◇SH0075◇経産省、消費税転嫁対策特措法違反に対して公取委へ措置請求した旨を公表 青木晋治(2014/09/03)

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経産省、吉野家グループによる消費税転嫁対策特別措置法の違反行為に関して公正取引委員会へ措置請求をした旨を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 青 木 晋 治

 経済産業省は、平成26年8月20日、吉野家グループ(「株式会社吉野家資産管理サービス」、「株式会社北日本吉野家」、及び「株式会社中日本吉野家」をいう。以下同じ。)に対し、吉野家グループが支払う店舗の賃借料に関し、消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法(以下「特措法」という)第3条1号に違反する行為(減額及び買いたたき)が認められたとして、同法5条に基づき、中小企業庁が公正取引委員会に対し適当な措置をとるべきことを請求した旨の公表を行った。

 特措法では、「特定事業者」が「特定供給事業者」(取引を行う事業者が下記「特定事業者と特定供給事業者の関係」のAまたはBの関係にあるときをいう(同法2条1項及び2項)。以下同じ。)に対し、消費税の転嫁拒否等の行為(①減額・買いたたき、②商品購入、役務利用又は利益提供の要請、③本体価格での交渉の拒否)や報復行為を行ってはならないとされている(同法第3条)。

 さらに、これらの違反行為は、主務大臣又は中小企業庁長官による措置請求(同法5条)、その後の公正取引委員会による勧告・公表(同法6条)の対象となり得る。

特定事業者と特定供給事業者の関係(特措法第2条第1項、第2項)

 

特定事業者(転嫁拒否等をする側)(買手)

特定供給事業者(転嫁拒否等をされる側)(売手)

大規模小売事業者(公正取引員会規則)

①     前事業年度における売上高100億円以上である者

②     次にいずれかの店舗を有する者

  •   東京都特別区及び政令指定都市において、店舗面積が3,000㎡
  •   その他の市町村において、店舗面積が1,500㎡

大規模小売事業者に継続して商品又は役務を提供する事業者

右欄の特定事業者から継続して商品又は役務の提供を受ける法人である事業者

  •   個人である事業者
  •   人格のない社団等である事業者
  •   資本金の額又は出資の額が3億円以下である事業者

 

特定事業者の遵守事項(禁止される四類型)

 (ア) 減額、買いたたき(第3条第1号)

 (イ) 商品購入、役務利用又は利益提供の要請(第3条第2号)

 (ウ) 本体価格での交渉の拒否(第3条第3号)

 (エ) 報復行為(第3条第4号)

 

 経済産業省が公表したところによれば、吉野家グループは、複数の店舗所有者から店舗を継続して賃借しているところ、店舗所有者(賃貸人)の一部に対して、平成26年4月分及び5月分の賃借料を消費税率引き上げ分を上乗せして支払った後に、同年6月分の賃借料から上記4月分及び5月分の消費税率引き上げ分を減額し、さらに同年6月分以後の賃借料も消費税率引き上げ分を上乗せしない旨を通知していた。

 当該吉野家グループの行為について、中小企業庁は、特措法第3条第1号の規定に違反する行為(減額・買いたたき)であり、多数の店舗所有者(賃貸人)(約100者)に対して、減額及び買いたたきがなされていたと認定し、公正取引員会に対し措置請求をしたものである。

 ガイドライン(公正取引委員会「消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法、独占禁止法及び下請法上の考え方」)によれば、「既に支払った消費税率引き上げ分の全部又は一部を次に支払うべき対価から減じる場合」には、合理的な理由がない限り、特措法第3条第1号前段で禁止される減額に該当し得る旨が例示されており、吉野家グループが平成26年4月分及び5月分として支払った消費税率引き上げ分を同年6月分の賃借料から減額した行為はこれに該当すると考えられる。

 加えて、同ガイドラインにおいては、「対価を一律に一定比率で引き下げて、消費税率引き上げ前の対価に消費税率引き上げ分を上乗せした金額よりも低い対価を定める場合」について、合理的な理由がない限り、特措法第3条第1号後段で禁止される買いたたきに該当し得る旨が例示されており、吉野家グループが平成26年6月分以後の賃借料も消費税率引き上げ分を上乗せしない旨を通知した行為はこれに該当すると考えられる。

 以上の行為については、消費税分の減額や消費税分の対価の引下げであることを明示しなくとも、合理的な理由がない限り、減額・買いたたきに該当することになるとされているので(公正取引委員会「消費税の転嫁拒否等の行為に関するよくある質問」Q12)、消費税率引き上げと近接して対価の減額・引き下げを交渉する場合には注意が必要である。

 本件は、特措法第5条に基づく措置請求がなされた初めてのケースである。特措法においては、第3条違反を行ったのみでは直ちに刑事罰等が課されるわけではなく、刑事処分がなされる可能性は公正取引委員会等の求める報告を怠った場合や虚偽の報告を行った場合等に限られるが(同法第21条・第15条)、これらの措置請求やその後の公正取引委員会による勧告処分等がなされれば、刑事罰が課されないとしても当該法人等のレピュテーションの低下は避けられないので、従業員に対する研修を行うなど特措法違反の事実が生じないような体制を整備しておくことが事業者にとっては不可欠である。

(あおき・しんじ)

岩田合同法律事務所アソシエイト。2007年慶應義塾大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録。『新商事判例便覧』(共著、旬刊商事法務、2014年4月25日号~)、『Q&A 家事事件と銀行実務』(共著、日本加除出版、2013年)、『民事再生手続における取立委任手形にかかる商事留置権の効力』(共著、NBL969号、2012年)、「金融ADRから学ぶ実務対応」(共著、銀行実務2012年10月号)(共著、金融財政事情研究会、2014年)等著作多数。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>

1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

<連絡先>

〒100-6310 東京都千代田区丸の内二丁目4番1号丸の内ビルディング10階 電話 03-3214-6205(代表) 

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