契約の終了
第17回 継続的保証における契約の終了(下)
駿河台大学教授
上河内 千香子
Ⅳ 継続的保証における債務の終了と契約の終了
継続的保証は、以上のような原因を通じて債務が確定することとなり、附従性を回復した保証となる。確定した債務は履行等の債権一般の消滅原因に加えて主たる債務の消滅等保証特有の消滅原因により消滅することとなるが、本来、保証人の債務とは、主たる債務者がその債務を履行しないときにその履行をする責任(446条)であるため、保証債務を履行した場合には、求償権(459条、462条)を取得することとなる。この求償権の性質は、委託を受けた保証人の場合には委任事務処理の費用の償還請求権(650条1項)であり、委託のない保証人の場合には、事務管理費用の償還請求権(702条1項)に相当するものである。また、保証債務を履行した保証人は、債権者に代位する(499条)こととなる。ただし、上記は「債務の消滅」であるため、「継続的保証契約の終了」との関係を改めて検討する必要がある。
1 債務の終了と契約の終了に関する従来の学説
従来の学説において、「債権(債務)の終了」と「契約の終了」の関係については言及した論考は多くはない。例えば、我妻榮ほか『我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権〔補訂版〕』(日本評論社、2006)980頁においても、一回的契約についてであるが、債権の消滅原因によって消滅すれば、その契約はもはや存在せず、これを特に契約の終了として捉える必要はない、とのみ述べている。
また、伊藤進「私法規律の構造3―「債権契約の終わり方」の規律(五・完)―」法論89巻1号(2016)81頁においては、弁済等による債権消滅により債権の発生原因である契約も終了するか否かという問題について、現行民法については、契約次元規律=「債権機構」次元規律として一体同質の規律とみることが妥当であるという理解から、論理必然的に契約は終了する、と述べている。
そのほか、中田裕康『契約法』(有斐閣、2017)181頁以下においては、契約終了時の考え方について、[1]その契約から債権債務がもはや発生しなくなったとき[25]、[2]その契約から発生した債権債務が当然に消滅するとき[26]、[3]その契約の履行が完了したとき、[3]については、さらに、a その契約から発生した第1次的な債務がすべて履行されたとき[27]、b その契約から発生した第2次的な債務もすべて履行されたとき[28]、c その契約に関連する義務がすべて消滅したとき[29]、と分析している。
2 継続的保証における債務の終了と契約の終了の関係
継続的保証の債務は、①確定期日、確定原因、解約権行使等を通じて確定、②確定した債務が履行等により消滅したのち、③保証債務の履行等により発生した求償権・代位権の行使、という経緯をたどる。この点を1で言及した債務の終了と契約の終了に関する学説にあてはめてみると、①については、継続的保証における保証債務の発生が終了した段階、②については、債務の履行が完了したとき、③については、保証に関連する債権・債務がすべて消滅した段階、において契約が終了する、と解することになろう。①については、将来に向けた契約関係の不継続を契約の終了と解する典型的な継続的契約の終了の理解[30]に即しており、②については債務の履行(消滅)を契約の消滅と解する見解に合致しており、③については、保証契約を単純な二当事者間契約としてではなく、主債務契約、保証委託契約と強い牽連関係・相互依存関係を有する保証取引の構成部分と解する立場[31]に親和的である。しかし、②については、上記の従来の学説からは、継続的保証における債務の履行を直ちに契約の終了に結びつける根拠を見出すことはできない。また、③についても、継続的保証における契約の終了ではなく、むしろ保証取引の終了ともいうべきであろう。一方、①の理解は、継続的保証の構造に即して考えると、支分債務としての具体的保証債務が発生しなくなる時点を契約の終了と考えることとなるが、このような理解は、継続的保証と構造が類似している賃貸借契約の終了とも共通性を見出すことができる。
Ⅴ 契約の終了に関する見解
上記のように、継続的保証については、債務と契約の関係に着目して検討した場合、債務の発生が終了した段階で契約は終了すると解することができるが、以下の1身元保証契約の終了についての裁判例、2事業承継に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則は、別の視点から契約の終了について言及している。
1 身元保証の終了
かつて、身元保証法制定以前の永続的な身元保証契約について、身元保証における任意解約権行使が使用者と身元本人との間の平穏な関係を乱すおそれがあること、および、保証人が、永年の後に身元保証をしたことを失念して解約権を行使する機会を逃す可能性があるという理解から、保証契約は、契約成立後、債権者・債務者間の信頼関係が構築された後に消滅する、という考え方が主張されたことがあった。例えば、戒能通孝は、「元来身元保証は使用者をして被用者の人格・技術を使用させるために存するものである以上、ある年限が経過して使用者と被用者との間が相当に緊密になって来たらもはやその機能を果たしたというべきである。したがって、非常に長い期間の経過のあとには身元保証契約は終了するというべきではないか」と述べている[32]。
2 事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則
経営者保証の取り扱いについては、平成26年に中小企業庁により「経営者保証に関するガイドライン」がまとめられ、経営者保証に依存しない融資の拡大に向けた取り組みが進められている。しかし、上記の取り組みの中で、事業承継の際に経営者保証を理由に後継者候補が承継を拒むケースが一定程度あることが課題とされ、経営者保証が事業承継の阻害原因となることを防止する目的でガイドラインの特則(事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則[33])が令和元年に公表された。
