◇SH0776◇労働継承法規則等改正 鈴木友一(2016/08/31)

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労働継承法規則等改正

岩田合同法律事務所

弁護士 鈴 木 友 一

 

1 はじめに

 平成28年9月1日、「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律施行規則」(以下「承継法施行規則」といい、同法を「承継法」という。)及び厚生労働省の告示である「分割会社及び承継会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針」(以下「承継法指針」という。)が改正され、また、同じく厚生労働省の告示として「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」(以下「事業譲渡等指針」という。)が新たに策定される。

 以下、上記改正につながる検討がなされた厚生労働省の研究会・検討会(以下「研究会等」という。)[1]の議論も参照しつつ、上記改正規則等の内容を紹介する。

 

2 会社分割に関する改正

 (1) 概要

  会社分割に関する承継法施行規則及び承継法指針の改正は、平成17年の会社法制定による制度改正や裁判例等の蓄積により、労働者保護の観点から必要となった対応がとられたものである。

 本稿では、5条協議[2]の対象・内容と、転籍合意の扱いに関する改正点を取り上げる。

 (2) 改正点の概要

 ア 5条協議の対象
 平成17年の会社法制定により、会社分割の対象が「事業」ではなく「権利義務」と改められた結果(会社法2条29号、30号)、会社分割により承継される事業に従事しない労働者の労働契約も承継対象とすることが可能となった。一方、研究会等では、意思に反して従事していた「事業」から切り離される労働者を生じさせないようにするという労働者保護の観点から、承継法上の手続の対象となる労働者は、なお「事業」概念により判断するのが適当とされた。そこで、今般の改正では、これらを踏まえ、自身は会社分割により承継される事業に従事しないものの労働契約は承継される労働者(承継される不従事労働者)も5条協議の対象に含まれることとなった(改正承継法指針第2の4(1)イ)。

 イ 5条協議の内容
 同じく会社法制定により、債務の履行の見込みがない場合であっても、会社分割の効力が否定されないこととなったため(会社法施行規則183条6号、205条7号)、研究会等では、会社分割により承継される不採算事業へと労働契約が承継される労働者、又は分割元に残される不採算事業に残留する労働者に対して説明を行い、理解を得ることが適当とされた。そこで、今般の改正では、この債務の履行の見込みに関する事項も、5条協議における説明事項とされた(改正承継法指針第2の4(1)イ)。

 ウ 転籍合意の扱い
 実務上、承継法による手続を行わず、転籍合意によって労働契約の移転、労働条件の変更等をすることが行われているが、研究会等では、この場合でも労働者には承継法上の手続が保障されるべきものとされた。そこで、今般の改正では、転籍合意をしようとする労働者に対しても、同手続は省略できないことなどが明記された上(改正承継法指針第2の2(5))、会社分割により労働契約が承継される場合には、従前の契約における労働条件がそのまま維持されることが、承継法2条1項の通知における通知事項とされた(改正承継法施行規則1条2号)。

図1 承継法施行規則及び承継法指針の改正による労働者の保護[3]

 

3 事業譲渡等に関する指針の策定[4]

 事業譲渡は、会社分割のような包括承継とは異なり、個別に権利義務移転行為を要する特定承継であり、労働契約の承継には労働者の同意が必要とされていることなどから、これまでは労働者保護のための法的措置は講じられていなかったが、研究会等では、実際には労働契約の承継等を巡る紛争が生じていることを捉え、ルールの整備が必要との考えが示されていた。

 これを受け、今般、新たに策定された事業譲渡等指針では、労働者・労働組合等との間で「行うことが『適当』」な手続との位置付けで、具体的な事前協議手続につき示されたことが注目される。各手続の概要は表1のとおりである。

   

  承継予定労働者[5]との事前協議
(事業譲渡等指針第2の1(2))
労働組合等との事前協議
(事業譲渡等指針第2の2(1))

対象者

承継予定労働者

労働者の過半数で組織する労働組合(これがない場合は、労働者の過半数を代表する者)

協議開始時期

真意による承諾を得るまでに十分な協議ができるよう時間的余裕をみて行うことが適当である

遅くとも承継予定労働者との協議の開始までに開始する(その後も必要に応じて適宜行う)のが適当である

説明・協議事項

・事業譲渡に関する全体の状況

・譲受会社等の概要、労働条件等

・事業譲渡を行う背景及び理由

・譲渡会社等及び譲受会社等の債務の履行の見込みに関する事項

・承継予定労働者の範囲

・労働協約の承継に関する事項 等

表1 事業譲渡を行う際の労働者・労働組合等との事前協議手続

 

4 まとめ

 以上のとおり、会社分割に関しては、今般の改正により、企業として行うべき労働者への対応がより明確化された。また、事業譲渡に関しても、新たな指針の策定により、義務化はされていないものの、労働者の同意取得に係る適否判断において重要な要素となり得る手続が具体的に示された。

 企業においては、会社組織の変動に際しての労働者対応の内容・スケジュール等を見直す必要が生じるなど、大きく影響を受けるものと考えられることから、ここに紹介した次第である。

以 上



[1] 厚生労働省「組織の変動に伴う労働関係に関する研究会」は、平成27年11月20日付け報告書を、同「組織の変動に伴う労働関係に関する対応方策検討会」は、平成28年4月13日付け報告書を、それぞれ公表している。

[2] 平成12年商法等改正附則5条に基づく労働者との個別協議をいう。

[3] 前掲1の平成27年11月20日付け報告書・概要②を参考に作成した。

[4] なお、合併に関しては、消滅会社の労働者の労働契約は存続会社等に包括承継される点、労働条件もそのまま維持される点が、留意事項として示された。

[5] 労働契約の承継を予定している労働者をいう。

 

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