サントリー食品インターナショナル、監査等委員会設置会社への移行
岩田合同法律事務所
弁護士 青 木 晋 治
サントリー食品インターナショナル株式会社(以下「サントリー食品インターナショナル」という)は、平成27年2月13日付で、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行する方針を決定した旨を発表した。
これは、平成26年6月27日公布の「会社法の一部を改正する法律」(平成26年法律第90号)による改正後の会社法(以下「改正会社法」という)により、新たに監査等委員会設置会社への移行が可能になったことを受けたものである。
上場会社においては、本年1月末頃から、監査等委員会設置会社に移行する旨を発表する会社が登場しているが、その多くは会社法施行日である本年5月1日以降に開催される定時株主総会により承認を得る予定の会社である。この点、サントリー食品インターナショナルは、監査等委員会設置会社への移行は、平成27年3月27日開催の定時株主総会において必要な定款変更に関する承認を得ること、及び改正会社法の施行を前提とするものであると発表しているが、改正会社法施行前に株主総会において監査等委員会設置会社へ移行する旨の定款変更を行う点で特色を有しているといえる。
監査等委員会設置会社の制度の概要は以下のとおりである。
監査等委員会設置会社の制度概要・比較
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監査等委員会設置会社の |
監査役会設置会社の |
指名委員会等設置会社の |
構 成 |
・取締役3人以上 ・過半数が社外取締役 (改正会社法331条6項、399条の2第2項) |
・監査役3人以上 ・半数以上が社外監査役 (会社法335条3項) |
・取締役3人以上 ・過半数が社外取締役 (会社法400条1項、3項) |
常 勤 者 |
不要
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必要 (会社法390条3項) |
不要
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選 任 等 |
・株主総会決議 (会社法341条) ・ただし、監査等委員以外の取締役とは区別して選任 (改正会社法329条2項) ・議案の提出について監査等委員会の同意 (改正会社法344条の2第1項) |
・株主総会決議 (会社法341条) ・議案の提出について監査役会の同意 (会社法343条1項、3項) |
・株主総会決議 (会社法341条) ・議案の提出につき指名委員会の決定 (会社法404条1項) |
任 期 |
・監査等委員:2年(短縮不可) ・それ以外の取締役:1年(短縮可) (改正会社法332条1項、3項、4項) |
・4年(短縮不可) (会社法336条1項) |
1年(短縮可) (会社法332条3項) |
解 任 等 |
・株主総会の特別決議
(改正会社法344条の2第3項、 |
・株主総会の特別決議 (会社法343条4項、309条2項7号) |
・取締役としての地位:株主総会決議 (会社法341条) ・監査委員会の地位:取締役会 (会社法401条1項) |
権 限 |
適法性・妥当性監査 (改正会社法399条の2第3項1号) |
適法性監査 (会社法381条1項) |
適法性・妥当性監査 (会社法404条2項1号) |
取締役会での |
あり |
なし |
あり |
報 酬 |
・定款又は株主総会決議等によって決定、個人別の報酬は監査等委員会の協議(改正会社法361条2項、3項) |
・株主総会決議 ・監査役の協議 (会社法387条1項、2項) |
・報酬委員会の決定 (会社法404条3項) |
監査等委員以 |
あり (改正会社法342条の2第4項、361条6項) |
なし |
なし |
取締役への重 |
・取締役の過半数が社外取締役である場合、取締役会の決議により委任可(ただし、改正会社法399条の13第5項各号に定める事項については不可) ・定款で定めれば可 (改正会社法399条の13第5項、6項) |
不可 (改正会社法362条4項) |
取締役会決議により可 (会社法416条4項) |
監査等委員会設置会社へ移行する場合の一般的なメリット・デメリットは以下のとおりであると考えられ、監査等委員会設置会社へ移行を検討するに際しては、これらのメリット・デメリットを勘案し、自社に適した機関設計といえるのか検討する必要がある。
① メリット
- 監査役(会)設置会社における監査役の任期が4年であるのに比して、監査等委員の任期は2年であるため、改選人事については柔軟な対応が可能となる。
- 監査等委員会設置会社の場合、社外役員は最低2名で足りるため、監査役会設置会社の場合(改正会社法施行後、定時株主総会において「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明すること等を避けるためには社外取締役1名、社外監査役2名が最低でも必要)と比較して1名少なくて済む(監査等委員は、現在の社外監査役の横滑りが可能)。
- 監査等委員が社外取締役として取締役会の議決権を有することからガバナンス強化が期待できる。
- 定款に記載がある場合または社外取締役が過半数の場合は、重要な業務執行の決定を取締役に委任することができ迅速な意思決定が可能となる。
② デメリット
- 監査等委員以外の取締役の任期が1年となる(伸長は不可)。
- 定款変更やその他諸規程の整備が必要になり移行や移行後の制度の運用にあたり、事務的な負担が生じる。
- 監査等委員以外の取締役の選解任・報酬等に関する意見陳述権等が付与されるなど監査役に比して監査等委員の権限が強化されているが、他方で取締役としての責任も発生するため、社外役員の人選が困難となる場合がある。
また、監査等委員会設置会社に移行するに際しては、以下の手続等が必要になると考えられる。
監査等委員会設置会社への移行手続の概要
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以上
(あおき・しんじ)
岩田合同法律事務所アソシエイト。2007年慶應義塾大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録。『新商事判例便覧』(共著、旬刊商事法務、2014年4月25日号~)、『Q&A 家事事件と銀行実務』(共著、日本加除出版、2013年)、『民事再生手続における取立委任手形にかかる商事留置権の効力』(共著、NBL969号、2012年)、「金融ADRから学ぶ実務対応」(共著、銀行実務2012年10月号)(共著、金融財政事情研究会、2014年)等著作多数。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。
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