EU、英国に関わる日本企業のBrexit対応ステップ – 法的観点から
渥美坂井法律事務所・外国法共同事業
弁護士 野 崎 竜 一
弁護士 落 合 孝 文
英国の国民投票でEU離脱派が勝利した。EU、英国に関わる事業を行う日本企業としては、EU離脱に関する事態の進展を注視し、柔軟な対応を取れるよう準備することが重要である。現時点で、企業が検討すべきポイントの例を以下に列記する。
1. EU単一市場へのアクセスの把握(現状の把握)
自社が英国を拠点にEU市場に展開している場合、例えば、次の点を検討する。
- ① 許認可
- ✓ 他の加盟国における許認可対象事業であるか
- ✓ 現在は「単一市場パスポート」の恩恵を受けたものか
- ✓ 英国のEU離脱後は現地での許認可を要するか
- ② 税制(関税を含む)
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✓ 租税(関税やグループ会社の体制と関わるものを含む)
2. 英国とEUとの間でなされる合意を想定(動向の確認)
現実性の程度は異なるが、既存モデルとしては以下のものがある。
- ✓ ノルウェーのようにEEAやEFTAのメンバーになる
- ✓ スイスのようにEUとの間に多数の協定を締結する
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✓ トルコのように関税同盟を結ぶ
3. EU単一市場へのアクセスが失われる場合の対応を検討
加盟国への拠点移転の場合に、英国及び移転先の国について、例えば以下の観点から、要するコストと時間を検討する。
- ✓ 許認可取得
- ✓ 労務
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✓ 税務
4. 英国内の制度の変化を検討
英国はEU離脱後、EUと異なる法制を整備し、英国内の環境が大きく変化しうる。知財を例にすると、以下の観点の検討が必要である。
- ✓ EU法のどの規則、指令、原則が英国の法律実務に影響を持ち続けるか
- ✓ EUでの統一特許や統一特許裁判所の交渉の進展への影響
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✓ 商品に表示が義務づけられる基準適合マークであるCEマークやコミュニティデザインに関する権利への影響
5. 現行の取引契約の見直し、格付への影響の検討
今回の国民投票とこれに関連して生じる可能性がある事項として、例えば以下の点を検討する。
- ✓ Material Adverse Change 等の契約終了事由
- ✓ 取引条件変更事由等への該当性
- ✓ 自社発行証券等の格付へ影響
- ✓ 契約の内容の一部又は準拠法としてのEU法(場合によっては英国法の一部として)指定の効力
- ✓ EU加盟国での判決の英国での効力
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✓ ライセンス・競業禁止義務その他契約の地理的適用範囲として「EU」を定めている場合の効力
6. 取締役の善管注意義務、コーポレートガバナンスの観点
取締役は、環境変化が大きいことから、上記諸事情を含む、幅広い事項を検討する必要がある。例えば、データ保護規則の適用がされず、EU域内から英国への情報移転が制限される場合であれば、内部通報のシステムといった、欧州における子会社グループ全体のコーポレートガバナンス体制の見直しが必要となる場合もある。