◇SH0559◇全株懇ら、剰余金の配当に係る株主提案に関する標準モデルを公表 伊藤広樹(2016/02/16)

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全株懇ら、剰余金の配当に係る株主提案に関する標準モデルを公表

岩田合同法律事務所

弁護士 伊 藤 広 樹

 

 本年2月5日、全国株懇連合会は、日本経済団体連合会及び証券保管振替機構とともに、振替株式を発行する会社が株主から剰余金の配当に関する株主提案を受けた場合の対応の指針となる標準モデルを策定し、これを公表した。

 剰余金の配当の支払いに係る現行実務は、株主総会において、会社提案に係る剰余金の配当議案が可決されることを前提として、関係者が株主総会の開催前から配当金支払事務の準備を開始することにより成り立っており、株主提案に係る剰余金の配当議案が可決された場合は想定されておらず、これに対応できない状態になっている。

 しかしながら、昨今、株主からの増配要求が高まっていることから、株主提案に係る剰余金の配当議案が可決された場合であっても配当金支払事務の円滑な遂行が可能となるよう、本標準モデルが策定されるに至った。

 詳細については、全国株懇連合会のウェブサイト(https://user.kabukon.net/pic/44_1.pdf)にて公表されているが、本標準モデルの主なポイントは、配当金支払日の確定にある。

 具体的には、発行会社は、株主から剰余金の配当に関する株主提案を受けた場合、以下の事項を踏まえて、配当金支払開始日を確定した上で、株主総会を招集することが想定されている。(そのため、以下の事項については、発行会社と提案株主との間での調整が必要になる。)

1.  配当金支払開始日の後ろ倒し

 剰余金の配当に関する株主提案を受けた発行会社は、配当金支払開始日を、株主総会の日の翌営業日から起算して7営業日後の日以降の日に設定する。これは、配当金支払事務に最低限必要となる期間を確保する趣旨であるとされている。

 その上で、配当金支払開始日が配当基準日(多くの会社では決算期と同一の日と定められている)から起算して3ヶ月を超える場合には、基準日と権利行使日との間が3ヶ月以内であることを求める会社法124条2項に抵触しないかが問題になるところ、配当金支払開始日が配当基準日から起算して3ヶ月を超えるか否かによって、以下のとおり異なる対応をとることになる。

(1) 配当金支払開始日が配当基準日から起算して3ヶ月を超えない場合

 剰余金の配当議案の決議事項である「配当の効力発生日」(会社法454条1項3号)として、上記のとおり株主総会の日の翌営業日から起算して7営業日後の日以降の日に設定する「配当金支払開始日」を定める。(「配当の効力発生日」=「配当金支払開始日」)

(2) 配当金支払開始日が配当基準日から起算して3ヶ月を超える場合

 剰余金の配当議案の決議事項である「配当の効力発生日」(会社法454条1項3号)としては株主総会の日を設定し、それとは別に、「配当金支払開始日」(株主総会後3週間以内)を決議事項として定める。(「配当の効力発生日」≠「配当金支払開始日」)

 この点に関しては、前述のとおり会社法124条2項に抵触するのではないかが問題になるが、本標準モデルは、あくまでも「配当の効力発生日」については基準日から3ヶ月以内に設定することにより会社法の要請を充たしつつ、それとは別の概念として「配当金支払開始日」を定めるものである。かかる考え方は、基準日から3ヶ月以内には(「配当金支払開始日」ではなく)「配当の効力発生日」が設定されることが必要であり、かつ、それで十分であるという解釈を前提として、配当金の支払いに関する事務手続上、「配当の効力発生日」に配当財産の交付ができない場合であっても、合理的な期間内に配当財産の交付がなされる限り、会社に履行遅滞責任は発生しないと解する、平成26年改正会社法の立案担当者の見解(辰巳郁「剰余金配当に関する株主提案への実務対応と会社法上の論点」商事法務2087号33頁)を踏まえたものであると考えられる。

 

  • 配当金支払開始日が配当基準日から起算して3ヶ月を超えない場合
     「配当の効力発生日」=「配当金支払開始日」
      →  株主総会の日の翌営業日から起算して7営業日後の日以降
  • 配当金支払開始日が配当基準日から起算して3ヶ月を超える場合
     「配当の効力発生日」≠「配当金支払開始日」
      →  配当の効力発生日:株主総会の日
      →  配当金支払開始日:株主総会後3週間以内

 

2.  同一の配当基準日に係る配当金の取扱い

 剰余金の配当に関する会社提案議案と株主提案議案を対案として取り扱わず、株主が双方の議案に賛成することを制限しない場合には、配当金がそれぞれ別の日に支払われる可能性があり、配当金支払事務に負担が生じ得ることから、双方の議案に係る配当金支払開始日を同一日とする。

以 上

 

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