◇SH1800◇シンガポール:建設業界支払保全法(SOP法)に基づく裁定手続(アジュディケーション)について 青木 大(2018/04/26)

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シンガポール:建設業界支払保全法(SOP法)に基づく裁定手続(アジュディケーション)について

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 青 木   大

 

 建設請負業務に際しては、キャッシュフローの確保のため、発注者による出来高払い(Progress Payment)の支払をいかに適時に得るかというのが極めて重要となる。しかし、工事の遅れや施工状況への不満等を理由とするものを含め、発注者が支払を遅延する、あるいはその一部しか支払わないといった事態は日常的に起こり得る。そのような不払いを仲裁や裁判で争うことも可能であるが、それでは時間がかかりすぎる可能性があり、工期途中でそのような本格的な紛争を開始することに躊躇を覚える請負者も多い。そこで、請負者の簡易迅速な救済を確保するため、シンガポールにおいては、建設業界支払保全法(Building and Construction Industry Security of Payment Act、以下「SOP法」)に基づく「裁定(Adjudication)」制度が存在し、活発に利用されている。

 SOP法は2005年4月1日に施行された法律で、英国やオーストラリアで先行する同様の法制を参考に制定されたものである。裁定制度は契約上にその旨の規定がなくとも、あるいは契約上紛争解決を仲裁又は裁判に委ねると規定していたとしても、利用可能である点に特徴がある。

 裁定手続を利用したい請負者は、まず支払請求(Payment Claim)を発注者等の相手方に対して行う。相手方はPayment Claimを受領した場合、原則7日以内に回答(Payment Response)を行わなければならない。仮に支払を留保する場合には、Payment Responseに詳細な理由を記載しなければならず、相手方はそこに記載されなかった理由を後の裁定手続で持ち出すことができない。請負者がPayment Response受領後7日以内に当事者間で話し合いがつかなければ、請負者はその後7日以内にシンガポール調停センター(SMC)という機関に裁定の申立を行うことができる。裁定手続においては、中立的な立場の裁定人が両当事者の主張を検討し、速やか(裁定申立から原則3週間以内)に裁定判断を下す。裁定判断に対しては上訴(Review)が可能であるが、かかる上訴手続も迅速に進められる。また、裁定判断については、裁判所に取消を求めることも可能であるが、取消事由は管轄がないことや適正手続違反等の例外的な場合に限定されている。

 裁定手続の大まかなスケジュールは以下の通りで、原則的にはPayment Claimの提出から6週間程度、(上訴がなされた場合には10週間程度)で執行力のある裁定判断を得ることができる。

 

  期限等 イベント
X Payment Claim提出
①から7日以内(X+7) (※契約上の期限の定めがある場合には21日を上限としてそれに従う。) Payment Response提出
②から7日間(X+14) 和解交渉期間
③から7日以内(X+21) 裁定申立(Adjudication Application)
④から7日以内(X+28) (1) 裁定人選任 (2) 答弁書(Adjudication Response)提出
⑤から14日以内(X+42) 裁定判断(Adjudication Determination)
⑥から7日間(X+49) (1) 裁定判断の支払、又は (2) 上訴(Review)申請
⑦から7日以内 (X+56) (上訴が申し立てられた場合)上訴裁定人の選任
⑧から14日以内(X+70) 上訴裁定判断(Review Determination)
⑨から7日間(X+77) 上訴裁定判断の支払期限

 

 裁定手続の対象となる出来高払いは全ての「建設業務(construction work)」等に関するものと規定されている。「建設業務」には、建物の建設に加え、産業用プラントを含む土地の一部を構成することとなる構築物の建設、修理、補修等の業務一般や、冷暖房設備等の据付け等が広く含まれる(ただし一定の居住用物件に関する業務等は除外される。)。また建設業務に関連する物やサービスの納入についても、裁定手続の対象となる。なお、裁定手続が利用可能なのは、これらの業務を請け負う者全てであり、当事者が建設業者であるか否かを問わない。

 なお、裁定手続はあくまでも仮の救済を与えるものであり、裁定結果に不満な当事者は契約上の紛争解決条項に則り更に裁判や仲裁で争うことができ、そこでの判断が終局的なものとなる。しかし、裁定手続で勝利すれば請負者は一旦認められた支払を受けることができ、発注者の側が逆にその支払を取り返すために裁判や仲裁で時間をかけて争わなければならず、いわば攻守が逆転することになり、そのメリットは請負者側にとって大きい。また裁定手続では請負者の請求額を超えて相手方の反対請求が認められることはなく、請負者が負けたとしても得られる金額がゼロになるだけで、請負者側が(裁定費用を除き)支払を求められることはなく、請負者にとってよりハードルの低い紛争解決手段といえる。また上述のとおり裁定手続には厳しい時間制限があり、特にPayment Responseについては極めて短期間での対応を要するなど、発注者側の負担が大きく、裁定手続の開始をきっかけに和解交渉が大きく進展する場合もよくみられる。

 

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