◇SH1074◇中国における外商投資管理および外国人就労許可制度の改革について 張 国棟(2017/03/23)

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中国における外商投資管理および外国人就労許可制度の改革について

北京金誠同達法律事務所 シニアパートナー

中国弁護士 張   国 棟

 

 昨年の法改正により、中国における外商投資管理制度が、従来の許認可制から届出制とネガティブリスト方式に移行され、外商投資企業の設立および変更に関する政府手続きが大分簡素化されている。一方、外国人来中業務許可については分類管理を実施することが明確になっている。本稿では、中国における外商投資管理制度の改革を中心に、外国人就労許可制度の改革についても紹介する。

 

Ⅰ 外商投資管理制度の改革について

 2016年9月3日、中国の全国人民代表大会常務委員会は「中華人民共和国外資企業法等4件の法律改正についての決定」(「改正決定」)を公布し、外資企業を対象とした「外資企業法」、「中外合資経営企業法」、「中外合作経営企業法」の「外資三法」と、台湾資本企業を対象とした「台湾同胞投資保護法」の計4つの企業法の改正案を可決した。それに続いて、2016年10月8日、商務部は「外商投資企業の設立および変更の届出による管理に関する暫定弁法」(「届出管理弁法」)を公布し、同日より施行されている。この2つの法令により、外商投資企業の設立および変更に対して従来から適用されてきた許認可制が届出制についに移行される。つまり、「外商投資産業指導目録(2015年改訂)」における制限類、禁止類および条件付け奨励類の外資投資項目を除き、外商投資企業の設立および変更は、事前に政府の許認可を取得する必要がなくなり、事後の届出のみで足りるため、従来から議論されたネガティブリスト方式が正式に採用されることになった[1]

 

1. 改革の背景

 今回の外商投資管理制度改革の背景には、外商投資環境に対する改善要求が考えられる。長年にわたり、中国政府は外商投資企業に対して租税の減免等の優遇措置を付与しつつ、設立、変更、解散・清算等の企業運営面においては許認可制度が適用され、厳格に管理、規制してきたが、中国のWTO加盟に伴い、外資企業のみへの優遇措置あるいは不利な措置(厳格規制)は自由貿易の「無差別原則」に違反すると指摘されてきた。

 公平な競争のビジネス環境を整備するため、中国政府は企業所得税の一本化と税目の統一等、外資企業のみの優遇政策を調整(縮減)したが、その中で、中国市場参入規制に関する改革が要求され、2008年初頭の中米投資協定の交渉が実施された。中米投資協定交渉において、貿易および投資の更なる開放促進が主要課題となり、中国の外資管理政策転換が促された。

 2013年の中米投資協定交渉において、中米双方は外資参入時の内国民待遇とネガティブリスト方式に基づく実効性ある交渉実施で合意した。同年9月に、中国は「上海自由貿易試験区」を設置し、初めて外資参入時の内国民待遇とネガティブリスト方式を採用した。当該上海自由貿易試験区においては外資管理の関連法規適用が停止され、ネガティブリストに記載されない業種に該当する外商投資に対する届出制への移行が試行された。

 中国政府は自由貿易試験区における改革経験に基づき、2016年9月3日に「改正決定」を公布し、これにより、外商投資管理制度の全面的改革の法令根拠が整備され、届出制への移行が正式決定された。「改正決定」と「届出管理弁法」の施行に伴い、届出制とネガティブリスト方式による管理という大きな転換を迎えた。

 

2. 改革の主要内容

 「改正決定」および「届出管理弁法」により確立された外商投資企業の管理制度の主たる内容は以下の通りである。

  1. ⑴ 事前許認可制から事後届出制への変更
  2.   今回の法改正において、最も注目されたのは、事前許認可制から事後届出制への変更である。「届出管理弁法」により、参入特別管理措置を実施する範囲(ネガティブリスト)を除いた外商投資企業の設立および変更につき、届出制による管理に切り替えることが定められている。
     
