金融庁、「記述情報の開示に関する原則」及び
「記述情報の開示の好事例集」を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 森 駿 介
1. 「記述情報の開示に関する原則」及び「記述情報の開示の好事例集」の公表経緯等
金融庁は、本年3月19日、「記述情報の開示に関する原則」(以下「本原則」という。)を策定するとともに、「記述情報の開示の好事例集」をとりまとめ、公表した。
有価証券報告書は、その開示内容が多岐にわたり、投資情報としての重要性が高いことは言うまでもないが、形式的な記載にとどまるものも多く、投資家にとって必ずしも十分有用なものとなっていない実態があった。
こうした中、平成30年6月に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告において、ルールへの形式的な対応にとどまらない開示の充実に向けた企業の取組みを促すため、開示の考え方、望ましい開示の内容や取り組み方をまとめたプリンシプルベースのガイダンスを策定すべきと提言された。
本原則は、上記提言を踏まえ、財務情報以外の開示情報である、いわゆる「記述情報」について、開示の考え方、望ましい開示の内容や取り組み方をまとめたものである。
また、「記述情報の開示の好事例集」は、金融庁が開催している投資家・アナリスト及び企業による開示の好事例(ベストプラクティス)収集のための勉強会において集められた開示例を取りまとめたものである。
なお、上述の金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告を受けて、本年1月31日に企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令が公布・施行されており、記述情報の開示内容が追加されているが、本原則の内容は、当該改正後の企業内容等の開示に関する内閣府令を前提としている。当該改正の内容及び適用時期等については、以下の記事をご参照頂きたい。
SH2330 企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令 佐藤修二(2019/02/12)
2. 本原則の概要
⑴ 本原則の目的等
本原則は、記述情報の中でも、投資家による適切な投資判断を可能とし、投資家と企業との深度のある建設的な対話につながる項目である、経営方針・経営戦略等、経営成績等の分析、リスク情報を中心に、有価証券報告書における開示の考え方等を整理することを目的としている。ただし、金融庁は、ガバナンス情報等の上記以外の記述情報の記載に当たっても、また、有価証券報告書以外の開示(諸法令又は取引所規則に基づく開示や任意の情報提供)においても、本原則を踏まえた実効的な開示をすることが期待されるとしている。
なお、本原則は、企業情報の開示について、開示の考え方、望ましい開示の内容や取り組み方を示すものであり、新たな開示事項を加えるものではない。
⑵ 本原則の要点
本原則のポイントは下表のとおりであるが、本原則は、経営者自身に事業の現況や経営方針等の説明を求める点に特色がある。取締役会や経営会議における議論を反映することが求められ、経営者には早い段階から開示書類の作成に関与することが期待されている。
また、記述情報の開示に当たっては、自社の企業価値や業績等に与える重要性(マテリアリティ)に応じて濃淡を付けることや事業セグメントごとの情報開示、図表・グラフ・写真等を用いることなどにより分かりやすい開示に努めることなども求められる。
各論としては、例えば、事業等のリスクについて、抽象的な説明にとどまらず、リスクが業績に与える具体的な影響の程度や発生の蓋然性に応じて、経営者によるリスクの重要性判断について説明することを求めており、投資家による企業の将来性判断に資することが期待される。また、資本政策の開示も求められ、例えば、過剰な内部留保を抱えているだけなのか、設備投資資金としての需要があるのか、株主還元を実施するのかなど、経営者の認識・考えに関する説明内容如何によって、投資家の経営者に対する評価も変わり得るだろう。
<本原則のポイント>
経営目線の議論の適切な反映 |
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重要性(マテリアリティ) |
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資本コスト等に関する議論の反映 |
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セグメント情報 |
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分かりやすさ |
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出典:金融庁「記述情報の開示に関する原則(案)のポイント」《https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/03/02.pdf》を元に作成
3. 今後の展望
今後、本原則を踏まえて開示内容が充実してくると、経営方針やリスクについての経営者の考えを十分に示すことのできない企業が投資家から敬遠されるなど、投資銘柄の選別が進む可能性もある。
なお、金融庁は、企業開示の好事例(ベストプラクティス)を全体に拡げるための取組みを行うとともに、こうしたベストプラクティスを、必要に応じ、本原則にも反映していくことにより、開示内容の全体のレベルの向上を図ることも予定しているとのことである。
以上