◇SH0384◇東京商工リサーチ、平成27年上半期の「コンプライアンス違反」を理由とする企業の倒産件数を公表 荒田龍輔(2015/07/29)

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東京商工リサーチ、平成27年上半期の「コンプライアンス違反」を理由とする
企業の倒産件数を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 荒 田 龍 輔

 

 株式会社東京商工リサーチ(以下「東京商工リサーチ」という。)は、平成27年7月17日、建設業法、医師法などの業法違反や特定商取引法等の法令違反、粉飾決算、脱税、詐欺・横領、及び不正受給等の法令違反、並びに粉飾決算、偽造等の「コンプライアンス違反」が一因となって倒産した企業の平成27年上半期(同年1月~6月)の件数等を公表した。以下、その概要について説明する。

 平成27年上半期に「コンプライアンス違反」が一因で倒産した企業は103件であり、前年と比較して3.7%減少しているところ(前年同期107件)、東京商工リサーチはこの点につき、金融機関における中小企業のリスケ要請に係る柔軟な対応や、大手輸出企業を中心とした景気の底上げで企業倒産が抑制されていることを挙げ、また、これに伴い「コンプライアンス違反」企業の経営破綻も表面化するケースが少なくなったものと分析する。

 他方で、上記103件の「コンプライアンス違反」の内訳を見てみると、前年よりもその数が増加しているものとして、不正な会計処理や虚偽の決算書作成等の「粉飾」によるものが前年(前年同期8件)と比較して112.5%多い17件、また、食品の産地偽装等の「偽装」によるものが4件(前年同期ゼロ)に増加している。一方で、前年よりもその数が減少しているものとして、脱税や滞納等の「税金関連」によるものが27件であり前年(前年同期35件)と比較して22.8%、「不正受給」によるものも9件であり前年(前年同期12件)と比較して25.0%減少している。

 上記103件の負債総額は751億7800万円であり、前年(前年同期815億4400万円)と比較して7.8%減少しているところ、他方で、負債5千万円未満での小規模倒産の件数は25件であり、前年(前年同期19件)と比較して31.5%も増えており、小規模企業の倒産が増加傾向にある。

 上記のとおり、平成27年上半期の「コンプライアンス違反」が一因で倒産した企業の件数は前年と比較してその総数は減少しているが、企業経営上、「コンプライアンス(法令遵守)」重視の傾向が強まっていることに疑いはない。企業において、「コンプライアンス違反」を一度なせば、消費者や取引先等の信頼を一挙に失い、事業の継続が困難になることは容易に予測し得る。事業継続が困難になった結果、企業が倒産、または倒産に至らないまでもその業績に深刻な影響が生じた場合、当該企業の役員においては、内部統制システム構築義務違反や他の取締役に対する監督義務違反等を理由として、株主等から多額の損害賠償を請求されかねない(会社法第423条等)(代表的な裁判例は以下の表を参照)。

 「コンプライアンス違反」の防止の観点からは、当該違反が意図的なものであれ、そうでないものであれ、企業において適切な内部統制システムを構築することは極めて有用である。この点、不適切な会計処理の問題に係る事案であるが、株式会社東芝の第三者委員会は、同問題の再発防止のため、内部統制部門の創設、取締役会による内部統制機能の強化等を指摘しているところである(株式会社東芝 第三者委員会作成の平成27年7月20日付調査報告書)。

 他社の「コンプライアンス違反」について決して対岸の火事などと考えず、現在のガバナンスについて懸念があれば、弁護士等の社外専門家と協議し、改めてその体制について検討することは重要であると考える。

 

【内部統制システム構築義務違反が認められた事案】

 

事 案

判決内容等

大和銀行事件
(株主代表訴訟)

(大阪地裁平成12年9月20日判決 判例タイムズ1047号86頁)

大和銀行ニューヨーク支店の行員が同行に無断で不正な取引を行い、その結果、同行に約11億ドルの損害を与えたことを理由として、株主が、当時、代表取締役及びニューヨーク支店長にあった取締役に対して、当該不正行為の防止、及び不正行為による損害を最小限にするための内部統制システムの構築に係る善管注意義務・忠実義務を怠ったとして、また、他の取締役等に対しても当該代表取締役らが当該内部統制システムを構築しているか否かの監視に係る善管注意義務・忠実義務を怠ったとして、当該損害を賠償するよう請求した事案(事案①)。

また、上記11億ドルの損害につき、米国当局に隠蔽していたとして、同行が米国で刑事訴追を受け、罰金3億4000万ドル及び弁護士報酬1000万ドルを支払ったことについて、当時、代表取締役及びニューヨーク支店長にあった取締役に対して、米国で営業を行うにあたり、米国法令を遵守せず行ったものであり、当該不正行為を防止する内部統制システムの構築に係る善管注意義務・忠実義務を怠ったとして、また、他の取締役等に対しても当該代表取締役らが米国の法令を遵守しているか監視する善管注意義務・忠実義務、上記合計3億5000万ドルを同行に賠償するよう請求した事案(事案②)。

裁判所は、(①と②事件を併合し)内部統制システムの構築等に関する取締役の善管注意義務・忠実義務違反等の存在を認め、取締役としての損害賠償責任をその寄与度に応じて認めた(7000万ドル~5億3000万ドル及び利息)。なお、裁判所は、業務の関与の程度を考慮し、一部の取締役及び監査役の責任を否定した。

なお、本件は最終的に大阪高裁において、和解金2億5000万円で和解が成立している。

  1. ※ 内部統制構築義務違反が問題となったと推測される事例において、役員が債務を負担する内容の和解が複数成立している。例えば、リコール隠しによる会社の11億7700万円の損害賠償請求がなされた三菱自動車工業事件(東京地裁、提訴日:平成13年3月12日)では和解金1億8000万円で和解が成立し、また、総会屋への利益供与による1億9400万円及びベネズエラの大統領選候補者への献金による1億6000万円の会社の合計3億7400万円の損害賠償請求がなされた神戸製鋼所事件(神戸地裁、提訴日:平成12年1月21日)では和解金3億1000万円で和解が成立している。
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