  3. ⑵ 届出事項および政府手続き
  4.   法改正後の届出手続きにおいては、ネガティブリストに該当しない場合、下記規定により設立または変更の届出を行うとされている。
    1. ① 届出手続きの時間要件
      「届出管理弁法」の第5条により、届出手続きの時間が企業の設立と変更に基づいて分かれており、設立の場合は、企業に届出を行うタイミングを選択する権利が付与されている。
       A) 設立の場合:企業名称の予備審査後、営業許可証取得の前または取得後30日以内
       B) 変更の場合:変更事由発生後30日以内
    2. ② 届出制対象の変更事項
      届出制に該当する変更事項は、以下の7種類がある。
       a) 企業の基本情報の変更
       b) 投資者の基本情報の変更
       c) 持分(株式)、合弁権利の変更
       d) 合併、会社分割、終了
       e) 外資企業の資産や権利に対する担保権の設定、または譲渡
       f) 中外合作経営企業の外国当事者による投資の先行回収
       g) 中外合作経営企業より経営管理の委託
  5. ⑶ 当局の監督管理強化
  6.  「届出管理弁法」には届出制度の監督検査について詳細に規定されている。管理機構は抜き取り検査、通報による検査、関連部門または司法機関のアドバイスによる検査、職権による検査などの方式により監督・検査を実施することができるとされる。また、商務部は全国範囲内で外商投資企業の法令遵守状況を反映する信用記録データベースを設立し、届出規定違反行為は当該データベースにより公示される。
     
  7. ⑷ 企業および出資者の法的責任
  8.  「届出管理弁法」第四章には、企業および出資者の違法行為に関する法的責任が規定されている。たとえば、外商投資企業またはその投資者が届出に関する規定に違反し、期限内に届出せず、または虚偽な届出をした場合、管理機構は期限を定めて是正を命じるものとし、期限を過ぎても是正しなかった場合、または情状が重大である場合には、3万元以下の罰金に処することができるとされる。許可なしでネガティブリストの投資が制限される業種で経営活動を行う場合、またはネガティブリストの投資が禁止される分野で投資・経営活動をした場合の罰則も明記されている。

 

3. 外資企業の留意事項

 従来、中国進出・撤退に際しては、最初に商務部門の許認可を経て、批准証書を取得した上で、工商行政管理部門における企業登記を行う仕組みであった。今回の外商投資管理制度改革により、30年間実施してきた許認可制度が基本的に終止符を打つことになる。これにより外資企業の設立、変更および撤退が、政府からの過度な行政介入を受けることなく自由に実現できることは、称賛に値する。

 しかし、許認可制度の変化への対応について、以下の点に留意する必要がある。

  1.  株主側の支配権変更を届け出る義務が追加されている
  2.  「届出管理弁法」によれば、株主側に支配当事者が変更された場合、30日以内に届け出なければならないとされている。外商投資企業の最終支配当事者の変更につながるオフショア企業間の買収等について可及的速やかに情報を把握することが政府側の思惑と思料する。
     
  3.  投資前の規制確認およびガバナンスの強化が急務である
  4.   以前の許認可主義時代において、外商投資企業の合弁契約、定款、増資契約、持分譲渡契約などの書類について、商務部門の許認可を得て初めて発効するとされている。投資分野の制限や特別管理措置の有無の確認はすべて政府側の義務とされている。しかし、規制緩和後において、これらの事前確認が当事者側の責任となり、またこれらの確認を怠って投資やM&Aなどを行った場合、その後政府により規制違反と判断されるリスクがあるほか、投資決定のミスにより損失を被る可能性もある。
    また、今までの許認可が廃止したことによって、上述の重要契約が当事者間の締結時より直ちに発効するが、その中には、企業再編に欠けない持分譲渡契約も含まれている。従来は政府の許認可取得は公の条件とし、取引の安全が保証される役割もあったが、今後、持分の二重売買など契約の有効性をめぐる紛争が生じ得るだろうと推測する。リスク管理として契約の有効性や契約の履行保証を入念に対応する必要があろう。
     
