◇SH0622◇法のかたち-所有と不法行為 第十一話-6「自然と所有の法-伝統社会、環境・生態系」 平井 進(2016/04/08)

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法のかたち-所有と不法行為

第十一話  自然と所有の法-伝統社会、環境・生態系

法学博士 (東北大学)

平 井    進

 

6  カンボジアの新たな土地法制

 欧米による植民地支配から独立した地域のその後の土地法制について、次にカンボジアの例を見てみる。[1]

 フランスの植民地支配から独立したカンボジアは、ポルポト派による内戦を経た後、1993年に新たなカンボジア王国として復活する。内戦時代に法律家を含むエリート層がほとんどいなくなっていたため、新たな法制の設計は、支援を行う欧米諸国の意向によって、欧米の経済システムに適した仕方でなされることになる。

 2001年の土地法制は、従来、農民が耕作していた土地について、所有権の登記制度を導入する。この登記は、その前の5年間にその土地を平穏・公然と占有していた者がそのことを立証することによってなされるが、実際には、農民がその事実を文書で証明することは困難であるため、そのような土地は無主として国有化されることになる。これは、すべての土地に所有者を定めなければならないという所有権概念による。[2]

 この登記制度は所有権を対象とするが、従来その土地を耕作していた者が主張しうる権利(小作権・賃借権)を対象としていないために、上記の登記ができない農民は、結果として、先祖の代から耕作してきた土地を利用することができなくなる。このようにして国有化された土地は、新たに有力者に払い下げられ(多くは有力者間での土地転がしの対象となる)、農民との間で土地紛争が頻発しているとされる。

 このように、地域社会の慣習と住民の厚生を無視することは、植民地支配であるか否かに関わらず、土地を観念的に支配する形式による。こうしてみると、前述のように、明治の日本が所有権を認めつつ、一応、入会というコモンズの慣行を認めていたことは、世界史的に見て評価されてよい。

 なお、上記の土地の所有者の認定に関して、少からぬ国々で、森が自然のままである場合に、その土地を「有効」に利用していないと見る法制または運用があり、その森に住む住民は、先祖の代から住んでいた自由を失わないためには、その森を伐採せざるをえない。[3]

 


[1] 参照、金子由芳『アジアの法整備と法発展』(大学教育出版, 2010)23-31頁。

[2] ちなみに、明治時代の日本において、ドイツから来た政府顧問のモッセは、個人の所有に属さない土地を天皇の所有にすることを伊藤博文に提言していた。参照、奥田春樹『地租改正と地方制度』(山川出版社, 1993)496-497頁。

[3] 例えば、ブラジルの土地法では、「利用」していない森林が公有化されないようにするため、その地の住民はあえて森林を伐採することを迫られる(現在、「利用」の評価は、若干改善されているようであるが)。参照、福代孝良「ブラジルにおけるREDD+の特徴と日伯協力の可能性」海外の森林と林業, 82 (2011)。

 

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