国交省、建設工事における一括下請負の判断基準を明確化
岩田合同法律事務所
弁護士 田 中 貴 士
本年10月14日、国土交通省は、建設工事における一括下請負について新たな判断基準を策定し、建設業団体、都道府県・政令市、主要発注機関宛に通知を発出した(平成28年10月14日付国土建第275号)。
一括下請負の禁止(建設業法22条)に関しては、「一括下請負の禁止について」(平成4年12月17日付建設省経建発第379号、以下「旧通知」)により一定の判断基準が示されていたところであったが、今般の通知では、元請負人、下請負人それぞれが果たすべき役割が具体的に定められ、判断基準の明確化が図られた。本稿では、この一括下請負の新たな判断基準について紹介する。
1 一括下請負の禁止
建設業法22条は、建設業者が受注した建設工事を一括して他人に請け負わせること(同条1項)、建設業を営む者が他の建設業者が請け負った建設工事を一括して請け負うこと(同条2項)を禁止している。建設工事を請け負った建設業者が、施工に実質的に関与することなく下請負人にその建設工事の全部または独立した一部を「丸投げ」することを禁止したもので、これを容認すると、発注者が建設業者に寄せた信頼を裏切ること、施工責任が曖昧になり手抜き工事や労働条件の悪化につながること、中間搾取を目的に施工能力のない商業ブローカー的不良建設業者の輩出を招くことなどが、その禁止の理由である。
この一括下請負の禁止は、建設工事の規模や請負金額の多寡にかかわらず、また、下請負人間の下請契約であっても適用される。
2 背景
平成27年に横浜市のマンションの事案を契機として判明した基礎ぐい工事のデータ流用問題を受け、その再発防止策が検討される中で、建設業の構造的な課題に関する対策として、元請・下請の施工体制上の役割・責任の明確化と重層構造の改善の必要性が指摘された[1]。また、その後の国土交通省の審議会により、旧通知では、下請工事の施工に実質的に関与していると認められる場合には一括下請負に該当しないものとされているものの、その「実質的に関与」の判断基準について元請と下請の区別が特段なされていないため、一括下請負に当たるか否かの判断が容易に行えない場合があるとの指摘があり、実質的に施工に携わらない企業を施工体制から排除し、不要な重層化の回避を図るため、一括下請負の禁止についての判断基準の明確化を図る必要があるとの提言がなされた[2]。今般の新たな判断基準は、かかる提言を受けて策定されたものである。
3 一括下請負の判断基準の明確化
元請負人が下請工事の施工に実質的に関与することなく、請け負った建設工事の全部、主たる部分、または独立した一部分を一括して他の業者に請け負わせる場合に一括下請負に該当することは、これまでと同様である。
今般の通知では、この「実質的に関与」の判断基準について、元請負人(発注者から直接請け負った者)、下請負人(それ以外の者)それぞれが果たすべき役割が、施工計画の作成、工程管理、品質管理、安全管理、技術的指導、その他の6項目に整理されて定められた。元請負人はその役割事項をすべて行うことが必要とされ、一方、下請には様々な形態が想定されることから、下請負人はその役割事項を主として行うことが必要とされている。ただし、下請負人であっても、同業者間で単一の業者と下請契約を結ぶ場合については、一括下請負に抵触するおそれが高いことから、特に重要な3つの役割事項(表の※)をすべて行うことが必要とされている。
元請負人(以下の事項をすべて行うことが必要) | 下請負人(以下の事項を主として行うことが必要) | |
施工計画の 作成 |
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工程管理 |
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品質管理 |
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安全管理 |
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技術的指導 |
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その他 |
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4 おわりに
建設業者が一括下請負の禁止に違反した場合、監督処分の対象となり、国土交通省は、再発防止を図る観点から原則として営業停止の処分としている(建設業法28条1項4号)。
一括下請負の禁止については、これまでも十分に留意されてきたところとは思われるが、新たな判断基準に照らして改善等すべき点がないか、改めてご留意いただくことが必要であろう。
[1] 国土交通省、基礎ぐい工事問題に関する対策委員会による「中間とりまとめ報告書」(平成27年12月25日)
[2] 国土交通省、中央建設業審議会と社会資本整備審議会産業分科会建設部会合同の基本問題小委員会による「中間とりまとめ」(平成28年6月22日)