◇SH0472◇アサヒビール、特許侵害訴訟の勝訴判決に関するお知らせ 工藤良平(2015/11/12)

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アサヒビール、特許侵害訴訟の勝訴判決に関するお知らせ

岩田合同法律事務所

弁護士 工 藤 良 平

 

 サントリーホールディングス株式会社(以下「サントリーホールディングス」)が、アサヒビール株式会社(以下「アサヒビール」)に対し、アサヒビールが製造・販売するノンアルコールビールテイスト飲料「ドライゼロ」について、サントリーホールディングスの有する特許権の侵害を根拠に、製造・販売の差止めを求めて平成27年1月に訴訟提起をしていた件で、東京地方裁判所民事第46部(長谷川浩二裁判長)は、平成27年10月29日、原告であるサントリーホールディングスの請求を棄却する判決を下した。

 当該事件においては、アサヒビールによる「ドライゼロ」の製造・販売が、サントリーホールディングスの有する特許第5382754号「pHを調整した低エキス分のビールテイスト飲料」に係る特許(以下「本件特許」)を侵害するものであるかどうかが争われ、本件特許が、無効理由を有するか否かが争点となった。

 すなわち、本件特許出願前に、公知の発明等に基づいて容易に発明をすることができたと判断される場合、本件特許には「進歩性」(特許法第29条第2項)がなく無効とすべき理由があるため、特許権者であるサントリーホールディングスによる権利行使は制限される。

 本件特許は、ビールテイスト飲料であっても飲み応えが得られることを目的とした「エキス分の総量が0.5重量%以上2.0重量%以下であるビールテイスト飲料であって,pHが3.0以上4.5以下であり,糖質の含量が0.5g/100ml以下である」ことを特徴とする、いわゆる数値限定特許(発明特定事項を、数値範囲によって数量的に表現した発明)である。

 本判決においては、既に販売されていたノンアルコールビールテイスト飲料「オールフリー」及び「ダブルゼロ」に係る発明に基づいて、本件特許を容易に発明することができたとして進歩性が否定され、本件特許に無効とすべき理由があると判断された結果、特許権者であるサントリーホールディングスによるアサヒビールに対する権利行使が制限されることになった。

 もっとも、各種報道等によれば、サントリーホールディングスは、本判決を不服として知財高裁に控訴する意向であるとのことである。

 従前の裁判例において、数値を限定することによって発生する効果が、従前公知であった発明の有する効果とは異質であるために容易に想到できなかったり、また数値限定の内と外で量的に顕著な差異が存在するために容易に想到できないとして、「進歩性」が肯定される事例は少なく、数値限定による進歩性が肯定されている事例においては、従前公知であった発明において知られていた解決すべき課題との相違等、単に数値限定の効果に留まらない何らかの付加的な要素が認定された事例が多い。

 本件では、従前のノンアルコールのビールテイスト飲料に接した事業者において、「飲み応えが乏しい」という課題を認識することが明らかであり、課題を解決するための手段として「エキス分の添加」という方法を想到することは容易であった旨判示されていることから、数値限定による効果のみによっては進歩性が肯定されにくいという従前の裁判例の傾向を踏襲したものといえよう。

 

数値限定発明の「進歩性」判断基準(特許庁「特許・実用新案審査基準」)

 請求項に係る発明の引用発明と比較した効果が以下の(i)から(iii)までの全てを満たす場合は、数値限定の発明が進歩性を有していると判断される

  1. (ⅰ) その効果が限定された数値の範囲内において奏され、引用発明の示された証拠に開示されていない有利なものであること。
  2. (ⅱ) その効果が引用発明が有する効果とは異質なもの、又は同質であるが際だって優れたものであること(すなわち、有利な効果が顕著性を有していること)。
  3. (ⅲ) その効果が出願時の技術水準から当業者が予測できたものでないこと。
  4. ※ なお、有利な効果が顕著性を有しているといえるためには、数値範囲内の全ての部分で顕著性があるといえなければならない。

 

 

以 上

 

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