◇SH0284◇最二小決 平成27年2月24日 最高裁判所がした訴訟終了宣言の決定に対する不服申立ての許否(小貫芳信裁判長)

未分類

 本件は、申立人に対する覚せい剤取締法違反被告事件について、申立人の上告取下げに伴い、最高裁がした訴訟終了宣言の決定に対し、弁護人及び申立人から不服申立てがされた事案である。
 

 最高裁判所の決定に対しては、特別の規定がない限り、最高裁判所が終審裁判所であるという性格からして、制度上、これに対する不服申立て(異議申立てを含む。)をすることは許されない、というのが基本原則である(河上和雄ほか編『大コンメンタール刑事訴訟法〔第2版〕第9巻』(青林書院、2011)785頁[古田佑紀=河村博])。
 これまでも、様々な類型の最高裁判所の決定又は措置に対する不服申立てが不適法とされている。例えば、①特別抗告棄却決定について最三小決昭和30・6・7集刑106号75頁、②判決訂正申立て棄却決定について最大決昭和36・10・3集刑139号513頁、③忌避申立て却下決定について最大決昭和30・12・23刑集9巻14号2991頁・2995頁、④上告受理決定をしなかった措置について最三小決昭和49・12・26集刑194号515頁、最一小決昭和51・6・10集刑201号9頁、⑤勾留期間更新決定について最三小決昭和59・9・21集刑238号53頁、⑥保釈請求却下決定について最三小決昭和60・1・11集刑239号1頁、最二小決昭和60・12・4集刑241号367頁、⑦保釈取消決定について最一小決昭和33・9・3刑集12巻13号2839頁、⑧勾留理由開示請求却下決定について最二小決昭和60・12・12集刑241号501頁などがある。
 この基本原則の例外として、判例上、①上告棄却決定に対する異議申立て(最大決昭和30・2・23刑集9巻2号372頁)、②最高裁判所での保釈保証金没取決定に対する異議申立て(最二小決昭和52・4・4刑集31巻3号163頁)のみが認められてきた。これらの不服申立ては、条文上の根拠はないものの、合理的理由と法律的必要性のあるとして、例外的に判例により創造された不服申立てと位置付けられる。
 

 訴訟終了宣言の決定に対する不服申立てが許されるかについて見ると、訴訟終了宣言の決定自体が、刑訴法上の明文根拠のない実務運用として定着してきた取扱いであり、これに対する不服申立てについても明文の規定はない。
 しかし、最三小決昭和61・6・27刑集40巻4号389頁は、高等裁判所がした控訴取下げによる訴訟終了宣言の決定に対する即時抗告に代わる異議を認めた。もっとも、この判例に関する最高裁判所判例解説では、「本決定は、高等裁判所の訴訟終了宣言決定に対する不服申立ての可否について判示するにとどまり、その適用範囲は広くない。最高裁判所の訴訟終了宣言に対して異議申立てが許されるかについては、なお慎重な検討を要すると思われる」とされており、最高裁判所の訴訟終了宣言に対する不服申立てについては消極的なニュアンスが示されつつも、今後の課題として残された形となっていた(最高裁判所判例解説刑事篇昭和61年度185頁〔岩瀬徹〕)。コンメンタール等の文献においても、この判例と解説が引用されているだけで、具体的な見解を示したものは見られなかった。
 最高裁判所がした訴訟終了宣言の決定も、訴訟の本案に関わるものである点は、高等裁判所がする訴訟終了宣言の決定と同じである。しかし、本決定は、「終審である最高裁判所がした訴訟終了宣言の決定に対しては不服申立てをすることが許されない」と判示した。この判断は、①高等裁判所のした訴訟終了宣言の決定は、終審である最高裁の判断を経ていないものであるのに対し、最高裁判所のした訴訟終了宣言の決定は、最高裁が、終審裁判所として、上告取下げという訴訟終了原因につき最終的な判断をしたものであって、これに対し更なる不服申立てを認める必要性はないこと、②最高裁判所のした決定に対する不服申立てを認めた上記2つの判例については、上告棄却決定に対しても判決訂正申立てに準じ不服申立てを認める必要があること、あるいは、決定に際して告知聴聞、防禦の手続が保障されていないため代わりに不服申立てを認める必要があることといった、例外的に不服申立てを認めるべき特段の必要性があるのに対し、最高裁判所のした訴訟終了宣言の決定については、申立人からの上訴権回復請求を受けて判断をしたもので告知聴聞、防禦の機会が保障されており、上記各判例のように更に不服申立てを認めるべき合理的理由及び法律的必要性がないこと、③判例理論により条文根拠のない例外的な不服申立て方法を次々と創造していくことは立法権との関係で慎重であるべきことなどを考慮したものと思われる。
 

 最近においても、最高裁判所のした決定に対する不適法な不服申立てが少なくないとのことであり、このような状況に照らすと、本決定は、終審である最高裁判所の決定に対し不服申立てをすることは許されないという基本原則を改めて確認したものと理解することできる。また、上記のとおり、高等裁判所がした訴訟終了宣言の決定に対しては異議申立てが許されるという昭和61年の最高裁判例があり、それとの違いを明確にした意義は大きいといえよう。
 
 
タイトルとURLをコピーしました