◇SH0695◇消費者庁、「消費者契約法の一部を改正する法律」の公布 永口学(2016/06/14)

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消費者庁、「消費者契約法の一部を改正する法律」の公布

岩田合同法律事務所

弁護士 永 口   学

 

 消費者契約法の一部を改正する法律が成立し、平成28年6月3日に平成28年法律第61号として公布された。この法律は、一部の規定を除き、平成29年6月3日から施行される(附則1条本文)。

 消費者契約法(以下改正前の同法を「現行法」といい、改正後の同法を「改正法」という。)は、消費者契約[1]における契約締結過程及び内容の適正化を図ることにより、消費者利益を確保し、もって国民の消費生活の安定及び向上に資することを目的とする。今回の改正は、高齢化の進展を始めとした社会経済情勢の変化等に対応して、消費者の利益の擁護を図るため、取消しの対象となる消費者契約の範囲を拡大するとともに、無効とする消費者契約の条項の類型を追加する等の措置を講じるものである。

 このうち、取消しの対象となる消費者契約の範囲の拡大に関する改正点は以下のとおりである[2]

 

1 過量な内容の消費者契約の取消し

 従来の取消し可能な類型に加え[3]、事業者が、消費者に対して消費者契約の締結を勧誘するに際し、当該消費者契約の目的となるものの分量、回数又は期間が当該消費者にとっての通常の分量等を著しく超えるものであることを知っていた場合において、その勧誘により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、当該消費者はこれを取り消すことができるとされた(改正法4条4項)。

 この点につき、政府参考人からは、過量性については消費者契約の目的となるものの内容、その取引条件、事業者が勧誘する際の消費者の生活の状況及びこれについての当該消費者の認識を総合的に考慮して判断されるとの見解が示されており、例えば、大量の健康食品や化粧品を売りつけた場合は、消費者の世帯構成人数その他の生活の状況等に照らし、賞味期限や使用期限に消費しきれないほどの分量があるものであれば過量であるとの見解が示されている[4]

 

2 重要事項の範囲の拡大

 改正前から、事業者により重要事項について事実と異なることを告げられ、消費者が当該内容を事実であると誤認して消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができるとされていたが(現行法4条1項1号)、かかる「重要事項」の範囲は、当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容又は取引条件で消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものに限定されていた(同条4項)。

 今回の改正により、「重要事項」の範囲が、上記のほか、消費者契約の目的となるものが消費者の生命、身体、財産その他の重要な利益についての損害又は危険を回避するために通常必要であると判断される事情にまで拡大された(改正法4条5項)[5]。この拡大に伴い取消しが認められる事例として、政府参考人より、①溝が大きくすり減って、このまま走ると危ない、タイヤ交換が必要と言われて新しいタイヤを購入した事例、②パソコンがウイルスに感染しており、情報がインターネット上に流出する恐れがあると言われウイルスを駆除するソフトを購入した事例、③このままだと2、3年後には必ず肌がぼろぼろになると言われ化粧品を購入した事例が挙げられている[6]

 今回の改正により、消費者保護のより一層の確保が図られると思料されるところであり、改正法が適切に運用されるか注視していきたい[7]

 

≪改正の概要≫



[1] 消費者と事業者との間で締結される契約をいい、事業者とは法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人を、消費者とは個人(事業者に該当する場合を除く。)をいうとされている(現行法2条1項乃至3項)。

[2] その他の改正点については、末尾の「改正の概要」を参照されたい。

[3] 不実告知(現行法4条1項1号)、断定的判断の提供(同項2号)、不利益事実の不告知(同条2項)、不退去・退去妨害(同条3項)の4類型である。

[4] 平成28年4月28日開催に係る第190回国会衆議院消費者問題に関する特別委員会における政府参考人(消費者庁審議官)井内正敏氏の発言。同氏からは、一人暮らしであり普段は着物を身に着けることがほとんどなく、一時的に着物が必要となる事情もない高齢者に対し、店舗で大量の着物を売りつける場合も過量と考えられる一方で、いわゆる爆買いはあえて大量の買い物をするために訪日しているのであり、そのような生活の状況に照らせば過量ではないと言える場合が多いとの見解も示されている。

[5] ただし、不利益事実の不告知については当該改正の適用はない(改正法4条5項柱書)。

[6] 前掲注4の井内氏の発言。

[7] 前掲注4の井内氏からは、政府による周知の大切さが語られており、その方法として、非常に分かりやすい事例集やパンフレットの作成、逐条解説における工夫、説明会の開催等が挙げられている。

 

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