◇SH0910◇冒頭規定の意義―典型契約論― 第34回 契約法体系化の試み(3) 浅場達也(2016/12/06)

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冒頭規定の意義
―典型契約論―

契約法体系化の試み(3)

みずほ証券 法務部

浅 場 達 也

 

Ⅱ リスクの高低による体系化

1. 基本的考え方

(1) 北川善太郎博士の体系の特徴を踏まえて

 第32回、第33回で検討した北川博士の体系の3つの特徴それぞれに対応する考え方として、本稿では、次の3点が重要であると考えている。

ア リスクの高低による体系化
 北川博士は、「問題」を中心に体系化を考えたが、契約書作成者にとっては、さまざまな「問題群」の中でも、自らに関連するリスク(=自らに何らかの制裁が課される可能性)を検討することの重要性は特に高いと考えられる。「小括」の3. で、「契約各則における優先順位」を検討したが、それらは同時に、「体系における重要性」であるといえよう[1]

 「リスクの高低による体系化」は、何よりも、契約書作成者にとっての「実用性」に着目する点に特徴があるといえるだろう。すなわち、実際に契約書を作成する際に(「ポイント(1)」)留意すべきリスクを高い順に並べるという点で、契約書作成者にとって、実際的な体系という意味を持つだろう(「ポイント(17)」)。

ポイント(21) リスクの高低による体系化
「契約法の体系化」は、実際に契約書を作成する際に考慮すべき「リスク=何らかの制裁が課される可能性」の高低を尺度として、なされるべきである。

イ 諸法横断的な視点

 北川博士の体系においては、「問題」に対応する規律が私法の中に散在することから、私法全体を対象として、規律を顕在化させようとしていた。本稿においては、対象を民法に限らない点は同じだが、私法に範囲を限定せず、あらゆる制裁を考慮しなければならないと考える点で、北川博士の体系化とは異なっている。例えば、金銭消費貸借契約書の作成にあたって、出資法(特別刑法・経済刑法に含まれよう)の制裁の検討を失念していましたというわけにはいかないことについては、「ポイント(5)」で述べたとおりである。

 冒頭規定を通じて、諸法の多様なリスクが、契約書の中に持ち込まれる。そうした多様なリスクには、例えば、「預金保険の保護対象とならないこと」といった(相対的に)軽いリスクも含めて考える必要がある(→第4回注[5] を参照)。そうしたリスクも、われわれの契約行動に影響を与えるからである。それら多様なリスクを個別に明確化した上で、それぞれのリスクの回避・最小化を図ることこそが、契約法学の重要な任務の1つだといえるだろう。その意味で、契約書を作成する際に遭遇するあらゆるリスクを視野に入れるためには、「諸法横断的な視点」が不可欠であるといえよう。

ウ 素材としての契約文例
 契約法に関する議論は、極力、具体的な契約条項を素材としてなされる必要がある。北川博士が例示する「中古車の売買基本契約書」や「株価ファイルの提供に関する約定書」は、このことを示していた。

 本稿においても、例えば、出資法5条1項の「金銭の貸付けを行う者」の内容を当事者の合意によりどこまで変更できるかの検討にあたって、【契約文例2】という具体的な文言を素材とした。リスク(=何らかの制裁が課される可能性)を検討していくためには、契約文例、そして冒頭規定を含む契約各則の諸規定、これに加えて関連諸法の規定等を、個別具体的に検討することが、どうしても必要となる。特に契約各則を中心とする契約規範に関しては、「合意による変更・排除がどこまで可能か」を検討していく上で、個別の契約文言(=合意内容)と諸規定の具体的文言の比較が不可欠といえるだろう。その意味で、素材としての契約文例無しに「契約各則の各規定の優先順位付け(=合意による変更可能性の程度の検討)」を行うことは、極めて困難であるといえよう。



[1] このことは、以下での「契約法の体系」が、「契約法教育における(修得すべき)優先順位」と同じ尺度に基づいて考えるべきことを示している。

 

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