◇SH0226◇シャルレ株主代表訴訟判決の争点と課題(1) 丹羽繁夫(2015/02/24)

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シャルレ株主代表訴訟判決の争点と課題(1)

-神戸地判平成26年10月16日-

一般財団法人 日本品質保証機構

参与 丹 羽 繁 夫

 神戸地裁平成26年10月16日シャルレ株主代表訴訟判決(以下「本判決」)がMBO関係者の間で関心を集めている[1]。本判決は、MBOを立案し、実現しようとした会社の取締役の責務について、経済産業省が平成19年9月に公表した『企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する報告書』(以下「MBO指針」)に依拠し、「MBOの完遂尽力義務」、「MBOの合理性確保義務」、「MBOの手続的公正性監視義務」及び「MBOの手続的公正性配慮義務」等の概念を導入し、株式会社シャルレ(以下「同社」)創業家一族の元取締役兼代表執行役及び創業家一族元取締役の「MBOの手続的公正性配慮義務」違反並びに情報開示義務違反を、さらに3名の社外取締役らの情報開示義務違反を認定した上で、同社が支出したMBO関連費用のうち、「本件MBOの頓挫に至る過程において、支出を余儀なくされた費用」について、「MBOの手続的公正性配慮義務」違反と損害との相当因果関係を認め、創業家一族の元取締役兼代表執行役及び元取締役に当該損害の賠償を命じた。

 しかしながら、本件MBOの検討過程における同社取締役の最も重要な業務執行は、社外取締役らによる株式公開買付けにおける1株当たり株式価値の算定及び賛同意見を表明するか否かであり、そうであれば、筆者は、本件株主代表訴訟においては、本来これらの業務執行に関連して、株式価値の算定と賛同意見の表明に係る取締役会決議に参加しなかった創業家一族取締役らによる「MBOの手続的公正性配慮義務」違反の有無ではなく、社外取締役らによる「MBOの手続的公正性配慮義務」違反の有無こそが問われるべきであった、と考える。

1. 事案の概要

(1) 同社がMBOを実施しようとした背景

 女性用機能性下着(以下「レディースインナー」)を主体とする衣料品・化粧品の訪問販売を業とする同社の売上高は、消費者の訪問販売離れ、レディースインナー販売の競争激化、販売代理店を務めてきた一般の主婦の高齢化等により、平成11年以降減少に転じ[2]、レディースインナー事業の変革と女性の美と健康に係わる事業領域への集中を図ることにより、同社事業を再生する方向性が模索されてきた。そのために、経営者自身に事業リスクを集中し、短期的な業績や株価の変動に左右されないで、経営者の自己責任において迅速かつ果敢に意思決定のできる経営体制への転換が検討された。

 同社創業家一族の取締役兼代表執行役であったH.K.(以下「被告H.K.」)は、創業家一族のファイナンシャル・アドバイザーであったハヤテインベストメント株式会社[3](以下「ハヤテ」)及びハヤテより紹介されたモルガン・スタンレーグループ[4](以下「MS」)との間で、同社の中長期的な企業価値向上のための経営施策について協議を重ね、平成20年4月頃には、MBO(以下「本件MBO」又は「本件MBO計画」)により、同社を中長期的に支援する中核株主の存在を前提として同社株式を非公開化し、事業運営を進めることが最善であるとの結論に至った。



[1] 日本経済新聞平成26年11月17日『シャルレMBO訴訟の教訓 取締役の株主軽視に警鐘』

[2] 売上高はピーク時の平成8年3月期の535億円から平成26年3月期には208億円まで減少。

[3] 創業家一族が投資銀行業務のために設立した株式会社。

[4] Morgan Stanley Capital、及びMorgan Stanley Private Equity Asia並びに後者がファイナンシャル・アドバイザリー業務を提供している投資ファンドと併せて。

 

 

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