◇SH3718◇ベトナム:労働法Q&A 団体交渉と情報提供義務 澤山啓伍(2021/08/18)

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ベトナム:労働法Q&A 団体交渉と情報提供義務

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 澤 山 啓 伍

 

  1. Q: 今般、当社の労働組合から、当社内での食事制度に関して話し合いをしたいとの要求を受け取りました。当社として、これに応じる必要があるでしょうか。また、この話し合いの中で、当社が提供する食事の原価を開示する必要があるでしょうか。
  2.  
  3. A: ベトナムの製造業の職場では、会社が提供する食事に対する満足度が労働者の労働意欲や離職率に大きく影響しますので、このような要求にはよほどの事情がない限り応じるべきかと思いますが、ここでは法律上の必要の有無という観点からご説明したいと思います。

 

1. 団体交渉の内容

 まず、日本では、労働組合が、代表者を通じて、使用者と、構成員たる労働者の労働条件その他の待遇、または当該団体と使用者との集団的労使関係上のルールについて行う交渉を「団体交渉」といい、日本国憲法や労働組合法で労働者の団体交渉権が保障されています。

 ベトナムでも、同様の団体交渉制度が労働法で規定されており、以下のような事項が団体交渉の対象になるものとされています(労働法第67条)。

 

  1. ① 賃金、補助、昇給、賞与、食事その他の制度
  2. 労働水準及び労働時間、休憩時間、時間外労働、シフト中の休憩
  3. ③ 労働者に対する雇用の保障
  4. ④ 労働安全・衛生の保障、就業規則の実施
  5. 労働者代表組織の活動の条件・手段、使用者と労働者代表組織との関係
  6. 労働紛争予防・解決の制度・方法
  7. ジェンダー平等の保障・妊娠出産の保護・年次休暇、職場における暴力及びセクシャルハラスメントの予防・対応
  8. 一方当事者又は両当事者が関心を有するその他の内容
  9. (下線部は新労働法での追加部分)

 このうち、新法で1.に「食事その他の制度」が明示的に加えられたのは、近年主に工場で提供される食事を巡る労使間での紛争がいくつか報道されていたことに起因するのではないかと思われます。

 

2. 団体交渉権を有する組織

 団体交渉は、使用者と基礎レベル労働者代表組織(社内労働組合及び新法で新たに認められた労働総同盟傘下ではない労働者組織)との間で行われるものですので、ご質問にある要求が、基礎レベル労働者代表組織以外から寄せられたものである場合には、使用者が団体交渉としてこれに応じる法的義務はありません。また、社内に複数の労働者代表組織がある場合には、その中で最も構成員数が多い組織が団体交渉権を有しますので、それ以外の代表組織の代表者からの団体交渉の要求についても応じる義務はありません。

 

3. 団体交渉の当事者

 団体交渉権を有する労働者代表組織からの団体交渉の要求があった場合、使用者は、これを拒否することはできず、要求を受けてから7営業日以内に、交渉の場所、日時について当事者と合意し、30日以内に交渉を開始しなければなりません(法第70条第1項)。

 旧法では団体交渉の期間について特段の規定はありませんでしたが、新法では原則として交渉開始から90日間で交渉を終えるものとしています(法第70条第2項)。もちろん、この期間中に何らかの合意に達しなければならないということではなく、90日以内に両当事者間で合意に至らなかった場合には、団体交渉は不調となります。この場合、この紛争は「利益に関する集団労働紛争」となり(法第179条第3項)、労働調停人による調停手続を行い、それでも解決しなければ、労働仲裁評議会による仲裁又はストライキの実施に至ることになります(法第195条第2項)。

 

4. 情報の開示義務

 法令上、使用者には、団体交渉の過程において、営業上の秘密・技術上の秘密にかかる情報以外の、企業の範囲内の生産・経営活動の状況その他の交渉の内容に直接に関連する内容に関する情報を提供する義務が負わされています(法第70条第3項)。個々の事情にもよるかと思いますが、会社が提供する食事の原価が営業上の秘密に該当すると言える場合は限られていると思いますので、そうであれば団体交渉の過程で当該情報の提供を求められた場合には、これを提供する必要があるものと考えられます。

 


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(さわやま・けいご)

2004年 東京大学法学部卒業。 2005年 弁護士登録(第一東京弁護士会)。 2011年 Harvard Law School卒業(LL.M.)。 2011年~2014年3月 アレンズ法律事務所ハノイオフィスに出向。 2014年5月~2015年3月 長島・大野・常松法律事務所 シンガポール・オフィス勤務 2015年4月~ 長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス代表。

現在はベトナム・ハノイを拠点とし、ベトナム・フィリピンを中心とする東南アジア各国への日系企業の事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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