EU確約制度とコンテイナー・ライナー輸送に関する欧州委員会審査
亀 岡 悦 子
確約制度は、競争法に違反行為を企業自ら改善することを約束することと引き換えに、当局からの処分しないという制度で、当局と企業が協力して問題解決を目指す措置である。企業が競争当局に問題となっている行為の是正を約束するため、「確約(コミットメント)」と呼ばれる。環太平洋経済連携協定(TPP)中、当局と企業間で自主的に問題解決できる制度の導入が義務付けられたことを受け、既に公正取引委員会は、日本においても確約制度の導入を検討している旨、明らかにしている。公正取引委員会は、早ければ今年の通常国会に確約制度を導入する独禁法改正案を提出する予定である。同制度の導入の利点としては、柔軟な案件処理、審査期間の短縮、違反行為の早期是正、海外競争当局との制度上のハーモニゼーションなどが考えられる。
確約制度により、EUにおいてカルテルなどの深刻な違反行為以外を対象に年数件が処理されている。EUでの過去の事例としては、Sky-Team事件、Visa Europe事件、Coca-Cola事件、Microsoft事件、IBM事件があり、日本企業が関わる事件もある。
最近の確約手続事件として挙げられるのは、現在審査中のコンテイナー・ライナー輸送事業者間の慣行である。2011年5月の立ち入り検査に続いて、2013年11月から欧州委員会は、定期コンテイナー・ライナー輸送に携わる海運会社の値上げ発表の慣行を正式審査中である。海運会社1社が将来の値上げ情報を公開し、それにより競業企業が他社の将来の値上げの意図を察知し追随するという企業間の慣行が価格協調行為を導く恐れがあり、EU競争法上問題と考えている。本件では日本企業を含む15の海運事業者が対象となっており、それぞれのウェッブサイト、プレスリリース、業界紙などに貨物価格値上げのレベル、時期などを定期的に発表していた。当局は公表時期と値上げ実施時期がかなりはなれているため、実際には顧客にとって有益ではないと主張しているようである。そのため確約では、実施から数えて31日を超える事前公表はしないことを提案している。
欧州委員会は、市場テストにより確約が適切な解決方法であると示されれば、法的に拘束力を有する確約決定を採択することができるが、確約内容の提案は基本的に企業が自由に決定し、提案することができる。確約決定は、EU競争法違反が存在するかどうかについては結論を明らかにせず、法的に関係企業に確約を義務付けることができる点で企業側にも有利である。もし企業が確約に従わなかった場合には、当局はEU競争法違反を証明することなく、当該企業の全世界での売上高10パーセントまでの制裁金を課す権限を有する。
欧州委員会の懸念を解消するため、企業側はそのような将来の値上げ公表についての慣行の変更を含む3年間有効な確約を当局に提案している。手続規則1/2003により、欧州委員会は、この提案された確約の内容をEU官報に公示し、利害関係を有する第三者は公示の日から1ヶ月内に欧州委員会へ意見を表明することができる。本件で提案された確約内容や意見表明の方法は、欧州委員会のコミュニケーションとして、今年2月16日の官報(http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=uriserv:OJ.C_.2016.060.01.0007.01.ENG&toc=OJ:C:2016:060:TOC)に発表されている
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