◇SH0723◇最一小判(大谷直人裁判長)、債務整理を依頼された認定司法書士が、裁判外の和解で代理できない場合 柏木健佑(2016/07/05)

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最一小判(大谷直人裁判長)、債務整理を依頼された認定司法書士(司法書士法3条2項各号のいずれにも該当する司法書士)が、裁判外の和解について代理することができない場合

岩田合同法律事務所

弁護士 柏 木 健 佑

 

 最高裁は、6月27日、司法書士法に基づき簡裁訴訟代理等関係業務を行う権限が付与された認定司法書士に債務整理を依頼した依頼者が、当該認定司法書士に対し、認定司法書士が代理することができる範囲を超えて違法に裁判外の和解を行い、これに対する報酬を受領したなどとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき上記報酬相当額の支払等を求める訴訟につき、貸付金元本又は過払金の額が司法書士法3条1項7号に規定する140万円を超える各債権に関し、依頼者による請求を認める原審の判断を正当と判示して、認定司法書士側の上告を棄却した。

 周知のとおり、司法書士に簡裁訴訟代理等関係業務を担う権限を付与する認定司法書士制度の導入以後、特に多重債務事件に関し、司法書士が多くの役割を果たしてきたところである。しかしながら、認定司法書士が訴訟外で行う和解権限の範囲については、司法書士法3条1項7号の「紛争の目的の価額が裁判所法33条1項1号に定める額(注:140万円)を超えないもの」との規定の解釈を巡って、受益説と債権額説が対立してきた。受益説は、「紛争の目的の価額」は債権者が受ける経済的利益によって算定されるとする説であり、立法担当者による文献がこの立場をとっていたことから、司法書士の実務としては受益説に基づく解釈に基づく運用がなされてきた。それに対し、債権額説は、「紛争の目的の価額」は債権者が主張する債権額によって算定されるとする説であり、日本弁護士連合会は債権額説を主張し、司法書士と弁護士の業際問題も関連して対立があった。

 

 【受益説と債権額説】
受益説 債権額説

立法担当者の文献の見解、司法書士実務

日本弁護士連合会の説

  1. ►「紛争の目的の価額」は債権者が受ける経済的利益により算定
  2.  債務整理の場合は、残債務ではなく、残債務額の支払免除、支払猶予又は分割払い等の弁済計画の変更により依頼者が受ける利益が「紛争の目的の価額」となる
  1. 「紛争の目的の価額」は債権者が主張する債権額により算定
  2.  債務整理の場合は、貸付金の不存在を確認する金額又は過払金が生じている場合には過払金の額が「紛争の目的の価額」となる

 

 下級審では、広島高裁平成24年9月28日判決(判時2179号66頁)が受益説と債権額説の対立につき、いずれの説に立つかに踏み込むことなく、確立した判断がない状況において受益説に依拠した認定司法書士の行為は過失がないとの判断を行っていたが、その後、本件の原判決である大阪高裁平成26年5月29日判決(判例集未登載。NBL1031号65頁参照)、札幌高裁平成26年2月27日判決(判タ1399号113頁)が請求額説を前提とする判断を行っていた。

 最高裁は、今回、対立のあった認定司法書士の和解権限の範囲の解釈について、債権額説をとることを明確にした。その判断は、受益説によれば認定司法書士による和解権限の範囲は裁判外の和解が成立した時点で初めて判明することになり明確ではないとの批判に対応して、「和解の交渉の相手方など第三者との関係でも、客観的かつ明確な基準によって決められるべきであ」るとの理由に基づくものであり、至当なものと言える。一方で、これまで、対立する見解がある中で、受益説による運用が定着してきた司法書士実務は見直しを迫られると考えられる。当然のことではあるが、法令の最終的な有権解釈を行うのは裁判所、特に最高裁であり、たとえ立案担当者の見解であったり、実務上定着してきた運用であるからといって裁判所が必ずしもそれを追認するわけではなく、理論的な法解釈と実務感覚のバランスが重要であることについて、改めて考えさせられる事例である。

以上

 

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