上記のガイドラインの特則では、前経営者は、事業承継を契機に原則として第三者となるが、2017年度の民法改正の施行に伴い事業債務の第三者保証が制限されること(465条の6)、および、ガイドラインを通じて金融機関においては、経営者以外の第三者保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立が求められていることから、事業承継を契機とした保証契約の見直し[34]が提言されている。ここでは、主債務者と経営者が希望するのであれば、(1)法人と経営者との関係の明確な区分、分離、(2)財務基盤の強化、(3)財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保、という要件を満たした場合には、経営者保証の解除も可能となっている[35]。
3 検討
1の身元保証は、わが国に古くから存在する伝来型の保証であり、継続的保証の特徴としてあげられている、利他性、人的責任性、無償性、情誼性、未必性、軽率性、永続性、広汎性、という性質を備えているため、手厚い保証人保護を要するものと解されてきた[36]。一方、 2の経営者保証の場合には、保証人と主債務者は一心同体であり、かつ、経済的利益を追求・獲得する手段として会社は債務を負い、経営者が保証しているため、上記のような利他性、情誼性、軽率性を根拠に保証人を保護する必要性は乏しいと解されている[37]。このように、両者の保証は、いわば、対極的な位置づけにあるともいえるが[38]、上記で挙げた両者の契約の終了の見解は、主たる債務を発生させる継続的契約を通じて債権者・債務者間において信頼関係を構築することができた場合には、担保としての役割を担う保証契約を終了させる余地があることを示唆しているのではないだろうか。また、上記の理解は、保証債務の性質について、債権者は主債務者との関係でいわば潜在的な被害者であり、その場合に備えて普段から保証人に担保する給付をなさしめるものと解する「担保給付」の法理[39]を想起させる。
Ⅵ 結びにかえて
継続的保証契約は、主たる債務を発生させる継続的契約の担保としての役割を担うと同時に自らも継続的契約であるという点、及び、民法上「債務」と位置づけられているために、保証債務の履行を契約の終了に結びつけることができないという特徴を備えている。本稿では、このような特徴を備える継続的保証について、債務の終了と契約の終了の関係及び今日までの契約の終了に関する見解を手がかりに、継続的保証における契約の終了について検討を行った。本稿の検討により、債務の終了と契約の終了の関係については、継続的保証の構造に着目して、基本的保証責任から保証債務(支分債務)が発生しなくなる段階において契約は終了するという結論に至った。このことは具体的には、保証期間満了、元本確定期日、元本確定原因、解約権行使の段階で契約が終了することを意味する。
他方、本稿では、継続的保証における契約の終了についての見解を分析することを通じて、債権者・債務者間において信頼関係が構築された場合には、保証契約を終了させる余地があることを示唆した。このことは、保証債務を仮に「担保する給付」と解した場合には、上記の信頼関係の構築により将来に向けた担保給付が不要となったため契約の終了を認めたとも解することができる。上記の点からも、債務の発生が終了した時点を契約の終了と解することができるのではないだろうか。
以 上
[25] 例えば、期間の定めのある賃貸借契約の期間満了に伴い、賃料債務が発生しなくなった場合。ただし、この場合には、目的物返還義務や未払い賃料債務は残ることになる。
[26] 例えば、売買契約の解除によって代金債務が消滅する。ただし、この場合には、原状回復義務や債務不履行による損害賠償義務が残る。
[27] 例えば、建物売買契約で、引渡し、登記、代金支払いがすべて完了したとき。
[28] 例えば、建物の売買契約で、引渡し・登記・代金支払が完了した後に、その建物に契約内容に適合してない損傷があることが判明し、それについて売主の責任が履行されたとき。
[29] 例えば、被用者が、退職後一定期間、競業をしない義務を負っていたがそれが消滅したときなど。
[30] 賃貸借・雇用・委任を前提とした継続的契約の終了についてであるが、我妻榮ほか『我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権〔補訂版〕』(日本評論社、2006)980頁以下。
[31] 中舎寛樹「保証取引と相互協力義務」法論91巻2・3合併号(2018)159頁以下等。
[32] 戒能通孝「身元保証契約について」法時3巻5号(1931)3頁以下。同様の考え方は、勝本正晃「身元保証に就いて」法時3巻5号(1931)19頁以下、牧野英一『法律における具体的妥当性』(有斐閣、1925)52頁においても主張されている。もっとも、西村信雄『身元保証法の研究』(有斐閣、1965)291頁以下は、本文のような見解について、「使用者が通常身元保証制度に対して期待する機能は、雇い入れた者の不正行為によって生じた損害の填補を得ることであり、身元保証で請け合っている対象は、身元本人の人物・性能一般ではなく、使用者に損害を負担せしめないことである」と批判している。
[33] 経営者保証に関するガイドライン研究会。https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2021/10/guideline_sp-1.pdf
[34] 具体的には、前経営者・新経営者による保証の二重徴求を原則求めない、後継者による保証を慎重に判断する、及び一定要件の下での経営者保証契約の解除を検討する、という内容である。
[35] 本文以外にも、例えば、資産超過であるなどの財務要件を満たす中小企業に対して、経営者保証が提供されている借入れを借り換えて無保証とすることができる事業承継特別保証制度など、事業承継を契機とした経営者保証の解除を促進するための制度が創設されている。
[36] 西村・前掲注[3] 『注釈民法』150頁以下参照。
[37] 椿寿夫「法人(による)保証論のための序説」椿寿夫=伊藤進編著『法人保証の研究 明治大学社会科学研究叢書』(有斐閣、2005)12頁参照。