◇SH0546◇厚労省、セクシュアルハラスメントによる精神障害の労災認定について 臼井幸治(2016/02/08)

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厚労省、セクシュアルハラスメントによる精神障害の労災認定について

岩田合同法律事務所

弁護士 臼 井 幸 治

 厚生労働省(以下「厚労省」という)は、平成28年1月29日、セクシュアルハラスメントが原因で精神障害を発病した場合、労災保険の対象となることを公表した。

 セクシュアルハラスメントがあったことが認められた場合、民事責任として、当該行為を行った者には、不法行為に基づく損害賠償責任が発生する。また、判例上、企業は、労働契約上の付随義務として、信義則上職場環境配慮義務、すなわち被用者にとって働きやすい職場環境を保つように配慮すべき義務を負っているものと解されるほか(京都地裁平成9年4月17日判決等)、使用者責任(民法715条)を負う可能性がある。

 セクシュアルハラスメントの程度によっては刑事責任が課される場合もあり、性的な言動が身体的接触を伴う場合には強姦あるいは強制わいせつ罪が、悪意のある中傷等の形で他人の性的な噂を流して、その名誉を著しく傷つける場合には名誉毀損罪が成立する可能性がある。

 また、セクシュアルハラスメントがあったことが認められた場合、被害者が被った精神障害につき労災認定がなされる可能性がある。厚労省は、労災請求事案の処理を直接行う全国の労働基準監督署が、精神障害等の労災請求事案を迅速・適正に処理するための判断のよりどころとして、「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」を平成11年9月14日付けで都道府県労働基準局長宛てに通達し、さらに、労災認定の明確化のため、平成23年12月、「心理的負担による精神障害の認定基準」を定め、これに基づき労災認定を行っている。具体的には、厚労省は、精神障害の労災認定基準として、①認定基準の対象となる精神障害を発病していること、②認定基準の対象となる精神障害の発病前概ね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること、③業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと、を判断基準として労災認定を行っている。

 しかるところ、厚労省は、平成28年1月29日、セクシュアルハラスメントが原因で精神障害を発病した場合も、同様の基準により労災認定がなされることを確認的に公表した。

 これは、長時間労働等を原因としたうつ病の発生、ひいてはこれによる自殺等の事象のみならず、セクシュアルハラスメントが原因で精神障害を発病した場合も、当然に労災の対象となり得ることを確認的に公表し、周知を促したものといえる。

 このように、役職員によるセクシュアルハラスメントは、民事上の損害賠償責任のみならず、労働災害と認定されるリスクを有する。企業としては、セクシュアルハラスメントに該当する事象が発生し、被害者に精神的損害が現実に発生している場合、事実関係を把握しながら何らの対処も行わないときには、債務不履行責任(職場環境配慮義務違反)や使用者責任を負う可能性が否定できないものであり、かつ、労働災害として認定される可能性があることに十分に留意し、このような事実を認識した場合、速やかに対処する必要があること改めて認識しておきたい。

 

精神障害の労災認定基準

  • 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
  • 認定基準の対象となる精神障害の発病前概ね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  • 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

 

セクシュアルハラスメントに係る法的責任等

刑事責任

性的な言動が身体的接触を伴う場合
→ 強姦、強制わいせつ罪

悪意のある中傷等の形で他人の性的な噂を流して、その名誉を著しく傷つける場合
→ 名誉毀損罪

民事責任

加害者→ 不法行為責任

企 業→ 債務不履行責任、使用者責任

労働災害

精神障害の労災認定基準による。

 

 

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