◇SH3010◇中国:新型コロナウイルスに関連する契約不履行と不可抗力(後編) 川合正倫(2020/02/18)

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中国:新型コロナウイルスに関連する契約不履行と不可抗力(後編)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫

 

3 不可抗力を主張するための通知義務及び証拠提供義務

 契約法において、不可抗力の通知義務及び証拠提供義務が定められている点に注意が必要である。具体的には、不可抗力により契約の履行が不能となった当事者は、遅滞なく相手方に通知しなければならず、かつ、合理的な期間内に証明を提供しなければならないとされる(第118条)。また、不可抗力を主張する当事者が、不可抗力の発生、因果関係、契約の履行が不能となったことについて挙証責任を負うものと考えられている。

 このため、コロナウイルスに関連する措置により契約に従った履行ができなくなる当事者は、まずは契約書における不可抗力に関する規定を確認し、その内容に従った措置をとる必要があるが、契約上の明確な規定がない場合には、上記の契約法の規定に従うことになる。この点、CCPITは在中国の外資企業に対しても不可抗力事実性証明を発行している模様であり、国際貿易の当事者となる企業は当該証明書を通知の際の証拠資料として利用することが考えられる。また、自らの義務が履行できなくなった具体的原因(一般的に「経済状況の悪化」は当事者が予見すべき事情として不可抗力から除外されると考えられており、新型コロナウイルスとの関係では、例えば政府の各種制限措置や物流手段の欠航といった事情が該当すると考えられる。)及び当該原因事象と不履行の因果関係についても整理のうえ、関連する証拠を収集しておくことも重要である。

 

4 損失の拡大防止義務

 新型コロナウイルスに関連する措置が不可抗力と認定される場合でも、契約相手方や義務者が何らの措置もとらずに相手方の損失が拡大した場合には、損害回復が制限されうる点にも留意が必要である。

 まず、契約法では、相手方が違約した場合の他方当事者による損失の拡大防止の義務が定められており、違約当事者の相手方は適当な措置を講じて損失の拡大を防止しなければならず、適当な措置を講じず、これにより損失が拡大した場合は、拡大した損失につき賠償を請求してはならないとされている(第119条)。不可抗力が認定された場合にも同条の趣旨は妥当するものであり、相手方が不可抗力に陥った場合、他方当事者は、積極的に損失拡大を回避するための措置をとる必要があるものと考える。

 また、不可抗力に陥った義務者も、契約に従う義務の履行が困難な状況であっても、信義誠実の原則に従って、契約相手方に対して継続的に状況を報告し、可能な範囲で契約を継続履行するなど相手方の損失拡大を防止する義務を負っているものと考えるべきである。

 

5 契約履行への影響期間の起算時点及び損失賠償額の確定

 新型コロナウイルスに関連する措置が不可抗力に該当するという判断がなされる場合、契約履行への影響がいつから発生したのかという点も検討が必要となる。この点は見解がわかれうるが、比較的早期に影響が発生したとする立場は、国家衛生健康委員会が新型コロナウイルス感染による肺炎を「中華人民共和国伝染病防治法」に定める乙類伝染病とする公告を公布した2020年1月20日とする。他方で、WHOが新型コロナウイルス感染による肺炎を国際的に注意される突発公共衛生事件(Public Health Emergency of International Concern、PHEIC)と認定した2020年1月30日とする立場もある。

 SARSの際の事例を踏まえると、裁判所は契約履行への影響期間を考慮した上で、当該期間の債務の減免を認めるものと考えられるが、影響期間の起算・終了時点の判断にあたっては、政府による各種措置のみならず案件の具体的な情況を考慮した上で判断するものと思われる。

 

6 総括

 以上に記載したとおり、新型コロナウイルスに関連する義務の不履行に関して、裁判所は個別具体的な事情に基づき不可抗力の該当性及びこれに基づく効果を慎重に判断するものと思われるが、これまでの政府による制限措置が不履行の直接の原因となる場合等、一定の場合には不可抗力が認められる事案が出てくるものと考えられる。また、不可抗力の発生を主張する当事者は、不可抗力の発生後に速やかに相手方に通知を行うと同時に、挙証責任を負うほか、相手方の損害の拡大を防止する義務も負いうる点に留意する必要がある。

 

 ここまで不可抗力の該当性について分析したが、今後、仮に契約不履行となった当事者による不可抗力の主張が認められない場合であっても、事情変更の原則 や公平原則、損害の認定といった不可抗力とは別の枠組みを利用して、裁判所や仲裁機関が中国企業の責任を軽減する事例も出てくること、また、政府や裁判所から在中国企業の責任を軽減することを認める通知や指導が出される事態も想定される。

 

 本稿は2020年2月11日現在の情報に従い記載しているが、今後も各種の通達や指導意見等が公布されることが予想されるため、常に最新の情報を確認した上で対応策を検討する必要がある。

以上

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