◇SH3086◇公取委、「飲食店ポータルサイトに関する取引実態調査報告書」公表 瀬戸山真(2020/04/02)

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公取委、「飲食店ポータルサイトに関する取引実態調査報告書」公表

岩田合同法律事務所

弁護士 瀬戸山   真

 

1 実態調査の目的

 近年、飲食店ポータルサイト[1]は、飲食店にとっては広告手段として、消費者にとっては飲食店に関する情報収集手段として多用されており、消費者と飲食店とをつなぐプラットフォームとして、重要な役割を果たしている。もっとも、飲食店ポータルサイトの需要が高まる中で、そのルールやシステムの不透明さ等から、独占禁止法上の問題を生じさせるおそれ又は競争政策上望ましくない取引慣行等が生じるおそれがある。公正取引委員会は、飲食店ポータルサイトの実態を明らかにすべく、飲食店ポータルサイトや飲食店等に対して、飲食店ポータルサイトに関するアンケート調査やヒアリング調査を実施し(以下「本調査」という。)、令和2年3月18日に当該調査結果を公表した。

公正取引委員会「飲食店ポータルサイトに係る取引の流れの概要(イメージ)」
(「飲食店ポータルサイトに関する取引実態調査報告書(概要)」より引用)

 

2 実態調査結果

 ⑴ 飲食店ポータルサイトの取引上の地位

 公正取引委員会は、飲食店ポータルサイトが飲食店との取引関係[2]において、両者の取引を止めることが飲食店の事業経営上大きな支障を来すため、飲食店にとって著しく不利益な要請等であっても、これを受け入れざるを得ないような場合には、飲食店ポータルサイトは優越的地位にあるとする。

 また、優越的地位の判断のためには個々の取引内容を踏まえる必要があるため[3]、一概には判断できないという前置きをしつつも、本調査結果を踏まえると、飲食店ポータルサイトの中には、優越的地位にあると言えるものが存在する可能性が高いと結論づけている。

  独占禁止法上問題となり得る行為

 飲食店ポータルサイトは、消費者と飲食店といった異なる複数の層が存在する両面市場性を有しており、これに係る取引については上記の図に記載されているように、様々な行為が介在する。本調査では、独占禁止法上又は競争政策上問題となり得る様々な場面が確認され、その調査報告書において、公正取引委員会はそれらの行為につき、注意喚起を行っている。以下では、飲食店ポータルサイトと飲食店の間で生じうる問題についていくつか取り上げる。

  1. (ⅰ) 一方的な契約内容の変更:優越的地位にある飲食店ポータルサイトが協議等を経ずに、一方的に契約内容を変更し、飲食店に対して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合は、優越的地位の濫用となるおそれがある。飲食店ポータルサイトとしては、変更理由の事前の説明及び両者間での十分な協議等を行うことが望ましい。
     
  2. (ⅱ) 検索結果の表示順位の決定や店舗の評価:飲食店ポータルサイトには、高額な手数料を支払うプランを契約している飲食店を検索結果の上位に表示するように設定したり、また、独自のルールにより飲食店の評価を算出したりしているものがある。飲食店ポータルサイトが、合理的な理由なく、恣意的に当該飲食店の表示順位を落とし又は評価を下げることにより、飲食店間の公正な競争秩序に悪影響を及ぼす場合等には差別取扱いとなる恐れがある。また、高額なプランに変更させるために、恣意的に表示順位を落とし又は評価を下げることにより、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合は、優越的地位の濫用となるおそれがある。飲食店ポータルサイトとしては、表示順位や評価に関係する重要な要素を可能な限り明らかにすることが望ましい。
     
  3. (ⅲ) 飲食店情報の掲載や口コミ:飲食店ポータルサイトでは、店舗情報や口コミ等が掲載されているが、飲食店からの修正・削除要請に応じないことが直ちに独占禁止法違反となるものではない。もっとも、かかる修正・削除要請があった際、加盟店か否かで異なる取扱いを行い、飲食店間の公正な競争秩序に悪影響を及ぼす場合等には、差別取扱いとなるおそれがあり、また、要請に応じることを条件として、加盟店になることを強制する場合には、抱き合わせ販売等となるおそれがある。飲食店ポータルサイトとしては、自身のサイト上に掲載される情報の正確性の向上に努めるべく、客観的にその情報が正確でないと判断できる場合等には、特段の条件なく、修正・削除に応じることが望ましい。
     
  4. (ⅳ) 飲食店の座席の確保:飲食店が複数の飲食店ポータルサイトを利用している場合、飲食店は予約可能な座席数を飲食店ポータルサイトごとに配分する場合があるが、飲食店ポータルサイトが他の飲食店ポータルサイトよりも多くの座席を求める等により、市場閉鎖効果が生じる場合は、拘束条件付取引となるおそれがある。

 

3 小括

 公正取引委員会は、社会における飲食店ポータルサイトの重要性が増していくと考えられることから、その競争を促進し、消費者利益の向上を図るために、独占禁止法上問題となる具体的な案件に接した場合には、引続き厳正・的確に対処するとしている。本調査は、飲食店ポータルサイトに限定したものではあったが、公正取引委員会が今般の本調査報告書に記載している懸念点や望ましい対応方法は、類似のポータルサイトを運営している他業種の運営者にも妥当するものと思われる。そのため、飲食店ポータルサイトの運営者のみならず、類似のポータルサイトを運営者においても、当該懸念点や望ましい対応方法につき、留意すべきである。

 



[1]   飲食店ポータルサイトとは、飲食店の店舗情報を地域別・料理のジャンル別・料理の単価別・利用シーン別等に分類し、掲載すると同時に、それらの情報を検索したり、飲食店を予約したり、消費者の感想等を投稿したりすることができるサイトのことをいう。

[2]   飲食店ポータルサイトと飲食店との間には、加盟店契約が存在する場合があり、これは大きく分けて飲食店が手数料を支払う有料加盟店契約と手数料を支払わない無料加盟店契約がある。また、飲食店ポータルサイトによっては、有料加盟店契約しか締結しないものも存在する。

[3]   個々の飲食店ポータルサイトの市場における地位、飲食店の加盟している飲食店ポータルサイトに対する取引依存度、加盟店にとっての取引先変更可能性等。

 

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