀な人材の獲得・定着を図る、という目的自体は一定の合理性を有すると判断したが、本判決においては同様の判示がされていない。

 これらの違いから推認するに、無期雇用労働者と有期雇用労働者の間で待遇差を設けるにあたっては、「有能な人材の獲得、定着を図るため」「長期勤務に対する動機付け」という抽象的な理由は、待遇差を設ける理由として通用しない可能性が高い。これらの理由は、「職務の内容の違い」等と比較すると客観的・具体的な実態に基づくものではなく、主観的・抽象的なものにすぎないし、どの待遇差の理由としても用いることができてしまうことから、待遇差を設ける理由としては不十分であると考える。

 また、「同一労働同一賃金ガイドライン案」においても、基本給や各種手当といった賃金に差を設けるにあたっては、「将来の役割期待が異なるため」という主観的・抽象的説明では足りず、賃金の決定基準・ルールの違いについて、職務の内容、職務の内容・配置の変更範囲、その他の事情の客観的・具体的な実態に照らして不合理なものであってはならない、としており、待遇差を設けるにあたっては、主観的・抽象的な理由ではなく、客観的・具体的な実態に基づかなければならない旨を明らかにしている。

(3) 法改正後の本判決の意義

 今回の法改正によって、労働契約法20条は削除されるものの、非正規法8条(不合理な待遇の禁止)の適用対象に有期雇用労働者が含まれるため、法改正後は、非正規法8条の適用において、本判決が重要な意義を有することになる。

 

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