金融庁、「フェア・ディスクロージャー・ルール・タスクフォース」(第2回)を開催
岩田合同法律事務所
弁護士 鈴 木 正 人
金融審議会は、2016年11月21日、市場ワーキング・グループ「フェア・ディスクロージャー・ルール・タスクフォース」(以下「市場WGTF」という。)(第2回)を開催し、金融庁は、同日、議事次第を公表した。
本邦では、適時開示前の内部情報を企業が第三者に提供する場合に当該情報が他の投資者にも同時に提供されることを確保するルール(いわゆるフェア・ディスクロージャー・ルール。以下「FDR」という。)は存在しない。この点、近時、複数の外資系証券会社においてアナリストが発行体の未公表の決算情報を入手して、当該情報(法人関係情報)を顧客に提供して勧誘を行ったことなどを理由に行政処分が下される事例が発生するとともに、主要国の多くがFDRを導入していることに鑑み、発行体側による特定の投資家に対する情報提供(selective disclosure)が課題となっており、2016年4月18日に公表された金融審議会ディスクロージャー・ワーキング・グループ報告では、国内でのFDRの導入について、具体的に検討する必要があるとの提言がなされた(下記URL15頁、16頁参照)。
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20160418-1/01.pdf
当該提言を踏まえて、同年10月21日に第1回市場WGTFが開催され、同年11月21日に開催された第2回市場WGTFでは、「発行者による公平かつ適時な情報開示を確保する」というFDR導入の意義が確認されたほか、FDRの具体的な内容(以下「本ルール」という。)が議論され、事務局より以下の提言がなされた。
まず、(1) 本ルールの対象となる情報の範囲は、決算情報や業務提携などの重要な情報を対象とし、臨時報告書等よりも時期や影響の程度において適切に拡張した範囲の情報が対象となるようにすること、本ルールの違反への対応は、例えば、情報の速やかな公表についての指示・命令といった行政的な対応によって、本ルールの実効性を確保することを基本とすることが適当であるとの提言がなされた。
また、(2) 本ルールの対象となる情報提供者の範囲は、発行体の役員、従業員、使用人並びに代理人のうち、後述(3)の情報受領者への情報を伝達する業務上の役割が想定される者に限定し、一方で、(3) 本ルールの対象となる情報受領者の範囲は、証券会社、投資運用業者、投資顧問業者、信用格付業者などの有価証券に係る売買や財務内容等の分析結果を第三者へ提供することを業として行う者、その役員・従業員や発行体から得られる情報に基づいて発行体の有価証券を売買することが想定される者に限定することが適当との提言がなされた。
さらに、(4) 情報受領者が発行体に対して第三者に伝達しない義務(守秘義務)及び投資判断に利用しない義務を負っている場合は、市場の信頼が害されるおそれは少ないと考えられ、公表を必要としない情報提供に当たること、また、(5) 情報の公表方法は、法定開示(EDINET)及び金融商品取引所の規則に基づく適時開示(TDnet)のほか、発行体のホームページによる公表を認めることが適当との提言がなされた。
既に、証券会社アナリストについては、日本証券業協会が2016年9月に制定した「協会員のアナリストによる発行体への取材等及び情報伝達行為に関するガイドライン」により、発行体への取材制限が課されているが、バイサイドの機関投資家、株主、マスコミには適用がない。FDRが導入された場合には、発行体側の義務として取材対応や情報開示対応の実務上の更なる対応が必要になると思われる。今後の市場WGTFの内容が注目される。
対象となる情報の範囲 | 投資判断に影響を及ぼす重要な情報 |
本ルールの運用・エンフォースメント | 情報の速やかな公表についての指示・命令といった行政的な対応 |
対象となる情報提供者の範囲 | 発行体の役員、従業員、使用人並びに代理人のうち、情報受領者への情報を伝達する業務上の役割が想定される者 |
対象となる情報受領者の範囲 | 有価証券の売買に関与する蓋然性が高いと想定される者 |
公表を必要としない情報提供 | 発行体に対して守秘義務及び投資判断に利用しない義務を負っている者に対して情報提供をする場合 |
情報の公表方法 | 法定開示(EDINET)、適時開示(TDnet)、発行体のホームページによる公表 |