◇SH0925◇最一小判(大谷直人裁判長)、私大教員の有期労働契約が期間満了後無期労働契約になっていないとされた事例 荒田龍輔(2016/12/14)

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最一小判(大谷直人裁判長)、私立大学の教員に係る期間1年の有期労働契約が3年の更新限度期間の満了後に期間の定めのないものとなったとはいえないとされた事例

岩田合同法律事務所

弁護士 荒 田 龍 輔

 

1.雇止め法理と無期労働契約への転換

 「雇止め法理」とは、有期労働契約が反復更新により無期労働契約と実質的に異ならない状態である場合、又は期間満了後の雇用継続に合理的期待が認められる場合において、雇止めが客観的に合理的理由を欠き、かつ社会通念上相当でないときは、その効力を否定し従前の有期労働契約が更新されたとするものである(労働契約法19条)。他方で、有期労働契約が無期労働契約に転換されるためには、単に雇止めの効力が否定されることでは足りず、同一使用者との2以上の有期労働契約が通算5年を超えて繰り返し更新された場合に労働者の申込みにより無期労働契約に転換する旨規定する同法18条の適用を受けるか、あるいは労働契約に基づく必要がある。

 最高裁平成28年12月1日判決(以下「本判決」という。)は、(A)雇止め法理と(B)無期労働契約への転換の適用可否を判断しており、今回はこれらの点を検討したい。

 

2.本判決(時系列は別表参照)

 Xは、Y学園との間で短期大学講師として雇用期間を1年、かつ更新期間の限度を3年とする有期労働契約(契約職員)(以下「本件労働契約」という。)を締結したところ、雇用期間満了日直前に雇止め通知を受けたため、Xは本件労働契約上の地位確認及び雇止め後の賃金支払請求訴訟を提起した。その後、Y学園は、Xに対し、仮に本件労働契約が更新されたと判断された場合に備えて、左記雇止め通知に加え2回雇止め通知を行った(更新限度期間である3年の終了日を以て契約を終了する旨の最終の雇止め通知を以下、「本件雇止め」という。)。

 判断の前提とされた主な事実関係は以下のとおりである。

  1.  •  Y学園契約職員規程の内容
  2.  :雇用期間は、契約職員が希望し、かつ、更新の必要が認められる場合は、3年を限度に更新することがある。但し、在職中の勤務成績が良好であることが必要(以下「更新限度規定」という。)。
  3.  :勤務成績を考慮し、Y学園がその者の任用を必要と認め、かつ本人の希望があった場合、契約期間満了時に期間の定めのない職種に異動することができる(以下「無期転換規定」という。)。
  4.  •  平成18~23年採用の助教以上の契約職員のうち、平成23年度末時点で3年超の勤務者は10名であり、うち8名の労働契約は3年目の雇用期間満了後に無期労働契約に移行している。

 原審は、本件労働契約について、Xの認識や契約職員の上記更新実態等に照らし3年間は試用期間であり、特段の事情のない限り無期労働契約への移行に係る期待に客観的合理性があるとして雇止めの効力を全て否定しその更新を認め(A)、かつXから無期労働契約への変更申込みがなされており、これを拒絶する相当な事情がないため、平成26年4月1日から無期労働契約に移行した(B)としてXの請求を認容した。

 これに対し、最高裁は、①更新限度規定及び無期転換規定によれば、契約職員の無期労働契約への移行はY学園が必要と認めた場合と明確に定められており、Xもこれを十分認識した上で本件労働契約を締結したこと、②大学教員の雇用は一般に流動性が想定され、3年の更新限度期間満了後に無期労働契約に移行しない契約職員も複数人いたこと等の理由から、本件労働契約の無期労働契約への移行はY学園の判断に委ねられるとし、本件において無期労働契約への転換を否定した(B)。その他、本件においては、労働契約法18条の要件もXは満たしていないとして、結論として、本件雇止めにより平成26年3月31日に終了したと判断した(A)。

 

3.考察

 上記のとおり、原審は雇止め法理を適用するとともに無期転換規定に基づく本件労働契約の無期転換を認めており、他方で、本判決は、無期労働契約への転換を否定するとともに、(本件雇止め以前の過去2回の雇止めの効力は否定されることを前提に)本件雇止めに対して雇止め法理を適用することもしておらず、原審と本判決では雇止め法理と無期労働契約への転換に係る評価が異なる。

 かかる判断の違いの理由について櫻井龍子裁判官の補足意見が示唆している。すなわち、雇止め法理は有期労働契約の更新時に適用するものとして形成・確立され、無期労働契約転換の場合を想定しておらず、継続更新への期待と無期労働契約転換への期待に係る合理性判断の基準には大きな差異があり、無期労働契約転換は正社員採用の一種とも解し得るのであり、有期労働契約が試用期間的に先行しても使用者側に一定範囲の裁量が留保されると思われる。原審は、このような雇止め法理と無期労働契約の転換の相互の関係について留意が不十分であったことを、本判決は問題視したとも思われる。

 本判決は、従前の判例・学説等と大きく異ならず、いわゆる事例判決であるが、更新限度条項等の存在する場合の雇止め法理と無期労働契約への転換の適用可否を検討するにあたり、実務上参考になると思われる。

以上

 

 

別表 
【本判決の時系列】
 H23.4.1 (~H24.3.31) X雇用(1年間の有期労働契約・Y学園運営のA短期大学の講師(契約職員))
 H24.3.19   Y学園からXに対する本件労働契約の不更新通知
 H24.11.6   本訴訟提起
 H25.2.7     Y学園からXに対して、平成24年3月31日で本件労働契約が終了していないとしても
        同25年3月31日を以て終了するとの通知
 H26.1.22   Y学園からXに対して、本件雇止めに係る通知の実施
 H26.2.27   福岡地裁小倉支部でX勝訴判決(Y学園控訴)
 H26.12.12 福岡高裁で控訴棄却判決(Y学園上告受理申立て)
 H28.12.1   本判決

 

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