◇SH0744◇ピクセル、書類送検に関するお知らせ 泉 篤志(2016/07/26)

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ピクセル、書類送検に関するお知らせ(13日)

岩田合同法律事務所

弁護士 泉  篤 志

 平成28年7月13日、ピクセルカンパニーズ株式会社(JASDAQ上場。以下「ピクセル社」という。)は、同社の子会社が運営支援等を行っていた民泊運営者に対する旅館業法違反の被疑事件に関して、当該運営支援等が実際には民泊運営そのものに該当するということで、ピクセル社及び上記子会社の代表取締役等合計6名と法人としての両社が、旅館業法違反(無許可営業)の疑いで東京地方検察庁に書類送検された旨公表した。

 近年、我が国における外国人旅行客の増加等によって、特に都心部における宿泊施設の不足が目立っている中、住宅(戸建住宅、共同住宅等)の全部又は一部を活用して宿泊サービスを提供する「民泊サービス」という新しいビジネスが出現している。上記ピクセル社の事案は、このような新しい「民泊サービス」に対する旅館業法違反(無許可営業)容疑であるが、そもそも「民泊サービス」においては旅館業法上の許可を取得する必要があるのか、許可が不要となるのはどのような場合か等についてあまり知られていないこともあるため、本稿においてその概要を解説することとする。

1 旅館業法

 まず、旅館業法においては、「一定の施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」(旅館業)を経営する場合に都道府県知事等の許可を得なければならないとされており(同法2条)、アパート等の貸室業と異なる点は、①施設の衛生上の維持管理責任が営業者にあると社会通念上認められること及び②宿泊者の生活の本拠とならないことである。この点、「民泊サービス」の多くは、個人が自宅や空き家の一部を有料で、かつ、比較的短期間の宿泊に供するものであることから、原則として上記旅館業に該当し、旅館業法上の許可が必要となる。

 なお、平成28年4月1日より旅館業法施行令1条3項が改正され、旅館業法の規制対象とされている簡易宿所の客室延床面積の最低基準が、「33平方メートル以上であること」から、「33平方メートル(法第3条第1項の許可の申請に当たって宿泊者の数を10人未満とする場合には、3.3平方メートルに当該宿泊者の数を乗じて得た面積)以上であること」に緩和され、「民泊サービス」における旅館業法の許可取得の促進が図られている。

2 国家戦略特別区域法に基づく特例

 上記のとおり、「民泊サービス」を行うにあたっては、原則として旅館業法上の許可が必要となるが、例外的に、国が定めた国家戦略特別区域における規制改革等の一環として、特定の区域における「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」(外国人旅客の滞在に適した施設を賃貸借契約及びこれに付随する契約に基づき一定期間以上使用させるとともに当該施設の使用方法に関する外国語を用いた案内その他の外国人旅客の滞在に必要な役務を提供する事業として政令で定める要件に該当する事業をいう。但し、実際に滞在するのは日本人でも外国人でも構わない。)を定めた区域計画が内閣総理大臣から認定された場合には、当該区域において当該事業を行おうとする者は、当該政令で定める要件に該当している旨の都道府県知事等の認定を受けることによって、旅館業法の適用を受けることなく、「民泊サービス」を行うことができる(国家戦略特別区域法13条)。当該政令(国家戦略特別区域法施行令12条)で定める要件の主なものは、以下の表記載のとおりであり、これらの詳細については関係自治体の条例によって定められることとなる。

 この一例として、東京都大田区においては、平成27年10月20日に「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」を定めた区域計画が内閣総理大臣から認定され、これを受けて同年12月7日に当該事業に関する条例が制定された上で、平成28年1月29日より上記都道府県知事等の認定を求める申請の受付が開始されている(同年6月28日現在で17施設が認定されている。)。

 本件においては、検察当局によって、ピクセル社の子会社による民泊運営者に対する運営支援等が「民泊サービス」そのものに該当すると判断されたわけであるが、ピクセル社の公表資料によると、かかる「民泊サービス」は東京都台東区内において行われていたようであり、同区は上記大田区のように「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」の認定を受けていなかったため、原則どおり旅館業法の許可が必要となるケースであり、故に今般の書類送検に至ったものと考えられる。

 我が国における「民泊サービス」は、2020年に開催される東京オリンピックに向けて今後益々増えるであろう外国人観光客の需要等とも相まって、個人のみならず企業にとっても大変魅力のあるビジネスであるが、上記のような旅館業法、条例等による規制の存在・内容につき十分認識し、場合によっては弁護士等の専門家に相談しながら、コンプライアンス違反とならないよう取り組む必要があるものと思われる。

 

「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」に認定されるための主な要件(国家戦略特別区域法施行令12条)

  1. ▶ 賃貸借契約及びこれに付随する契約(定期借家契約)を締結すること
  2. ▶ 宿泊期間が、7日~10日までの範囲内で条例が定める期間以上であること
  3. ▶ 原則として、一居室の床面積が25平方メートル以上であること
  4. ▶ 出入口及び窓は、施錠できるものであること
  5. ▶ 台所、浴室、便所及び洗面設備を有すること
  6. ▶ 施設の使用方法に関する外国語を用いた案内、緊急時における外国語を用いた情報提供その他の外国人旅客の滞在に必要な役務を提供すること

 

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