◇SH0904◇実学・企業法務(第6回) 齋藤憲道(2016/12/01)

未分類

実学・企業法務(第6回)

第1章 企業の一生

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

(2) 資本金払込・役員選任など、会社の実体を形成(事業の詳細に関しては後述)

〔資本金払込〕

 株式会社の設立は、①株式会社の設立に際して発行する株式の全部を発起人が引き受ける発起設立か、②各発起人が設立時発行株式を1株以上引き受けたうえで、設立時発行株式を引き受けるその他の者を募集する募集設立の方法によって行われる。(会社法25条)

 発起人の不正を防ぎ、払込みを確保するために、金銭の払い込みは発起人が定めた銀行・その他法定の払込取扱機関[1]でしなければならない(会社法34条2項、63条1項)。

 募集設立の場合[2]は、払込取扱機関(銀行等)が保管証明義務を負って(会社法64条)株式払込金保管証明書を発行し、この証明書を払込みがあったことを証する書面(商業登記法47条2項5号)として設立登記申請書に添付する。ただし、発起設立の場合は、預金通帳の写し又は残高証明で足りる。

 2006年5月施行の改正会社法[3]で最低資本金制度[4]が廃止され、資本金が1円の株式会社の設立が可能になって以降は、手続きが簡易な発起設立が増えている。

 資本金1円の株式会社を設立することは可能になったが、実際の株式会社設立では、資本金の他に、公証人の定款認証手数料5万円、定款原本に貼付する収入印紙代4万円(電子定款認証にすれば不要)、登録免許税15万円(設立登記1件の最低額)、定款認証に添付する発起人の印鑑証明書の交付費、会社の印鑑作成費等を支払わなければならず、少なくとも合計26万円(電子定款認証の場合は22万円)強を準備する必要がある。

 なお、金銭以外の財産が出資される場合は、発起人が、公証人の定款認証の後に遅滞なく裁判所に検査役の選任を申し立て、裁判所が選任した検査役が必要な調査を行って目的物が適正に出資されていることを確認する(会社法33条1項、28条1号)。 

〔資本金の規模〕

 一般に、資本金の規模が大きいほど、会社の信用力が増すと考えられるようだが、実際には、資本金の規模の大小によって次のような得失があるので、これらを総合的に判断して資本金額が決められる。

  1. a. 対外的な信用力(銀行の貸付枠設定や公共入札では、資本金の大小が考慮される)
  2. b. 事業運営の健全性(固定資産と運転資金を、資本金と長期負債で賄う)
  3. c. 税制のメリットの享受(資本金1,000万円未満の会社は設立後約2年の消費税が免除、資本金1,000万円以下の会社は法人住民税の均等割りが1,000万円超の会社の約半分、資本金1億円以下の会社は接待飲食費を「800万円まで全額損金算入」するか「50%を損金算入」するかの選択制〈1億円超の会社は後者のみ〉、資本金1億円以下の会社は年所得800万円以下の部分の法人税について軽減税率を適用、資本金1億円以下の会社は外形標準課税の対象外)
  4. d. 会計監査人による監査の要否(資本金5億円以上〈又は負債200億円以上〉の会社は会計監査人の監査が必要)
  5. e. 下請法適用の有無(取引の内容ごとに、資本金規模を1,000万円・5,000万円・3億円の段階で区分し、親事業者と下請事業者のいずれかに当てはめる。公正取引委員会及び中小企業庁が書面調査・立入検査を行い、親事業者の違反行為について改善指導・勧告・企業名公表し、書面交付義務違反等があれば罰金を科す。)

(参考)
 2015年6月に、経営再建中のシャープが約1,200億円の資本金を1億円に減資する計画を発表した際に、政府がこれに異を唱え、同社は5億円に減資するに止めた。資本金が1億円以下であれば、外形標準課税の対象外となる等の税務上のメリットが見込まれ、また、資本金3億円超の会社との取引において下請事業者と見なされて保護されるが、同社はこれらのメリットを得ることができなかった。
 一方、吉本興業は、同じ2015年の9月1日付で資本金を125億円から1億円に減資している。

