◇SH0359◇公取委、独占禁止法に関する相談事例集(平成26年度)の公表 柏木健佑(2015/07/01)

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公取委、独占禁止法に関する相談事例集(平成26年度)の公表

岩田合同法律事務所

弁護士 柏 木 健 佑

 公正取引委員会は、平成26年4月から平成27年3月までの間に同委員会に対して行われた主要な個別相談の概要を取りまとめた「独占禁止法に関する相談事例集(平成26年度)」(以下「26年度事例集」という。)を、17日、公表した。

 26年度事例集は、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(以下「流通・取引慣行ガイドライン」という。)の小売業者の販売方法に関する制限に係る相談を多く採り上げている。本稿では、そのうちの事例5と事例6について概観する。

1 小売業者の販売方法の制限についての判断基準

 事例5及び事例6は、いずれも、メーカーによる小売業者の販売方法の制限が問題となった事例である。小売業者の販売方法の制限について、流通・取引慣行ガイドライン第2部第2-6[1]は、当該商品の適切な販売のためのそれなりの合理的な理由[2]が認められ、かつ、他の取引先小売業者に対しても同等の条件が課せられている場合には、それ自体は独占禁止法上問題となるものではないとした上で、メーカーが小売業者の販売方法に関する制限を手段として、小売業者の販売価格、競争品の取扱い、販売地域、取引先等についての制限を行っている場合については独占禁止法問題となり得る[3]とする。したがって、公正取引委員会は、事例5及び事例6における販売方法の制限について、当該制限に「それなりの合理的な理由」があるか否かを判断することになる。

2 事例5及び事例6の事案

 事例5は、電子機器メーカーが、小売業者に対して、店舗での対面による電子機器の操作方法の説明を義務付けることについての相談事例である。制限の合理性に関連する事情としては、①当該商品は既存の製品であり、一般消費者からは当該電子機器の操作に関する問い合わせがほとんどなかったこと、②店舗よりも安い価格でインターネットを利用した販売を行っている一部の小売業者について、他の小売業者からの苦情を受けたことが制限の契機であったこと、③制限によりインターネットを利用した販売は禁止されることといった事情があった。

(出典:26年度事例集(公正取引委員会ホームページ))

事例6

事例6は、機械製品メーカーが、新商品を販売するに当たり、小売業者に対して、当該新商品の機能を一般消費者に説明することを義務付けることとした事例である。制限の合理性に関連する事情としては、①当該商品は新製品であったこと、②商品説明の具体的な方法として、(ⅰ)店員による説明又は(ⅱ)自社が作成した動画の小売業者のショッピングサイトへの掲載が求められたことといった事情があった。

(出典:26年度事例集(公正取引委員会ホームページ))

 

3 公正取引委員会の判断

 公正取引委員会は、事例5については独占禁止法上問題となるとする一方で、事例6については問題とならないとの見解を示した。両事例における販売方法の制限の程度には差があり、また、制限の必要性についても差異があり得たと考えられる。

 すなわち、制限の程度についてみると、事例5では、説明は店舗での対面の方法によらなければならないとされており、その結果、店舗より安価で販売していたインターネットを利用した販売は禁止されることとなる。これに対して、事例6では、インターネット上の販売に関して自社が作成した動画のショッピングサイトへの掲載で良いとされ、インターネット上での販売そのものは禁じられない。また、制限の必要性については、事例5は既存の電子機器についての判断であり、そもそも電子機器の操作方法の説明を義務付ける必要性に疑問があった様子が伺われる一方で、事例6については新商品の販売についての判断である。

 以上のような制限の程度や必要性の差が「それなりの合理的な理由」に関する公正取引委員会の判断に影響を与えた可能性が高い。

4 実務上の留意点

 メーカーが小売業者に対して販売方法の制限を課す場合には、その制限の必要性及び程度を慎重に判断する必要があると考えられ、販売方法を制限する一定の必要性が認められるとしても、より小売業者の負担の少ない方法を採用するなど、「それなりの合理的な理由」を確保する必要があると考えられる。



[1] 流通・取引慣行ガイドラインは平成27年3月30日付で一部改正されており、26年度事例集では改正前の規定が引用されている。そのため、26年度事例集では、小売業者の販売方法に関する制限の項目は第2部第2-5とされている。

[2] 平成27年3月30日付改正において、「それなりの」との文言が追加された。なお、当該文言の追加は、最判平成10年12月18日(最高裁判所裁判集民事190号1017頁、資生堂東京販売事件)で示された基準にあわせたものである。

[3] 抵触し得る規定として、独占禁止法2条9項4号(再販売価格の拘束)、一般指定11項(排他条件付取引)又は12項(拘束条件付取引)が挙げられている。

 

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