◇SH0652◇法のかたち-所有と不法行為 第十三話-3「実体・因果性・相互作用のカテゴリーによる私法の一般理論」 平井 進(2016/05/10)

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法のかたち-所有と不法行為

第十三話  実体・因果性・相互作用のカテゴリーによる私法の一般理論

法学博士 (東北大学)

平 井    進

 

4 実体・因果性・相互作用のカテゴリーによる私法の一般理論

 カントは、その法論(私法)では『純粋理性批判』における概念を多用しているが、法関係について、『純粋理性批判』における前述の三つの原則のカテゴリー(実体・因果性・相互作用)に対応させた機能的な議論をしていない。[1]ここでは、人間主体の「内的な私のもの」を含めた「私のもの」を「実体」として、三つの原則における私法関係について一般化することを試みてみたい。[2]

 人間の主体の「実体」(人の身体・自由・名誉等)について見ると、不法行為は、それを「私のもの」として法的に保護されるべき「実体」の持続的であるべき状態と、第三者がその状態を「因果的」に変化させる(させた)ことに対して、人々の間の「相互作用」としてそれを救済する法作用をもつ。

 このようにしてみると、上記三つのカテゴリーは、私法に関して次のように考えることができよう。

第一 「実体」とは、その状態を持続すべきものとして、法が対象とするものである。

第二 「因果性」とは、他者の行為によって生起し、その「実体」の状態を変化させる原因と結果の関係である。

第三 「相互作用」とは、上記「実体」の状態の「因果的」な変化に対する法作用である。(これは、前述のように、社会がもつ普遍的かつ相互的な強制という法作用である。)

 ある「実体」の状態が事実として変化することに対して、それが変化すべきでない(持続すべきである)と考えることは、それが変化することについて法が関与すべきであるとする評価であり、また、その変化が他者の行為(不作為を含む)による場合を見るのは、社会における人の責任に関する法の評価である。法は、そのように評価する規範において、対象とする事象と関係者、およびその当事者間の関係のあり方を決め、社会に作用する。

 ここにおいて、「実体」に関する特定のことがらを「法の対象」とする規範をもち、その規範が「実体」の状態の特定の変化についてその状態を維持・回復すべきであるとし、そのことを実現するために、その変化に責任(因果性)がある者に対して必要な「法の作用」を定めることは、社会における法の役割である。

 上記の「実体の状態」の維持・回復という概念は、私法全体の基本にある理念であり、所有と不法行為の法は、この法理のうちの一つの分野である。これは、ある人の状態を侵害した(しようとする)者は、「法による私のもの」を維持または回復すべき義務を負うとして定式化することができる。



[1] 新カント派の法哲学者が、カントが批判的な法哲学の体系を構築しようとしながら、その法論については批判的方法を放棄していたとして評価していなかったこと等について、次を参照。木原淳『境界と自由-カント理性法論における主権の成立と政治的なるもの-』(成文堂, 2012)22-25, 28-29頁。

[2] ここでは、批判的方法が反映されていると見られる、法論の序論と本文の「私のもの」を参照する。

 

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