〔役員選任〕

 会社役員は、会社法が定める欠格条項(a.欠格事由に該当し、又は、b.資格要件を欠く者は役員になることができない)をクリアーできる者の中から選任する。

  1.  a. 欠格事由(会社法331条1項、333条、335条、337条)
    1. 取締役:法人、成年被後見人・被保佐人(又は外国法令上同様の者)、会社法・金融商品取引法破産法等に定める詐欺的罪を犯して刑の執行を終った日から2年を経過しない者等
    2. 会計参与:株式会社(又はその子会社)の取締役・監査役・執行役・支配人その他の使用人、業務停止処分を受けて停止期間を経過しない者、税理士法の規定により      所定の税理士業務を行うことができない者
    3. 会計監査人:公認会計士法により所定の計算書類の監査ができない者、株式会社の子会社(又はその取締役・会計参与・監査役・執行役)から公認会計士(又は監査法     人)の業務以外の業務により継続的報酬を受けている者(又はその配偶者)等
    4. 監査役:上記の取締役と同じ事由、株式会社(又はその子会社)の取締役・支配人・その他の使用人・その子会社の会計参与又は執行役
       
  2.  b. 資格要件(会社法333条、337条等)
    1. 会計参与:公認会計士・監査法人・税理士・税理士法人のいずれかであること。
    2. 会計監査人:公認会計士・監査法人のいずれかであること。

  取締役には、一般に、企業価値向上を実現する経営手腕が求められる。

 しかし、監査役及び監査委員会委員に求められる要件は漠然としている。企業不祥事が生じる度に監査機能を担う会社機関の権限が強化されてきたが、この機能を遂行するのに必要な資質に関する議論はあまり行われてこなかった。監査能力を持つ人材を、監査を必要とする業務に配置できなければ、企業の不祥事を防ぐのは難しい。

  1. (設立時の役員)
  2. ⅰ)設立時取締役・設立時会計参与・設立時監査役・設立時会計監査人の選任方法は、発起設立と募集設立とで異なる。
     発起設立の場合は、定款に定めるか、又は、発起人の議決権(設立時発行株式1株につき1個の議決権)の過半数で決定する(会社法38条、40条1項)。
     募集設立の場合は、創立総会の決議により定める(会社法88条)。 
  3. ⅱ)取締役会設置会社(指名委員会等設置会社を除く)における設立時代表取締役は、設立時取締役の過半数で決定する(会社法47条3項)。
     指名委員会等設置会社においては、設立時取締役がその中から過半数により設立時委員(指名委員会の委員、監査委員会の委員、報酬委員会の委員)、設立時執行役、設立時代表執行役を選定・選任する(会社法48条1項、3項)。

     
  4. (委任関係)
     設立時役員等は会社との委任関係にあるので、就任承諾を意思表示してその役に就く[5]


[1] 信託会社、商工組合中央金庫、農業協同組合、漁業協同組合、信用金庫等(会社法施行規則7条)

[2] 発起設立の場合は、資本金相当額を、発起人の個人口座に入金し、その残高証明書又は預金通帳の写しを添付すれば足りる。これにより、銀行等が審査等に要する時間や手数料(払込金の0.25~0.5%程度)が削減されるだけでなく、振込の事実を記帳した後は、出資金を引き出して事業資金として使用できる。

[3] 2005年6月制定、2005年7月26日公布。

[4] 会社法制定(2005年)までは、会社債権者保護を目的として最低資本金制度が採用され、資本金について株式会社は1,000万円以上(商法168条の4)、有限会社は300万円以上(有限会社法9条)とすべきことが義務づけられていた。

[5] 取締役会を置かない会社の代表取締役について、原始定款の本則に定めた場合や、創立総会で選定した場合は、就任承諾書を必要としないものと解される。(松井信憲『商業登記ハンドブック〔第3版〕』(商事法務、2015)98頁)

 

タイトルとURLをコピーしました