◇SH0840◇冒頭規定の意義―典型契約論― 第20回 冒頭規定の意義―制裁と「合意による変更の可能性」―(17) 浅場達也(2016/10/18)

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冒頭規定の意義
―典型契約論―

冒頭規定の意義 -制裁と「合意による変更の可能性」-(17)

みずほ証券 法務部

浅 場 達 也

 

Ⅲ 冒頭規定と諸法

(7) 雇用

ア 「冒頭規定の要件に則る」方向
 雇用に関しては、近時「労働契約法」が制定され、「労働契約」の内容規制が行われている。「労働契約」は、「雇用契約」と同一の契約と解すべきとの考え方が有力であり[1]、「労働契約」の内容規制により、雇用の冒頭規定の要件の安定性は、増大すると考えられる。

イ 「冒頭規定の要件に則る選択を否定する」方向
 「雇用」なのか、それとも「請負」なのかが争われることがある[2]。「雇用」であるためには、「使用者の指揮命令に服すること」が必要とされている。この点については、下の【雇用・請負・委任の区別のメルクマール】で、雇用・請負・委任の3つをまとめて検討する。

(8) 請負

ア 「冒頭規定の要件に則る」方向
 請負契約との関連では、取引社会に広く浸透しているという観点から、建設業法が重要である。同法19条は、建設工事の請負契約の内容について定めており、これを基に、建設請負約款が作られている。冒頭規定(632条)の内容を持つ建設に関わる契約が、建設業法上の「請負」であることを、当事者の合意で変更・排除することは、難しいだろう。

イ 「冒頭規定の要件に則る選択を否定する」方向
 当事者が「請負」としていても、その形式が否定されることはあるだろうか。「仕事の完成」が契約の目的となっていない場合、否定されることがあるだろう(下の【雇用・請負・委任の区別のメルクマール】を参照)。

(9) 委任

ア 「冒頭規定の要件に則る」方向
 委任に関しては、(あまり一般的な法律ではないが、)「任意後見契約」が重要であろう。任意後見契約の契約文例として、「甲は○○を委任し、乙は受任する」とするものが多い。公正証書の作成・家庭裁判所の関与が予定されており、任意後見に関し、委任の冒頭規定(643条)の内容を持つ契約が、任意後見契約に関する法律2条の「委任」に該当することを、当事者の合意により変更・排除することは難しいと考えられる。

イ 「冒頭規定の要件に則る選択を否定する」方向
 当事者が「委任」としていても、例えば、何らかの「仕事の完成」を目的とする場合、「請負」とされることがある。特に、一定の成果を出すことを含む委任である場合、印紙税法上、「請負」と扱われることは、(課税当局の指摘等を通じて、)少なからずみられることである。

 

【雇用・請負・委任の区別のメルクマール】

 上で検討した「雇用」「請負」「委任」は、「一定の役務の提供」に対し「報酬の支払い」が行われるという共通点を持っており、それらの境界は必ずしも明確でないといえるだろう。これまでの裁判例は、それぞれの契約の要件として、雇用であれば「使用者の指揮命令に服すること」(「労務に従事すること(民法623条)」)、請負であれば「仕事の完成(民法632条)」、委任であれば「自己の裁量による事務(民法656条)の処理」を大筋において要件と考えてきた[3]。その結果、冒頭規定(またはそれに準ずる656条)の文言の一部が強行的な効力を持ち、「当事者の合意による変更・排除が難しい規律」が作り出されてきたといえるだろう。このため、当事者が契約の形式を「雇用」「請負」「委任」とした場合でも、その内容としてそれぞれ「指揮命令に服すること」「仕事の完成」「事務の処理」という内実を伴っていない場合(例えば、「雇用」であれば、「指示に対する諾否の自由があったとき」、「請負」であれば、「仕事の完成を目的としないとき」、「委任」であれば、「事務の処理を目的としないとき」)は、裁判において、それぞれ「雇用」「請負」「委任」という形式が否定されることになるだろう。



[1] 土田道夫『労働契約法』(有斐閣、2008)46頁を参照。

[2] 労働省職業安定局編『雇用保険法解釈総覧』(労働法令協会、1988)70頁を参照。

[3] 高橋眞「623条」篠塚昭次=前田達明編『新・判例コンメンタール・民法8』(三省堂、1992)1-2頁を参照。

 

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