◇SH1319◇弁護士の就職と転職Q&A Q10「『官庁出向』のメリットは?」西田 章(2017/07/31)

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弁護士の就職と転職Q&A

Q10「『官庁出向』のメリットは?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 弁護士のキャリアにおける「官庁出向」は、2005年の会社法制定、2006年の金融商品取引法の制定で一躍、脚光を浴びました。企業が新法の解釈の曖昧さを不安視していた最中に、立案を担当した弁護士が解釈の指針を示してくれたからです。官庁への出向の動きは、その後、企画部門だけでなく、検査・監督の現場部門にも広がりました。今回は、キャリア・プランニングとしての「出向」の位置付けを取り上げてみたいと思います。

 

1 問題の所在

 公務員の人員削減の流れを背景として、担当者に求められる法的思考力の水準も高くなったために、官庁は、弁護士等を任期付公務員として受け入れるようになりました。採用は公募形式で行いながらも、著名な法律事務所は、候補者の推薦を依頼されることがあります。法律事務所にとっては、当該部署との関係性を踏まえて、担当業務のノウハウを事務所に持ち帰ってきてくれる期待と、実働部隊のアソシエイトを奪われるデメリットを総合考慮して人選をすることになります。

 出向を打診されたアソシエイトは、話を持ってきたパートナーとの人間関係も考慮しながら、弁護士業務を中断することの影響と出向先での勤務経験と人脈作りの期待値を天秤にかけて、提案を受けるかどうかを判断することになります。同じ部署への出向であっても、その時点でどのような業務を担当して、そのノウハウと人脈を出向明けに活用できるのかによってその価値も変わります。そこで、出向先の担当業務に興味があったとしても「ジュニア・アソシエイト時代に行くべきか? それとも、留学帰りに行くべきか?」という悩みが生じます。

 

2 対応指針

 ジュニア・アソシエイト時代の出向は、事務所での業務に不満や行き詰まりを感じている場合の気分転換には有効です。ユニークな経歴を得ることは、海外ロースクールの留学申請書類にも活用できます。他方、シニア・アソシエイトの出向は、出向時のノウハウと人脈を、出向明けに即座に弁護士業務に活用することを意識して勤務に取り組むことになります。担当業務に関する専門性を高めるメリットはありますが、「色」が付くことにより、他分野に転向しにくくなるデメリットもあります。

 

3 解説

(1) 官庁出向のメリット

 官庁での勤務は、法律事務所の勤務とは異なります。文献でのリサーチよりも、有識者からのヒアリングが重視されます。正確なペーパーを脚注付きの長文で起案するよりも、(不正確でも)簡潔で要点をついた1枚紙が重視されます。理論的整合性よりも、関係者の利害調整が重視されます。出向者は皆が「職場体験」又は「社会科見学」としての価値を見出すことができますが、弁護士のキャリアとしては、「本業(弁護士業務)を怠ってまで、官庁勤務にフルタイムで専従する意義」を見出さなければなりません。

 アソシエイトが官庁勤務から得られる手土産は、「ノウハウ」、「人脈」と「経歴」に大別されます。「ノウハウ」と「人脈」は、任期が明ければ、次第に陳腐化してしまうことから、「弁護士復帰後にいかにアップデートできるか?」が課題となります。

(2) ジュニア・アソシエイトの出向

 ジュニア・アソシエイトの出向は、具体的なキャリア・プランニングには基づかないで「なんとなく」で実施されることが多いです。法律事務所側は、「ぜひともこいつを送り込みたい」と積極的に指名するわけではなく、「まぁこいつが所内の実働から外れても業務に支障が少ないだろう」という判断もあります。本人にとっても、事務所でのハードワークについていけないと感じていた場合には、「退職」という大きな判断を経ずに環境を変えることができるので「渡りに船」です。受け入れる役所側の課長や総括補佐としても、地頭がよくて素直なアソシエイトならば、使い勝手がよいです。

 本人にとって働きやすいかどうかは、課長又は総括補佐との相性に依る面が大きいですが、事務所時代よりは時間もできるので、留学準備には有効です。TOEFLの勉強に充てる時間も確保できますし、履歴書やエッセイには出向経験を記載することもできます。うまくいけば、役所の幹部からの推薦状を得ることもできるため、事務所勤務だけのアソシエイトよりもユニークな申請書類を作成することができます。

(3) シニア・アソシエイトの出向

 ジュニアであれば、出向先でのノウハウと人脈は、パートナーに献上することが想定されていますが、シニアであれば、「出向明けに、自らの弁護士業務にどう活かすか?」が出向の成否を決めます。役所内での上司から信頼を得ることができたら、出向後にも外部弁護士として研究会や勉強会等に声をかけてもらえるなど、付き合いを続けることもできます(役所の生え抜き幹部は、人事異動を経ながら、さらに重要ポストに就いていくことが予想されます)。

 ただ、弁護士としては、役所は情報源としては重要ですが、「金払いの良い依頼者」になることはありません(役所の委託調査を受けても持ち出しに終わることもよくあります)。弁護士としては、民間企業への営業において、役所勤務の「経歴」を活用することになります(依頼者との対面での打合せで役所との人脈を披露するのは構いませんが、論文やセミナーにおいて、殊更に「元○○官」の経歴をアピールしながらも誤ったコメントなどをしていると、役所からの信頼を失ってしまうので留意が必要です)。自ら依頼者企業への売り込みが苦手なタイプであれば、先輩又は同僚弁護士に対して、自己の専門性を知っておいてもらって、弁護士からの案件紹介を期待することになります。

 役所での担当業務のノウハウは、すぐに陳腐化してしまうので、出向明け直後にこそ活用する意味があります。まずは、出向経験を生かして特定法分野の依頼を獲得し、その次には、依頼者との関係を深めて、取扱い分野を広げて行く努力が求められます。いつまでも出向時のノウハウだけで食いつなぐことはできません。

以上

 

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