  5.  届出手続きと工商登記手続きの協調
  6.   届出手続きが導入されてから数ヵ月間の運用状況を見ると、各地の対応方法は必ず一致しているとは言えない。たとえば、上海などの地域では、商務部門の届出手続きが終わらなければ、工商部門の会社変更登記申請が実質上受理されない。一方、北京などの地域では、届出手続きの完了は工商手続きの前提条件として要求されない。また、会社清算の場合、届出義務の発生タイミングについて、清算の決定日か清算の終了日か、どちらから計算するかは、各地の運用に異なるところがある。投資者としては事業プランを組み立てるときに、現地法人所在地の実際運用状況を事前に把握する必要がある。

 このように、今回の改正より、投資の許認可という重荷がついになくなった代わりに、事後の管理が強化され、投資規制の確認や重要契約の管理強化など投資者の自己責任が強く求められるようになったと考えられる。

 

Ⅱ 外国人就労許可制度の改革について

1. 改革の主要内容

 2016年9月26日、国家外国人専家局が「外国人来中業務許可制度試験実施案の印刷発行に関する国家外国専門家局の通知」を公布した。当該通知に基づく外国人就労許可制度の改革は、2016年10月1日から2017年3月31日までにおいて北京市、天津市、河北省、上海市、安徽省、山東省、広東省、四川省、雲南省、寧夏回族自治区等地域で施行運用を経て、2017年4月1日から全国で施行される予定である。

 当該通知において、一番注目されている内容は、「ハイエンド人材を奨励し、一般人材をコントロールし、ローエンド人材を制限する」という原則により、中国で就労する外国人をA類(ハイレベル人材)、B類(専門人材)、C類(一般人員)の3種類に分類して管理を実施することで、それぞれの条件も詳細に規定されている。

 従来、地元の行政管理部門は、各地の状況に応じて、外国人就労許可あるいは外国専門家来中工作許可に対し、学歴(学部卒業以上)、年齢(60歳以下)等制限条件を設けていたが、新制度により、年間給与、学歴、勤務経験、中国における毎年の勤務時間、中国語の語学力、年齢など評価要素により総合的に評価する。

 上述のほか、従来の「外国人入国就業許可」および「外国人専門家就労許可」が「外国人来中就労許可」へ一本化される。当該「外国人来中就労許可」の番号は外国人就労者の中国での唯一かつ一生有効な就労番号であるため、就労手続きの不備、または社会保険および税金の納付不足など不良記録が残る場合、今後の就労に不利な影響を生じ、許可が下りない可能性がある。

 今回の新制度によって、外国人の就業許可管理体制の改善、審査プロセスの効率化が期待される一方、B類、C類人材の就業人数が制限される可能性がある。

 

2. 今後の影響と対応

 影響の大きさから新制度実施後、急激に厳格化されることは考えにくいが、中国で就業する外国人等に対する多元的な管理方針が明らかになっている状況で、外国人を現地採用するまたは駐在員を選任する際に、当該分類制度を念頭において、制度に適合する人材を選出することは必要になると考えられる。

 一方、一般的に日本企業では日本人を海外子会社へ派遣し、彼らを中心として「日本人による、日本の親会社のための経営」を行い、拠って、海外進出日系企業の人材現地化のレベルが低いと指摘されている。この新制度をきっかけに、優秀な現地従業員の能力を十分活用できるような現地化(ローカリゼーション)の仕組みを改めて検討する価値があると考えられる。

以上



[1] ネガティブリスト方式とは、原則として外資のすべての投資分野を対象に一般義務として内国民待遇、最恵国待遇、市場参入などの自由化義務を規律し、自由化義務の例外とする措置や分野をリストにおいて明示する方式である。

 

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