コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(149)
―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス㉑―
経営倫理実践研究センターフェロー
岩 倉 秀 雄
前回は、日本ミルクコミュニティ(株)のグループコンプライアンス具体策について述べた。
日本ミルクコミュニティ(株)では、会社法施行前の2004年から、コンプライアンス委員会を設置して、グループ全体の認識と情報の共有化を図った。
グループ会社の社長又はコンプライアンス担当役員がコンプライアンス委員会に出席し、グループ全体の活動方針に意見を反映できるようにするとともに、自社のコンプライアンス方針・活動施策の策定とその実施状況の報告を行ったが、それにより、コンプライアンスに関する当事者意識を高めるのに役立った。
また、一定の水準を確保するために、「グループ会社のコンプライアンス体制の構築・支援」を重点活動計画に謳い、関係部門とコンプライアンス部が共同でグループ会社のコンプライアンス体制の実態を確認・検証し、コンプライアンス委員会に報告した。
その他に、コンプライアンス担当者同士の連携を密にし、必要により親会社はグループ会社の問題解決に直ちに協力した。
コンプライアンス・アンケートは、グループ会社にも実施してグループ会社の状況を把握するとともに、結果を基に対応を求め改善に協力した。
既述したが、従業員相談窓口も、公益通報者保護法の施行前から設置していたが、施行後は親会社と子会社の他に、外部弁護士相談窓口を開設し、相談受付範囲を、親会社・子会社の役員・従業員(社員、契約社員、パート社員、嘱託社員)から、会社で働く派遣社員、請負業者の従業員、グループ会社の従業員に拡大した。
今回は、日本ミルクコミュニティ(株)の内部監査について考察する。
【日本ミルクコミュニィティ(株)のコンプライアンス㉑:コンプラインス体制の構築と運営⑦】(『日本ミルクコミュニティ史』425頁~428頁)
コンプライアンス部業務検査課は、内部監査・検査及び監査役の補助と監査役会事務局の他、ISO14001の認証取得を目指した時からは、内部環境監査業務も担当した。
1. 会社立ち上げ時(2003年度)の内部監査結果
初年度の内部監査は、2003年1月1日~3月末日までの3ヵ月間に対して、実施した。
日本ミルクコミュニティ(株)は、組織文化や業務管理方法の異なる3社が短期間に合併して設立された会社であるため、会社立上時は業務が大混乱していたので、詳細な監査は現場の混乱を招き意味がないと考え、内部監査テーマを、「会社の理念・方針の理解と浸透状況」、「業務遂行体制の構築状況と課題」、「規則等の周知をはじめとする業務管理の適正状況」、「業務の効率性・合理性の状況」に絞り、32部署に実施した。
その結果、会社の理念・方針は本社各部では概ね理解されていたが、事業部では理解・浸透が不十分であり、業務執行体制の構築は、本社部で一部整備されていたが事業部との連携が不十分だった。
一方、事業部は、初期の混乱のために業務管理体制ができておらず、特に債権管理に問題があった。
また、会社立ち上げ時の混乱により、ロジスティクス部門・システム部門・財務部門を中心に時間外労働が相当長時間に及んでおり、故障者も出ていたことから、その改善を指摘した。
2. 構造改革プラン時(2004年度)の内部監査
後述するが、日本ミルクコミュニティ(株)は、2003年度の会社立上時の大混乱により債務超過の危機に陥り、2003年11月の臨時株主総会で、社長以下役員の大幅交代が行われた。
新社長は、就任の記者会見で、赤字脱却のために構造改革プランを発表し、その推進のために、「実力主義」と「現場主義」[1]の方針を打ち出した。
そのため、2004年度の内部監査では、全国59部署に対して構造改革プランの進捗状況と組織風土改革の実施状況を確認・検証した。
(1) 主要監査項目
- ① 基本的な業務遂行体制の機能状況
- ② 構造改革プランと業務計画の実施状況
- ③ 信頼性の高い活力ある組織風土の形成状況
(2) 監査結果
- ① 基本的な業務遂行体制の機能状況
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債権管理、取引先管理、文書管理、資産管理等の主要項目はまだ十分といえないが、往査時の適正率は前年度に比べて全体的に向上した。
しかし、滞留債権の回収が不十分だったので、積極的な回収を指摘した。
また、労働法の改正を踏まえ、残業の削減を全社的テーマとして指摘した。 - ② 構造改革プランと業務計画の実施状況
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構造改革プランには、全部署が業務計画にブレークダウンし、利益計画の達成を最終目標に掲げ努力していた。
ほとんどの部署で計画を達成し、総体として計画を大幅にクリアーしており、歩留改善・期間原価の低減、運送費・棚卸減耗費の圧縮、積極的な販売促進と販売促進費の効率的投入等が、大幅な収支改善に繋がっていた。 - ③ 信頼性の高い活力ある組織風土の形成状況
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社長方針の「実力主義と現場主義」のスローガンは、全ての現場で掲示されており、所属長から従業員に対する説明も行なわれていた。
しかし、標語への共感はあるものの内容に対する統一的イメージは伝えきれていなかった。
経営幹部が現場に出向く「現場主義」は頻繁に行なわれ好感を持たれていたが、現場の意見を吸い上げ現場の活力を活かす本来の「現場主義」は十分に行なわれているとは言えなかった。
「実力主義」についての期待は大きかったが、評価が相対評価であるため、優秀な人材が集まっている部署の個人評価をどうするか等、不公平感や挑戦的な目標設定を避ける傾向等が危惧された。
コミュニケーションについては、維持・向上に努力しており概ね良好で、従業員のモラール(意欲)も維持されていた。
コンプライアンスについては、その重要性が浸透しつつあるが、理解は今一つであり、各部署長へのヒアリング結果と従業員へのヒアリング結果のギャップが大きかった。
つづく
[1] 実力主義とは、統合会社にありがちな各社に配慮した人事をなくし、実績を重視した実力主義の人材登用を行うこと、現場主義とは、現場に責任と権限を委譲して、迅速な市場対応と現場での課題解決を可能とすること。