東洋ゴム工業、株主代表訴訟に関する対応
岩田合同法律事務所
弁護士 鈴 木 正 人
東洋ゴム工業株式会社(以下「当社」という。)は、2016年8月26日、当社株主1名から、当社元取締役16名に対し、損害賠償を請求する株主代表訴訟(以下、「本件代表訴訟」という。)を提起した旨の訴訟告知書を受領したところ、現時点において、原告または被告のいずれに対しても補助参加することはない旨、を決定したと公表した。
本件代表訴訟は、当社が過去に取得した技術的根拠のない乖離値等を記載して申請した国土交通大臣認定、当社が過去に出荷した免震積層ゴム製品の一部における大臣認定の性能評価基準への不適合、当該事実判明後における当社による免震積層ゴムの出荷継続、同大臣に対する報告や事実公表の遅延が、当社元取締役が負う善管注意義務に違反するとして、当社の株主である原告が、当該元取締役に対し、損害賠償を求めるものである。以下、本事案を踏まえて株主代表訴訟における株式会社の補助参加について概説する。
旧商法下では、株式会社が被告側(取締役側)に補助参加する場合には、民事訴訟法42条が定める利害関係の要件を満たす必要があると解されており、補助参加を認めた最高裁判例も存在したものの、補助参加が許されない場合が不明確であるなどの課題があった。そこで、会社法は、不当に訴訟手続を遅延させることになるときや裁判所に対し過大な事務負担を及ぼすことになるときを除き、株主又は株式会社は、共同訴訟人として又は当事者の一方を補助するため責任追及等の訴えに係る訴訟に参加することができる旨を定め(同法849条1項)、訴訟結果への利害関係の有無にかかわらず、株式会社が株主代表訴訟に補助参加できることが明確になった。なお、株式会社の判断の適切性を担保するため、同社が当該訴訟において取締役側に補助参加する場合には、株式会社の機関設計に応じて各監査役、各監査等委員又は各監査委員の同意が必要とされている(同条3項各号)。
本事案では詳細な理由は明らかでない、当社が、現時点において、原告または被告のいずれに対しても補助参加することはない旨、を決定したとされている。
この点、東芝の株主代表訴訟において同社の監査委員(取締役)が不提訴とした判断が善管注意義務・忠実義務に違反するとして別の株主代表訴訟が提起された事案について、平成28年7月28日の東京地裁判決では、監査委員の善管注意義務・忠実義務の違反の有無は、当該判断・決定時に監査委員が合理的に知り得た情報を基礎として、同訴えを提起するか否かの判断・決定権を会社のために最善となるよう行使したか否かによって決定するのが相当であるとの判断が示されたようである(旬刊商事法務2016年8月25日号78頁)。
本事案は不提訴の判断ではなく、株主代表訴訟への補助参加の有無が論点となっているが、株式会社が補助参加するか否かを判断するに当たり、取締役(会)の決定や各監査役、各監査等委員又は各監査委員の同意に関して善管注意義務・忠実義務の履行の観点から、当社として現時点では原告または被告のいずれに対しても補助参加することはない旨、を決定した可能性があると考えられる。
株主が取締役に対して責任追及をした場合、株式会社の役員は同社がどのように当該責任追及に関与していくのか慎重な判断を行う必要があるところ、本事案は株式会社の対応として参考になると考えられる。
手続 | 条文 |
株主の株式会社に対する取締役等への責任追及等の訴えの提起請求 | 会社法847条1項 |
株式会社が不提起時における株主による責任追及等の訴えの提起、当該株主からの請求を受けた場合の株式会社の不提起理由書面の通知 | 同条3項、4項 |
株主による株式会社への訴訟告知 | 同法849条4項 |
株式会社による原告(株主)又は被告(取締役等)への補助参加の有無の決定 | 同条1項 |