消費者契約法専門調査会のポイント(第14回)
森・濱田松本法律事務所
弁護士 児 島 幸 良
弁護士 粟 生 香 里
平成27年7月10日、内閣府消費者委員会において、第14回消費者契約法専門調査会が開催された。以下、その概要を報告する。なお、本報告において、意見に亘る部分は、すべて報告者らの私見である。
1.配布資料
以下の資料が配布された。
配布資料
資 料 1 個別論点の検討(8)(消費者庁提出資料)
資 料 2 山本健司委員提出資料
資 料 3 大澤彩委員提出資料
参考資料1 参考事例(消費者庁提出資料)
参考資料2 資料1の概要(消費者庁提出資料)
2.議事内容
消費者庁加納消費者制度課長から、資料1に基づいて、以下の論点ごとに説明がなされ、各論点についての審議が行われた。
(1)不当勧誘行為に関するその他の類型
①困惑類型(執拗な電話勧誘、威迫等による勧誘)
②不招請勧誘に関する規律
③合理的な判断を行うことができない事情を利用して契約を締結させる類型
(2)不当勧誘行為に基づく意思表示の取消しの効果
(3)取消権の行使期間
(4)事業者の損害賠償責任を免除する条項(消費者契約法8条)
(5)損害賠償の予定・違約金条項(消費者契約法9条1号)
①「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」の立証
②期限前の弁済に伴う損害賠償等
3.審議
(1)不当勧誘行為に関するその他の類型
- ① 困惑類型(執拗な電話勧誘、威迫等による勧誘)
- 執拗な電話勧誘に関する規律の在り方については、関連する他の法制の検討状況等を注視し、その結果等を踏まえた上で、必要に応じて検討することとしてはどうかとの提案に対し、特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)に関する議論等を参考とすべきとの賛同意見があった。
-
威迫等による勧誘については、A案(「消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、威迫をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる」という趣旨の規定を設ける案)、B案(「消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、粗野又は乱暴な言動を交えて威迫をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる」という趣旨の規定を設ける案)が示され、A案に対し、複数の委員から賛成意見があったが、B案にも賛成意見があった。
- ② 不招請勧誘に関する規律
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消費者契約法に不招請勧誘に関する規律を設けるか否かについては、関連する他の法制の検討状況等を注視し、その結果等を踏まえた上で、必要に応じて検討することとしてはどうかとの提案に対し、特定商取引法に関する議論等を参考とすべきとの賛同意見があった。
- ③ 合理的な判断を行うことができない事情を利用して契約を締結させる類型
- 事業者が一定の状況に置かれた消費者と契約を締結した場合に、事業者の主観的態様と締結した契約の客観的内容次第で、消費者が取消し又は解除によりその契約の効力を否定することができるという趣旨の規律を設けることとする場合に、(i)主観的要素として、例えば、消費者の判断力の不足、知識・経験の不足、心理的な圧迫状態、従属状態などを取り上げる提案((a)案)、これらを列挙した上で、「消費者が当該契約をするかどうかを合理的に判断することができない事情」との包括的な要件を設ける案((b)案)、事業者の主観的態様として、以上のような事情を「利用」した(自己の利益のために積極的に用いた)ことを要件とする提案((c)案)さらに、(ii)客観的要素として、一般的・平均的な消費者を基準として不必要な契約を締結したことを要件とする案が示された。
- (i)の提案((a) 案、(b)案、(c)案)、 (ii)の提案いずれについても複数の賛同意見があったが、要件が不明確となるおそれ等から、反対意見も示された。かかる反対意見に対し、要件は客観的に確定可能であることや規定の強い必要性を指摘する反論が示された。
(2)不当勧誘行為に基づく意思表示の取消しの効果
第12回消費者契約法専門調査会と同様の案(「事業者は、消費者に対して、物の使用により得られた利益や費消されて原物返還が不可能になった物の客観的価値、権利の行使によって得られた利益、又は提供を受けた役務の対価のそれぞれに相当する金銭の支払いを請求することができないという趣旨の規定を設ける」案(甲案)、「意思表示の当時、当該意思表示を取り消すことができることについて善意であった消費者の返還義務の範囲を現存利益に限定するという趣旨の規定を設ける」案(乙案)、「民法の解釈・適用に委ねる」案(丙案))が示された。意見は分かれたが、改正民法の解釈・適用に委ねた場合、消費者に契約の取消しを認めつつ、契約が有効であるのと同程度の返還義務を課すことになり得るという丙案の問題点が確認された。
(3)取消権の行使期間
取消権の行使期間については、民法改正を待つべきであるとの意見もあったが、短期3年、長期10年とする案に対し複数の賛同意見が示された。
(4)事業者の損害賠償責任を免除する条項(消費者契約法8条)
「消費者の生命に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項を無効とする」案(A案)、「原則として無効としたうえで、生命又は身体に対する侵害の程度、免除される事業者の損害賠償責任の範囲及び消費者契約を締結する目的に照らして合理的と認められる場合には、例外的に有効とする」案(B案)、「現行法の規定を維持した上で」消費者契約「法10条の解釈・適用に委ねる」案(C案)が示されたが、生命と身体を峻別するA案に対する違和感が指摘されたほか、B案を支持する複数の意見が示された。
(5)損害賠償の予定・違約金条項(消費者契約法9条1号)
- ① 「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」の立証
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立証責任を事業者に転換する規定を設ける案(A案)、消費者が立証の対象を選択できることとする案(B案)が示された。B案への賛同意見もあったが、A案に対し複数の賛同意見が示された。
- ② 期限前の弁済に伴う損害賠償等
- 期限前の弁済に伴う損害賠償請求に関する特則として、約定の返還期限までの利息相当額以上の部分を無効とする趣旨の規定を設ける案に対し、複数の反対意見が示された。
3.その他
次回開催予定:平成27年7月17日(金)13時~
以上